第30話 前線の危機
「痛ぇーー!!」
「……ありがとう、サリー」
大広間の窓を割るべく投げ込まれたのはスミスとアルド。
二人ともそれなりにダメージを受けたようで息が荒い。
そしてアルドの礼に返事をしながら、ノエルを抱えたサリーが割れた窓からふわりと入ってくる。
「礼には及ばないわ。それよりも、結構ピンチじゃない?」
サリーにすれば、既に兵士に囲まれているためマズい状況だ。
そんな事は覚悟の上であったが、どうしたものかとアルドを見る。
しかし、当のアルドも焦りの色を浮かべているが、サリーの焦りとは少し違う。
「皆、ご苦労! 元城主のアルドだ。此度はメルクの危機を打破すべく、助力を乞いに来た。その……驚かせてすまない……!」
アルドは言ってる途中で罰が悪くなる。
彼自身、王子としての責務から逃げ出した罪悪感は抜けていない。
ここに居るドーラや近衛兵にも迷惑をかけてきた自覚はある。
「それだけではない……私のせいで皆には苦労をかけていること、本当にすまない!! だが今は、メルクを救うために協力してくれ!!」
「アルド様……」
自分の後ろめたさを熱弁で振り切ったアルドに、ドーラの冷静な声がかけられる。
「周りをよくご覧になって下さい。貴方を恨むような目をしている者などいる筈がないでしょう?」
「ドーラ……?」
言われてアルドは周囲へ顔を向けた。
近衛兵達や兵士長、メイド長であったドーラ。
懐かしい面々とメルク城の大広間という場所がアルドに王子だった頃の思い出を呼び覚まさせた。
何より彼らの表情が、昔と同じように微笑みかけてくれているようだった。
やがて壮年の兵士長が口を開く。
「貴方はいつだって配下に慕われた素晴らしい城主でした。王都から逃れたという話も、貴方様なら何か理由があってのことだと、私どもは信じておりますよ……。何より、この緊急事態に貴方は駆けつけてくださった。それだけで、何の疑いもございません」
「兵士長……ありがとう! では!」
「ええ。メルクを守ためにお知恵をお貸しください」
兵士長から差し出された手を、アルドは飛びつくように握った。
「任せてくれ!!」
◇
「シンドラが逃げた!?」
「はい……現城主様は貴重品を荷馬車に詰めてメルクの外へ避難されました」
頭を抱えるアルド。
こんなにも無責任な城主が居ただろうかと一瞬考えたが、自分もその無責任な城主であった事にすぐに気が付く。
もし自分が王都から逃げ出さず、メルク城主のままであったなら……。
そんな妄想が頭を蝕んだ。
しかし、そんなアルドの気持ちをあえて無視して、サリーはなんでもないように言い放つ。
「ふーーん、王族って大変みたいね。でもアルド、そこに悩むのは後でもいいんじゃない?」
「あ、ああ。そうだね……とにかくは戦力を確認しよう」
アルドがそう言うと、近衛兵の一人が現在の兵数を報告する。
「近衛兵はおおよそ500! 東西南北の大門へ100づつ向かわせ、道中の住民の避難に尽力しています!
残った100名はこのメルク城に控えています!」
「被害状況は? ブリゲート教会は除いて教えてくれ」
「冒険者ギルドの入っていた建物一棟が全壊、その周囲の店4件が火災となってました。幸い、火災の方は青属性の魔法使いが近くにいたため無事に鎮火しましたが……」
近衛兵の顔が曇る。
「……ギルド内にいた冒険者達の消息が掴めません。ギルドのあった場所は完全に焼失しているとしか思えず……」
「大丈夫よ……。冒険者っていうのは生き汚い連中の集まりよ。だから、大丈夫……」
サリーは自分に言い聞かせるようにそう言った。
彼女の脳裏にはギルドマスターのエミーの顔が浮かんでいる。
「そうだなサリー……。この街の冒険者達はどこよりも屈強だ。だから私も彼らの無事を信じよう」
「ええ。それに、冒険者ギルドを破壊した魔法は発動までに準備が必要なものよ。少なく見積もっても3日は魔力を溜め込んでたんでしょうね」
それを聞いて、アルドは確信した。
「そうか。あの魔法を連発されていたら終わっていたな……。だとすれば、間違いなく冒険者ギルドへの攻撃は計画的なものだな……ならば、奴の目的は想像できる……」
「ええ、アルド様。あのスライムは前線から侵入し、防衛線を抜けた魔人の一人でしょう。そして、このメルクを襲撃している理由は間違いなく戦略的なものです」
そう言って兵士長も同意した。
「商業都市メルクを破壊して国内の流通を麻痺させるつもりだな。そして物流の途切れた前線の兵は疲弊し、やがては……」
アルドは拳を握りしめる。
それは怒りからではない。
自身の不甲斐なさに悔しさを感じていたのだ。
そしてアルドはその言葉を口にした。
「前線が崩れる」
全ては魔王軍の戦略。
それを許せば、待っているのは最悪の結末だ。
「……奴はこのメルクで倒さなければならない。でなければ、魔王軍を食い止めている防衛戦が危機に陥る!」
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