第48話 朝がやってくる
「おのれ……!」
赤黒かった粘膜は破れ、壊死した細胞が液体となって地面へ流れ出す。
呻きながら、メッカの体は小さくなっていく。
「人間如きが……! 何故だ!! 魔法学士を圧倒し、冒険者の魔法すらも通じないこの私が何故……!」
彼はここまで入念に準備を進めてきた。
最大の脅威となる冒険者ギルドを偵察した、メルクの全体像を掴むべく町中を隈なく探索した、この土地を暗君が治めている事をり、そして必ず騒動の足を引っ張るだろうと敢えて無視した。
彼の行動全ては、計算の上に成り立っていた。だからこそ、メッカには分からない。
レンという異物が分からない。
「何故……魔法も使えぬ矮小で、惰弱な存在が……私を……!」
「……貴方の言う通り、僕個人は弱い存在かもしれない」
3メートルもあったメッカの体は、レンの腰の高さ程まで小さくなっている。
レンは、そんなメッカに対して警戒を怠ることなく姿勢を落とす。いつでも”穿打”を放てる体勢だ。
「そんな惰弱な僕が、こうして貴方を追い詰められたのは、サリーやアルド、スミスにノエル、兵士や冒険者たち……。他の人間の助けがあってこそだ……」
「他の、助け……?」
メッカには理解できない。
この商業都市で唯一メッカを追い詰めたのは魔法学士のサリーのみ。
その他の有象無象はもはや敵ではなかった。
「そうさ。人間は誰もが弱さを抱えて生きてる。だからこそ助けあって、信頼しあう。それこそが”人間の力”だ。僕を助けてくれた仲間達、君を仕留め損なっても決して逃げ出さなかった冒険者達、今も住民を守ために必死になってる兵士達。みんな、支え合って、助けあって、信頼し合っている」
メッカの心に何かが思い当たる。
メッカは今まで受けてきた他の魔人達からの差別、それらに対する反骨心で魔王継承権も手に入れたと思っていた。
だが、レンの言葉を聞いて一つの疑問が起きる。
”その原動力は本当に反骨心だけだったのか?”
彼は崩れゆく体を揺らしながら、思考した。計算ではなく、思い耽った。彼自身の人生を。
そして、思い出す。
それは他種族から投げられた屈辱的な言葉などではない。
同族から贈られた信頼、栄誉を、期待の言葉を。
(そうか……私は、私もまた……助けられていたのか……)
メッカの体組織が瓦解し始める。
もはや元の体を再生することすら叶わない。
「……矮小だったのは私の方か……どうやら、あの差別主義者共と同じことをしていたようだ……」
彼の終わりの時は近い。それを察したレンは、顔を曇らせる。
「……もう、逝くのかい……?」
「ああ…………何故そう暗い顔をする……私は魔人だぞ……人間ならば喜ぶものだ……」
「同じ命にかわりないでしょう……? ごめん、手加減なんて出来なかった……貴方はそれだけ強かった」
(この期に及んでこの人間は……もはや欠陥だな……いや……)
「……それが貴様の”弱さ”か。なるほど……人間とは、面白い……惜しむらくは、もっと早くに気が付けていれば……」
「……」
メッカの体は完全に崩れ、もはや形を残すのは拳ほどの大きさのみ。
絶え絶えになりながらも、彼は最後に言った。
「……勇者よ……せめて最後に教えてやろう……魔法都市へ行け……そこに、次の鍵があるはず……」
「……! 待って! 何で魔法都市に!?」
メッカなりの感謝だった。それきり、もはや音を出す気管すら生成出来なくなる。
(ああ……あわよくば、次は……助けあえる……仲間達と……、人間と……)
コアにヒビが入り、メッカの意識は仄暗い闇へと落ちていった……。
(……共に歩むのも悪くない……)
◇
空が赤らみ、地平線から太陽に端が現れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふぅ……終わったみたいね♡」
「……あんたの吐息は気色悪いからやめてくれないか……」
そう呟いて、ガッドはドサリ! と地面に倒れ込んだ。
ガッドとエミーの周りには切り落とされた触腕が積み上がっている。
真っ黒に焦げた大地に得体の知れない触腕が重なっている光景は地獄のようであった。
その中にはガッド以外の倒れ伏している冒険者も。
「さて」とエミーはメッカの本体がいた場所へと目を向ける。
「どうやら勇者さん、やってくれたみたいね……♡」
彼の視線の先に、レンの姿があった。よろよろとエミーの方へ歩いてくる。
「やあ……」
「お疲れ様♡ あのスライムは?」
「倒したよ……」
力なく答えるレンにエミーは膝をつく。
「そう……! 勇者レン殿、冒険者を束ねるギルドマスターとして、いえメルクのいち住民として、お礼をって……!」
エミーのセリフが言い終わる前に、レンの意識が途絶える。
突然前へ倒れ込むレンを、ちょうど跪いていたエミーが両手で咄嗟に支えた。
実に不格好な体勢である。
「ちょっと……! いい事言おうとしてたのに……! 倒れるならせめて抱きとめさせてよ!!!!!」
個人的な欲望も吐露しながら、エミーの両腕が小刻みに震えている。実を言うと、止め処ない触腕の猛攻を魔法なしで乗り切った彼の体は、疲労困憊であった。
なので、レンの体重を支えるだけでも結構キツイ。
「あ〜〜もう!! 誰か〜〜ちょっとぉ〜〜!!」
周りに倒れる冒険者に助けを求めるが
「……エミーさん、生きてたんですね……よかった……」
「あ〜〜。エミーさん、おはようございます……おやすみなさい……」
全員限界である。もはや起き上がる力もない。
「やだもう……! アンタら鍛え方が甘いのよぉ!」
そう言いつつも、エミーはとうとう力つきた。
レンの前に倒れ、支えを失って落ちてくるレンを背中で受け止める。
「ぐへっ……!」
空は白んでいき、メルクに朝がやってくる。
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