第31話 作戦開始
メルクの街は恐怖に包まれていた。
突如として現れた巨大なスライムと冒険者ギルドを襲った爆発騒ぎ。
当然、住民達はパニックの渦中だ。
誰も彼もが、自分の家族と命を守べく、メルクから逃げ出そうとしていた。
いや、正確に言えば、巨大な未知のスライムから少しでも遠くへ離れようとしているのだ。
それでもいつもの夜と同じように、ゆるい風が吹き上がる。
空中。
そんな街の光景を見ていたサリーの頬に、夜風が吹き付ける。
未だ動き出さないスライムのメッカと浮遊しながら対峙していたのだ。
メッカの様相を見て、サリーは怒りがこみ上げていた。
メッカの体表に浮き上がっている修道女と沈み込んでいるレンの影。
その意味は教えてもらわずとも理解できてしまう。
「人質ってわけね……!」
彼女達に意識はなく身動きは取れない。
数えると、人質の数はレンを含めて15名だ。
「魔法学士……私を倒しに来たか……」
巨体の中央に眼球が形作られ、サリーの姿を見据えた。
「その前に、人質を開放してもらうわ!」
「ははは! 貴様なら人質ごと焼き払えるだろうに、開放だと! 貴様を差し向けた者は余程の大馬鹿らしいな!」
奇怪な笑い声がメルクに響く。
「アンタには一生理解できないでしょうね。この都市を思い遣る人の気持ちなんて」
「理解する道理がない。これから死にゆく者達の思いなど知ってどうなる? ましてや脆弱な人間の感情など、知ったことではない」
「何を言っても無駄のようね……」
「そうだとも。貴様らはただ黙って蹂躙されていればよい」
突如、サリーの杖が光を放つ。
「ならアンタは、黙って討ち取られなさい……!」
上空に掲げられた杖。
何事かと、メッカは警戒し、サリーの杖に意識を傾けた。
その瞬間、地面から巨人の如き光る腕が生え、メッカの体を削り取った。
「……なっ!!」
驚くと同時に、体表から修道女数人が居なくなっている事に気がつく。
杖の光を止めるサリー。
メッカの眼光を真正面から受け止め、腕を組んで睨み返す。
地上では巨人の光が緩やかに解けていき、地面には救い出された修道女4名が横たわる。
路地に隠れ潜んでいた兵士達が彼女達を安全な場所まで運び出した。
「さて、あと11人。返してもらうわよ……!」
「貴様……!」
◇
メッカの赤い粘液が空中を舞う。
空に浮き上がったサリーを捕縛しようと猛烈な速度でその形を変えていく。
そして、触手に変化した体表が生き物のようにサリーを襲う。
一方のサリーもそう簡単には捕まらない。
俊敏に動きながらも軌道の読めない動作でメッカを翻弄する。
「なるほどね。レンに攻撃が当たらない訳はこれね……!」
彼女の動きはレンの”竜歩”を参考にしている。
なお、ある程度魔力で軌道を操れる空中だからこそ出来る芸当である。
魔力の無いレンが地上でこの技を使用できる原理まではサリーにも見当はつかない。
「うう……でもコレ酔いそう……」
「小癪な……! ならばこれで!」
次の瞬間、メッカから生えた触手同士が繋がり合い、巨大な膜となってサリーに被さろうする。
「……ウプ。甘いのよ!! 『ガウル・ソード!!』」
サリーの杖から風の刃が放たれる。
そして、メッカの体積でできた膜がいとも簡単に破られる。
サリーは破り開いたその隙間を通り抜けたが、再び触手が襲いくる。
それも尽く防ぎ、躱すが、触手の動きが早い。
段々と、その動きに対応仕切れなくなってくる。
そして、四方八方から同時に絡め取られそうになる。
「この!『ガウル・コート!!』」
危うく捕まりそうになったが、風圧のバリアで防いだ。
だが、そう何度も使える手ではない。
「いい加減にしてよ……! ハアハア……!」
「そろそろ限界か? いや、貴様についてはデータがある。まだ魔力は尽きていないな……」
(……うーん……手の内がバレてる? 魔界では有名なのね、私も……)
自嘲気味になりながらも、サリーはアルドに言われている事を思い出す。
◇
数分前、メルク城の大広間にて、アルドはサリーに作戦を伝えた。
「サリー、君にやって欲しい事は2つだ」
アルドは指を1本立てた。
「一つは、人質を少しでも多く助け出す事。地上には残った兵士達を派遣しておく。助けた者達は地上に残して構わない」
「分かったわ。でも、期待しないでね。私、あんまり器用な方じゃないから」
アルドは「ああ」とだけ言って、立てていた指の先をメルク全体図の、”ある地点”に置いた。
「だからこそ、二つ目だ。奴の注意を君に集め、ここに引き付けて欲しい」
アルドが指差したその場所は、メルク西端の壁際。
レンとスミスが行った西市場や柊亭、トッドの店がある付近だ。
「待ってくれ、アルド! そこには住民が!」
「分かっているよ、スミス……。でも、ここしかないんだ。武器庫から近く、対大型モンスター用のアンカーが設置できるのは……!」
「アンカー!?」
「ああ! コイツで修道女とレンを救い出し、奴をサリーの魔法で焼き尽くす!」
◇
「……! そろそろね!」
サリーは伸びる触手を躱しながら大きく距離を取った。
メッカの触腕はある程度射程範囲があるようで、それを超えると伸びてこない。
「待て! 逃げるのか!」
「んな訳ないでしょう!!」
杖を振り上げ、再び光の巨人の腕を地面から召喚する。
そしてメッカの体表を削り取ろうと腕が振り下ろされる。
しかし、メッカは太い触腕を作り、受け止めた。
「おのれ!! やはり貴様は道理に合わん!」
そう言って、触腕を刃のように変化させ、巨人の腕を根元から刈り取とった。
腕はそのまま空中に溶けていった。
「やば!」
それを見ていたサリーはさらに距離を離す。
しかし、メッカは黙って見ていない。
とうとうその巨体を動かし、サリーを追い始めたのだ。
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