第46話 ある冒険者Aの証言
「その光景はあまりにも異様でした」
商業都市メルクの冒険者ギルドに所属するA氏。
彼は先の巨大スライム騒動の最中、最前線にて戦っていた冒険者の一人である。
「あのスライム……とんでもない奴でした。メルクの最高火力の『メルク・グリッター』を受けてなお、冒険者数十人をたった一体で圧倒してたんですから……」
身振り手振りを交えながら、A氏は当時の出来事を語ってくれた。
彼の座る椅子の横には、重厚な作りの片手剣と盾。
ーー当時もその武器を?
「え? ええ。なにぶん貧乏冒険者なもんで、この武器を長く使ってます。だけど、スライムには通用しないんです」
A氏は片手剣を握って見せる。
「スライムに物理攻撃は通用しない。これは冒険者じゃなくても知っているでしょ? アイツらの体は水っぽすぎてどんな攻撃もすり抜けちまう。だからこそ、魔法攻撃しかスライムを倒す手段はないんです」
A氏は当時の記憶を思い出し、悔しそうに俯いた。
「……?…………だから異様な光景だったんですよ。あの元勇者は魔法どころか武器すら持っていなかった。でも、俺は確かに見ました。ぶっ倒れて、意識が朧げではありましたが、”それ”は間違いなく起こりました……」
A氏は剣を仕舞うと、両手を開いて見せてくる。
「拳は握っていませんでした。襲いかかってくる触腕を、こう、まるで親が子供を躾るみたいに……叩いてたんです。そう、たったそれだけ」
彼の掌が空を切った。
「バカみたいでしょ? ただ叩くだけって……でもね、これが効いてるんですよ……!」
A氏自身も信じられないという表情を見せるが、それを語る彼の目は真剣そのもの。
「……何にって! 話聞いてました!? スライムですよ! スライム! さっきも言った、物理攻撃なんて全く通用しないはずの、ス・ラ・イ・ム!」
興奮のあまり、A氏は椅子の足を引きずって立ち上がる。
その勢いで、脇に退けてあった片手剣が床にガシャン、と落ちる。
「とにかく、俺が見たことは真実です! あの元勇者の打撃は間違いなくスライムに効いてました……! どうしてかは分からないけど……!!」
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