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第28話 冒険者ギルド崩壊


「なんだアレ!」


メルクの住人達は突如として現れた巨大な物体に驚愕した。

星空に照らされた赤い体は水飴のような怪しい光沢を放っている。

遠く見えるその巨体はあまりの大きさに距離感が掴みづらい。


そんな常識はずれの光景を唖然として見ている男がいた。

冒険者ギルド、ギルド・マスターのエミーリンクスだ。


「ちょっと……何なのよ……!」


そこは冒険者ギルドのギルドマスター執務室。

2階にあるその部屋の窓からは、あの巨大なスライムと街の様子が見て取れた。


眼下の住民達は一様に怪物を見上げ、ただ呆けている。

あまりの状況に、理解が追く者は少なかった。


それはエミーとて同じではあったが、彼には街の守護と言う重要な任務がある。

呆けていられる時間などない。


エミーはすぐさま、執務室のドアを蹴破り、吹き抜けから1階で宴会をしている冒険者達に号令をかけた。


「お前らーー!! 仕事だ!!」


冒険者達はギョッとして2階を見上げた。

普段は優しいオネェ口調の彼が素の低い声を出すときなどは、余程の緊急事態である。


「エミーさん、どうしましたーー??」


エミーのパーティメンバーの一人が1階から声をあげた。


「馬鹿野郎! 悠長なこと言ってないですぐに準備しろ! 装備が整い次第外に出ろ!」


エミーの声はこれまでに聞いた事がないほどに慌てている。

冒険者達はすぐに動き出した。


酒の入った杯を置き、装備品を確認する。

杖に魔力を込め、いつでも魔法が使えるように整える。

剣を、盾を、槍を握る。


だが、その時外からいくつもの悲鳴が聞こえる。


「何だ……!」


エミーも冒険者達も、その悲鳴に煽られ、窓から外の光景を見た。


だが冒険者達がそれを認識するにはあまりにも遅すぎた。


次の瞬間、冒険者ギルドに巨大な熱線が降り注ぐ。

そして、ギルドだった建物は完全に焼失し、巨大な爆発が起った。


ほんの一瞬にして、冒険者ギルドはメルクから消え去ったのだ。



「アレは……!?」


ドーラは混乱していた。

あり得ない事が立て続けに起こっている。


突如として現れた巨大なスライム。

そして怪物は、街に強力な火属性魔法を使用した。


出現当初は目的が全く分からず思考停止してしまっていたが、今となってはヤツの目的は明確だ。


この街の破壊。

それも、決定的な。


魔王軍はこの街に狙いを定めたのだ。

間違いなく、アルド達から聞いていた魔人領からやって来る怪物とはアレの事だ。


アルドの忠告虚しく、魔人が来てしまった。

こうなればもう取れる手段はただ一つ。


(街を守らなければ……)


ドーラがそう考えた時、執務室の扉がノックも無しに開かれた。

部下達だ。


「組合長! 大変です! 今の光は冒険者ギルドに向けられたようです!!」

「何ですって……!?」


メルクの切り札と言ってもよい戦力が……!

驚嘆と落胆を同時に味わうドーラは、唇を噛み締める。


この行動は、明らかに計画性を感じる。

あの怪物は一体いつからメルクを狙っていたというのか。


しかし、組合長であるドーラに悩んでいる猶予はない。

最優先するべきは住人の避難である。

多くの物と情報が行き交うメルクには、必然的に人口も多い。


今は一人でも多くの人間を救わなくては。

それがを今できるのは、大方の事情を知っているドーラだけだ。


「とにかく……! メルク城に向かいます! 城主に避難の指揮を取って貰わなくては!」


冒険者達が当てにできないこの状況で、人を動かす力を持つ人間は土地の管理者であるメルク城主を置いて他にいない。

最近赴任したばかりで頼りないが、あの貴族の名光に縋るしかないのだ。


ドーラは部下を連れてギルベル邸宅を出発した。


(どうか、無事でいて下さい……アルド様……!)


気丈に振る舞う彼女は心の中でアルド無事を祈った。




冒険者ギルドを襲った爆炎は西の街からでも確認できた。

その立ち上った黒煙が住民達の不安を煽り、人々は争うように逃げ惑っていた。


「こ、こりゃまずい! 今までの人生で最大のピンチってヤツだよ母さん! 早く逃げようか!」

「何言ってんの……! まだフィラメさんが来てないでしょ!」


大衆食堂柊亭の前で慌てているのは、スミスの両親であるアランとヴェルサだった。

二人とも大荷物を抱えて逃げる用意は万端である。


「フィラメさんーー!! 早くーー!!」


主人であるフィラメはまだ店内に残っている。

急がなければ。

あの怪物が今度はどこに爆撃を放つのか、それとも移動するのか全く想像がつかない。


今は静止している。

まるで街のパニックを眺めて愉しんでいる様だった。


それはまさに、目に見える厄災そのもの。

一体の魔人の出現で商業都市メルク全体が悲鳴と怒号に支配されていた。


アランは、今すぐにでも逃げ出したい思いをぐっと堪え、フィラメを呼び続けた。

すると柊亭の扉が蹴破られ、大荷物を抱えたフィラメとトッドが駆けて来る。


「すまねぇ!! 遅れた!!」

「急げ! 西門から避難だ!」


アランとヴェルサも小走りで二人の後をついていく。


西の街の住人は、皆一様に西門へと逃げ惑い、巨大な群衆となって道を埋め尽くしている。

彼らの発する悲鳴、怒声、子供の泣き声などが一塊になり、彼ら自身の不安を煽る。


「トッドさん! 良かったんですか!? アンタの仕事道具はーー!」


アランが群衆の発する音に負けないくらいの大声で聞いた。

沈黙していたくはなかった。

今は少しでも、不安から耳を背けたかったのだ。


それに、トッドが抱えている大荷物は全て柊亭の物だ。

たまたま、食事に来ていただけの彼自身、自分の店の商品達が気がかりであろうと思ったのだ。


「ああ、いいんだ! 俺は道具だけで食ってたワケじゃないからーー! それに、柊亭にはいつも世話になってるからなーー!」

「ははっーー! そいつはありがてぇな!! 失業したらうちに来い! いくらでも食わせてやるよ!」


トッドの隣で走るフィラメが豪快に笑い飛ばす。


「ほらな、アラン! 飯屋に恩を売っとけば食い繋げんだよーー!」

「でも、ツケはチャラじゃないわよね? フィラメさん!」

「あっーー! ヴェルサ! 余計な事言うなーー!」


走る。

走る。


やがて西門が見えた頃、群衆は渋滞により前に進まなくなった。

遠くに見える門で、巨大な荷馬車が詰まっているようだ。


「何だぁ!? 何だって止まってる!?」


フィラメが声を上げる。

背後に見える怪物は、いつ動き出すのか分からない……。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎


大変恐縮ではございますが〜

少しでも本作を気に入ってくださった方

面白いと思った方


評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです


作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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