第45話 最後の悪足掻き
橙色の輝きがスライム、メッカ体内で弾ける。その光に驚き、メッカは思わずレンを吐き出した。
「な、なんだ今のは……」
突然の発光に体内で魔法を使われたかと焦るメッカ。一方のレンは落ち着き払った様子で再び立ち上がる。
「ありがとう……ルイス。これでまた分かったよ……。どうして僕がここに立ってるのか……」
レンは手の内の鍵を握りしめ、涙を流す。
夜風がその涙を滑らせ、空に溶かすように吹いた。
「こけおどしか……いや貴様、鍵の封印を解いたな……!」
「……その通りだよ。君たちが持ってるこの鍵……一体何なのさ……!」
「…………」
メッカは赤黒い体をうねらせながら、レンの質問には答えようとしない。
まるで何かを思案しているように、静かだった。
「答えろ!!!」
レンは地面を踏み、構えを取り直す。
やがてメッカは、スライムには存在しない口を開いた。
「……知った事か。どう計算しても貴様に勝算はない。ならばせめて、静かに、速やかに死んでくれ」
その瞬間、レンの周囲の地面から4本の触腕が飛び出した。
「計算上、これが最も効率的。この触腕は戦闘に特化している。スピード、パワー共に他の触腕の比ではないぞ……」
「……!!」
レンはその殺気を恐れ、竜歩で緊急回避した。しかし、四本の内の一本がレンを真っ直ぐに追う。
「この!」
”竜歩”の不規則なステップで触腕を翻弄するも、明らかに通常の触腕とは速度が違う。
一本から逃れるので精一杯だ。しかも、触腕はもう3本ある。
案の定、残り3本がレンに襲い掛かった。
限界を超えた竜歩の駆動。それでもジワジワと追い詰められ、とうとうレンは逃げ場を失った。
「くっ……! 何か手はないのか!?」
新たな口伝を思い出したとはいえ、物理的な攻撃である以上、スライムに通用するはずがない。レン自身、そう痛感していた。
そもそもメッカの体内から”記憶の鍵”を見つけ出し、記憶を思い出すという事自体が賭けだった。さらにそこから、スライムを倒す方法を見つけ出すなど、夢のまた夢である。
レンもそんな事は分かっていた。それでも、僅かな可能性に賭けるべきだと思った。
だからこそ、ここにいる。
触腕の一撃が、レンの頬をかすめる。
一筋の血が垂れるも、彼の目は死んでいない。
「何故諦めない……どう足掻いても貴様に勝ち目はないと、分かっているだろう……」
「そうなんだけどさ……思い出しちゃったから……ルイスの言葉を……」
『勇者ならどこまでも足掻きなさい!!』
レンの目前で触腕が揺らめく。
警戒しながらも、レンの頭には、愛しいルイスの声が響く。
『どんなに絶望的な状況でも、絶対に諦めない。それが勇者よ!!』
「出来る事がまだあるハズだから……」
構える。
手は開き、上段に構え、中下段を広くとる。
『アンタを信じてる奴がここにいるの! 簡単に諦めないで!!!』
今となってはサリーやミルコだけではない、アルド、スミス、ノエル、冒険者達もだ……。
皆、誰かを信じて、誰かのために戦った。
(だから僕も……!)
「そうか、ここまで計算を狂わせた貴様だ、私も容赦はしない。今度こそ、死ね……」
メッカの声が響いた瞬間、一本の触腕がレンの腹を貫こうと突進した。
「この技、果たしてスライムに効くのか……ぐううう!!!!」
半身を逸らし、触腕に右手を回す。
レンの腕が回りきらないほど、触腕は太い。
それでもその勢いは止められない。
レンは触腕を捕まえたまま、足元を引きずられる。
「何をしようと無駄だ!!」
「いいや! まだこの口伝を使っていない……!! 僕は最後の最後まで、絶対に諦めない!!!!!」
右腕に力を入れたまま、天高く左腕を上げる。
「二代口伝!! 穿打!!!」
捕まえた触腕に手刀をたたき込んだ。
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