第34話 パニック
「うわ!! 来るぞ! 早く進め!!」
「押すな! 詰まってんだよ!」
「痛い!」
「おい!! 前は何やってんだ!!!」
住民達の怒号や悲鳴が渋滞している。
巨大なスライムがすぐ近くまで来ているのだ、今すぐにでも逃げ出そうとも、前が動かずどうする事も出来ない。
その最後尾に居たのは、柊亭の主人フィラメと、スミスの両親であるアランとヴェルサ、奴隷商のトッドの4人。
「もう! あんなところまで来てますよ! フィラメさんが遅れるからぁ!」
「くそったれ! なんで進まねぇんだよ!!」
叫びながらトッドは飛び上がり、渋滞の前方を見ようとする。
西の大門は開いているのは辛うじて見えるが、最後尾からはその原因は窺えない。
トッドは彼らの前列で叫んでいた男に話しかける。
「何で止まってんだ??」
「城主のヤローが自分の家財を運んでるらしい!! あり得ねぇぜ! 住民よりも家具やら骨董品が大事なんだとよ!!」
そう言って、男は再び前方へ怒りの声を上げ続けた。
それを聞いて、動揺しているフィラメがあり得ないことを言い始める。
「ど、どうする?? 取り敢えず一回店に戻るか??」
「フィラメさん、何言ってんですか! 戻ったらアイツの下敷きになっちゃいますよ!!」
「で、でもよぉ……!」
フィラメはすっかり動揺し、いつものような豪胆さはなくなっていた。
その瞬間、空に太陽のような輝きが出現した。
それはサリーの決戦魔法。
西の大門に並んでいる住民達にしてみれば、希望の光だった。
それが、そびえる巨大スライムを焼き尽くす一撃であることは、誰もが分かる。
なぜなら、逃げ出す彼らの背後で戦う魔法使いが居ると遠くからでも見てとれたからだ。
星空に照らされたスライムに果敢に挑む白いローブ姿。
空に浮かぶ小太陽が彼女の魔法だと、誰もが信じた。
住民達の視線は、メッカとサリーの魔法に釘付けになった。
「おお! 行けーー!!」
誰かがそう叫ぶと、連鎖するように歓声が強まっていく。
だが不幸にも、それが原因だった。
次の瞬間、メッカの触腕伸び始める。
西門に並ぶ行列へ向かって。
「あれ?? なんか、こっちに向かって来てない?」
自然に誰かが気がついた。
そして、それに合わせるように小太陽も萎んでいく。
暗闇が再びメルクに満ちる。
パニックが広がるのは、あまりにも早かった。
「うわああああああああああ!!!」
「逃げろおおおお!!」
「死にたくない!!!!」
行列は形を崩し、我先に逃れようともみくちゃになる。
前の人間を押し除け、転んだ者は踏み潰される。
運よく最後尾にいたフィラメ達はその光景を眺めることしかできなかった。
そして、他の住人達と同じくパニックになったフィラメは柊亭に戻ろうと前方へ目を向けた。
だが、彼の目に宙を舞う少女の影が映り込む。
「何だ!? 飛んで……来る!?」
瞬間、その影は彼らの目前に墜落した。
石畳を転げ、杖を持った少女がフィラメ達の前で止まった。
「お、おい。大丈夫か……?」
ガキン!!!!!
彼女が現れた途端、フィラメを襲ってきた触腕が半透明の壁に弾かれる。
「うわあ!!」
倒れながらも、少女は杖を掲げ、防壁魔法を起動する。
そして、杖を突きながら、血塗れの体を起こした。
サリーだ。
彼女は触腕が住民を襲う前に全速力で浮遊魔法を使ったのだ。
安全な着地などする時間は無かったため、落下の衝撃が彼女の体を痛めつけた。
「は、離れてて……!」
「いや……アンタ大丈夫か……」
ガキン!!! ガキン!!!
アランが声をかけるも、かき消すように次々と触腕が襲い来る。
「いいから!! 早く離れて!!」
杖に魔力を込め、全力の防壁を展開する。
魔力防壁は城壁の如く広がり、パニック陥った住民全体を守ように展開した。
「前が詰まってて私たちも動けないの!」
尻餅をついているフィラメの肩を担ぎながら、ヴェルサは叫ぶ。
まるで助けを求めるような声であったが、サリーにはどうしようもない。
メッカの触腕を防ぐので精一杯である。
(まずいわ……さっきの魔法で私の魔力も残り少ないってのに……!)
そんな事はお構いなしに、メッカの触腕はその数と勢いを増し、既に雪崩の如く防壁に迫っている。
「このっ!!!」
サリーは全力で魔力を練り上げる。
だが、防壁にヒビが入ってしまう。
まずい。
それに気が付いたのは最後尾に居る住民達だけではない。
空に広がる魔法防壁を見て、住民全員が息を呑んだ。
誰かが自分たちを守ろうとしている。
ヒビが入ったその壁を見ただけでも、それくらいの事は分かる。
「お嬢さん!! 頑張って!!!」
「頼む!!! 守ってくれよぉ!!!」
ヴェルサとアランの懇願は、全住民に伝播した。
「頑張れーー!!!」
「負けるな!!」
「行けーー!!!!!!」
サリーを応援する声が、メルクの街に響き渡る。
たった一人の少女に縋るように、頼るように、懇願するように。
使命感が、サリーの心に炎を灯した。
「……全力で頑張ってるっての……でも……!」
杖を地面に突き立てながら、一歩前へ出る。
「お陰で……! もうちょっと、頑張れそうだわ……!」
呟きながら、限界を超えて魔力を引き出す。
すると防壁のヒビが再生し、より強固な壁となった。
止まらない連続攻撃を尽く防ぎ続ける。
すると、壁の向こうでメッカの声がした。
「無駄な足掻きだ。既に私を屠るための魔力はないのだろう……? 住民を守って何になる?」
「……黙りなさい!!! アンタには一生分かんないわよ!!!」
サリーの心は決して折れない。
限界が近かろうと、メッカを倒す手段が無かろうと、黙って住民達を犠牲にする事は出来ない。
彼らを助ける事に、サリーに何ら迷いなどない。
「そうか……ではこれにてお終いとしよう」
連撃の中、一本の触腕が地面に突撃し、潜り込んだ。
そして魔法防壁の内側に飛び出て住民を襲う。
「させない!!!!」
サリーは防壁を維持しながらも、触腕を魔法の刃で切り飛ばした。
しかしその瞬間、サリーの足元が崩れ、刃のように鋭い触腕が襲う。
「なっ……!!!」
「最初から貴様を狙えばいいのだ。それが道理……」
もはやこれ以上、魔法は使えない。
無防備となったサリーには、この攻撃を防ぐ手立てなど無い。
スローモーションのようにゆっくりと目前に迫る刃を見ながら、彼女は死を覚悟した。
(ごめん、ルイス。約束は守れそうもないみたい……)
◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎
大変恐縮ではございますが〜
少しでも本作を気に入ってくださった方
面白いと思った方
評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです
作者の日々の励みにもなりますので
お手数ではございますが
どうか、よろしくお願い申し上げます。




