第37話 メルク・グリッター
魔王継承権第6位、魔王軍幹部ラクーン・スライムのメッカ。
転移のゲートによって魔人領から召喚した大量のスライム分体がメッカの体を教会を軽々と取り込むほどに巨大にさせた。そして今、彼を取り囲んでいる冒険者たちをあざら笑うように、そびえている。
対する冒険者たちのリーダー、ギルドマスターのエミー・リンクスは腕を組んで目の前の怪獣を睨み上げる。
ギルドを破壊され、街を混乱に陥れ、親友のサリーをここまで追い詰め傷つけた相手を。今にも蹂躙せんとそびえるメッカに明確な敵意を持って。
戦闘は、何の合図もなく始まった。
メッカの触腕が無数に伸びて、四方を囲んだ冒険者達に襲いかかる。それを彼らはパーティごとに対処した。
前衛が猛スピードで迫る触腕を受け止め、切り落とす。後衛が魔法によって火球や雷撃をメッカ本体へ飛ばす。
しかし、あまりにも巨大すぎるその体積。どの魔法攻撃も一瞬のうちに消え去ってしまう。まるで湖に小石を投げるような頼りなさだ。
それでも両者の攻防は一進一退。前衛の冒険者は腕利きが揃っており、触腕の攻撃を尽く退けている。
一方のメッカも、無数の魔法攻撃を受け続けているが、ものともしていない。
「……ジリ貧ね、これじゃ」
次々と襲いかかる触腕を爆破しながら、エミーはそう呟いた。
爆発によって頬に飛び散ったメッカの粘液をぬぐい、エミーは動く。
「作戦変更! こんなチマチマやってたら体力が持たないわ! アレを使うわよーー♡」
そう叫び、指先に魔力を込めた。すると、彼の背後で火球を放っていた冒険者が声を上げた。
「エミーさん! 城主の許可はーー!?」
「そんなのいいのよ! スライム相手ならアレしかないわーー! それにね……!」
指先に込めた魔弾が天を舞う。
メッカの頭上ほどの高さまで上がると、爆散し、青い花火となってメルクを照らした。
「それくらいやらなきゃ、私も納まりがつかないのよ……!」
青い花火。
それはこの場にいる全冒険者に対する、明確な指令。そしてメルク住民にとっては警告だった。
「そうかぁ! エミーさん、やる気だな!!」
「おっしゃ! 魔力を通すぞ! 前衛、編成変えるよーー!」
そこからの冒険者達の動きは早かった。前衛は触腕に応戦しながら、後衛の冒険者達はメッカに対する魔法攻撃を中止し、それぞれ祝詞を唱えて魔力を高めていく。
それを見たメッカはすぐさま後衛の魔法使いたちに狙いを定めた。
「ふむ。これは良くない……」
メッカが呟くと触腕を増やし、地中からの攻撃も加えて祝詞を唱えた者を優先的に攻撃する。
しかしそれでも、冒険者達の連携の方が一枚上手であった。
パーティの垣根を越え、前衛同士での攻防の穴を埋め合う。付与魔法をメインとする冒険者達で地中攻撃のタイミングを図り、前衛・後衛に的確な指示を出す。
一人一人の働きが、結果的に共通の目的を持った力として機能する。
その目的とは、目の前の魔人、メッカの打破、メルクの防衛、住民を家族を、愛する者たちを守ること。
「舐めんじゃないわよ、魔人。いかにアンタらが強大な力を持っていても、人間の作り出す”連携”には敵うわけないっての♡」
『女神、アルペウスよ! 我らの旅に栄光を与えたまえ!』
エミーが祝詞を捧げると、彼の体に光が満ちる。そして光は、天空へと真っ直ぐに伸びた。
それをきっかけに、メッカの周囲を囲むように、6本の光の柱が天に伸びた。
「これは……複合魔法!? まずい……!」
都市中から遠く、歓声が聞こえる。それは、避難を余儀なくされたメルク住民の吠えるような声。
彼らは知っている。青の花火と6本の光の柱が示す意味を。
「魔人……これが人間の、メルクの怒りよ!! 食らいなさい!!!」
「くっ……! こんなもので……! 私を……!」
エミーの詠唱と同時に、メッカ囲む魔法使い達も唱える。
『『『メルク・グリッター!!!』』』
莫大な光が、メッカに放たれた。
魔法陣が煌き、真昼のような光がメルクを照らす。
「なーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
凄まじいまでの破壊と輝きが、爆音と共にメルクに響き渡り大地を、都市を揺らした。
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