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第32話 メルク西街

商業都市メルク西街。

普段は夜まで活気付いているこの街も、今夜ばかりは人気が少ない。

それものそのはず。

まだ遠方ではあるが、巨大なスライムがこの西街へ迫ってきているのだ。


住民や商人達は我先に逃げ出そうと、西の大門に大行列を作っていた。


アルドの命を受けた兵士達数十人とスミスとノエルはその光景を壁の上から見下ろしていた。

頂上に登ると、夜風がよく通る。

こんなにも騒がしい夜にも関わらず、風だけは穏やかである。


「あれだ! サリーのやつは無事だ! スライムも移動し始めてる!」


物見から借りた双眼鏡を使い、スミスは必死に逃げ回るサリーの姿をとらえた。


「ですね! それで人質の数は!?」


スミスの隣で叫ぶのは、ノエル。

彼女はメルク城の大広間で目を覚まし、治癒魔法で走り回れる程度に回復していた。

兵達の回復役として同行すると申し出たのだ。


「11人だ!」

「おーい! こちらも確認した! 11人で間違いない!」


壁上の別の角度から双眼鏡を覗いた兵士も、スライムの体に捕らえれているシスター達の姿を確認していた。


「よし! では準備だ!」


倉庫から引っ張り出した魔導ウインチ。

これにロープをセットし、先端を自分の体に巻きつける。

スミス含め、11人も同じく体に固定した。


段々と近づいて来るスライムの巨体は彼らが立っている壁の高さと同程度。

この高い壁際からスライムへ飛び込み、シスター達を救う事こそが彼らの役割である。


「な、なんて大きさだ……」


スミスの隣にいる兵士が呟く。

遠くから見るだけでも恐ろしい。

まして、それが目前まで来た時の本能的な恐怖心は、計り知れない。


「分かるぜ、その気持ち。だったら、あそこに居るシスター達はもっと怖い目にあってると思わないか……?」

「……ああ、確かにそうだな。そう思ったら、ビビってる場合じゃないな……!」


恐怖を噛み殺しながら、覚悟を決めたように前を見据える兵士。

その覚悟は、飛び込んでゆく11人に伝播してゆく。


己の誇り高い責務を前に、彼らの心は燃え上がり始めた。


「さあ、レン。すぐに助けてやるからな!」





レンの様子がおかしい事に気付いたのは、メルクへの旅を始めてからだった。


レンはエルフの里での苦難を乗り越え、ルイスの死を受け入れた。

少なくとも、スミスはそう思っていた。


道中の仲間達の会話では、常に和やかさを見せていたレンには全く違和感がなかったのだ。

しかし、それはある夜更の事だった。


レンが火の番をしている時、ふとスミスは目が覚めた。

毛布に包まり再び眠りに落ちようとしたところ、レンの話し声が聞こえて来る。


「そう。僕は〜〜って言ったんだけど」


昼間のくだらない会話のことを話している。

その時の会話には全員いたため、改めて話すというのは不思議だった。

スミスは無意識にレンの声に耳を傾けた。


「それでね、スミスってば、〜〜なんて言うからさ、可笑しいよね、ルイス?」

(……!!)


その後もレンは会話を続けた。

居なくなったはずのルイスと二人で。


それ以降、スミスはレンの昼間の明るさを見ると、なんとも言えない悲しい気持ちになった。

彼なりに、ルイスの死を乗り越えたなんて、勘違いもいいところだ。

レンは未だに、ルイスの死に囚われている。


スミスはそんなレンに、友人として何もしてやれない。

自身に無力さが、弱さが、悔しかった。


だから、せめて彼といるときは明るく努めようと、スミスは決意したのだった。

あの闘技場の地下牢にいた頃のように。





飛び回るサリーを追って、西の壁に巨大スライム、メッカが迫る。

メッカの通った家屋や道は、その重量に押し潰されている。

その光景を見ていた兵士達に緊張が走ったが、メッカの腹部でぐったりと気絶している人質の修道女とレンを見て、彼らは拳を握り締めた。


自分たちが助けなくては……


そんな責務が彼らの胸に燃え上がる。


魔導ウインチは固定した。

ロープも自分に巻きつけた。


後は、サリーの合図を待って飛び込むだけである。


彼らは、ただその時を待った。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎


大変恐縮ではございますが〜

少しでも本作を気に入ってくださった方

面白いと思った方


評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです


作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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