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第27話 逃走



点火されたサリーの魔法が途切れた。


今まさに目の前のスライムを焼き尽くそうとした瞬間、教会の長椅子の影から赤いスライムの粘液に包まれたノエルが浮き上がって来たのである。

絶句し、青ざめるレン達。


ノエルは球体状のスライムの中に閉じ込められており、ぐったりとしている。


「安心していい。彼女は無事だ……君たちが何もしなければ、ね?」

「くそっ……! 卑怯だぞ!」


スミスが悪態を吐く。

険しい顔で一行はメッカを睨んだ。


「何をしようと無駄だよ。さあ、まずは記憶の鍵を返してもらおうか?」


メッカは考える暇を与える気は全くない。

その柔らかい体積を広げ、レンの目の前で手の形に変形させる。


鍵を渡せばメルクが大変な事態に陥る。

しかし、レンには目の前に浮かんだノエルを見捨てることなどできるはずが無い。


「……わかった……」


手に握った記憶の鍵をメッカに見せるように掲げた。

そして反対の手で、背後にいるサリー、アルド、スミスにハンドサインを送った。


それだけでは具体的なものは何一つ伝わらない。

しかし、レンの眼差しとそのサインで、後ろの3人が察するには十分だった。


”諦める気は無い。とにかく仕掛ける、臨機応変に対応して”


その瞬間、レンの意図だけはしっかりと伝わった。


「これでしょ……?」

「ああそうだよ。早く返してくれたまえ」


レンはうなずき、ゆっくりと赤い手に近づく。

そして、その手の上に載せる風を装い、掲げていた鍵から手を離す。


落下する。

赤い手の横を通り過ぎ、地面へ。


キーン……

「……!」


その音で、メッカの意識は落下した鍵へ向けられた。


その隙を見て、レンは竜歩を使用。

捕らえられているノエルへ向かう。


そして、レンの動きに連動するように、サリーは自分の手持ちで最速の魔法を放った。

それは赤い魔弾。

炎属性の火球を小さく収縮させることで弾丸のようなスピードを持っている。


放たれた魔弾はまっすぐにノエルを捕らえた球体底面に着弾。

そして内部で火炎が炸裂する。


ーーボスン!!


ボヤのような火が立ち、スライムの球体が割れる。

その瞬間、レンが突っ込み、落ちるノエルをキャッチした。


「いいぞ! レン! 戻れ!!」


アルドが叫び、ノエルを抱えて駆け出すレン。


だが、メッカも黙って見ていない。

レンごとノエルを取り返そうと、体を大きく広げた。


その影は走り出したレンの影を覆い尽くすほどに大きかった。

それを見て、全てを察したレンは、スミスへ向かって言った。


「ごめん、皆! あとは頼んだ!!」

「……へ?」


抱きかかえたノエルを投げ、スミスはそれを慌ててキャッチする。

そして、レンは振り返り、構えをとる。

彼はそのまま、巨大になったスライムの体液に飲み込まれた。


「レン!!!!」


スライムの体液で濡れたノエルを抱えたまま、スミスは叫ぶ。

だが、その声に返事が返ってくることはない。


彼は赤い体液に取り込まれ、溺れるようにもがいていた。


「ふむ、悪くない。警戒対象がこれで減った」

「それはどうかしらね……私がそれを許すとでも思っているの?」


サリーは杖をメッカに向けて、魔力を練る。


「勇者に当たるがよいのかな?」

「多少の怪我はレンも覚悟の上でしょう。ここで動かなきゃ仲間じゃないわ」

「ふむ、やはり入念な準備は尊ぶべきだな」


何が言いたいのか分からず、サリーは眉を潜めるが、アルドが叫んだ。


「サリー! かまわず打つんだ! 今度は私がレンをキャッチしよう!」

「え、ええ! もちろん!」


魔法は組み上がった。

あとは放つだけ。


だが一方のメッカは流動し、レンを体の中央に持ってくる。

そんな事をしても、魔法を放つ手が止まらないことはメッカも理解している。


レンを移動させたのは、整理のためだ。

新たな盾達を装備するための。


ドゴン!!!

パリン!!!


と、窓やドアなど、教会の至る所から衝撃音が走る。

割れた窓、破壊されたドアから赤いスライム達が教会に侵入した。


それらを見て、サリー達は動きを止めた。

止まらざるを得なかった。


「貴様っ……!」


怒りを表したのはアルドだった。


侵入したスライム達の全てに修道女達が捕らえられていた。

彼女達は赤い体液の中で、気を失ったように浮かんでいる。


次々と、スライム達は本体であるメッカと合体していく。


「さて、これでいかがかな? 魔法学士……?」


メッカの体積は何倍にも膨れ上がり、3人が見上げる程に大きくなった。

聖堂の高い天井に届きそうな体積量である。


その体の至るところに、十数人の修道女達がうっすらと見える。

どこに魔法を当てようが、必ず誰かが犠牲になってしまう事は、容易に想像できた。


「そ、そんな……」

「さてと、これで安全だ。早速仕事に移ろうか」


もはや、眼下の人間3人は脅威ではないと言わんばかりに、メッカは目の前の女神像に向き合った。

そしてレンから回収していた記憶の鍵を体内から探し出す。


「……『門よ開け』我が分体達よ……待たせたな」


開放の呪文を唱えた。

信仰という力を糧に、魔人領へと繋がる門を開く呪文。


メッカの体内で”記憶の鍵”が輝き、女神像から力を奪っていく。

それはまるで流星群のように、鍵へと吸収された。


やがて信仰を吸い終えると、女神像にヒビが入り、脆く崩れ去った。


そして、鍵から閃光が走り、狭くなった天井に突き刺さる。


「ま、まずいわ……!」

「くそ!!!」


そうは言ってもどうする事もできない。

サリーは思わず一歩下がった。


狼狽る二人の肩に手が置かれる。

アルドだ。


「……二人とも……逃げるぞ……!」

「アルド……! でも……!」


スミスは躊躇うが、もはや猶予は無い。

天井に魔法陣が展開され、空中に者が現れた。


「……レンもシスター達も必ず助ける! だが今は……こうするしかない……!」


アルドの真剣な口調に、スミスは苦い顔で頷いた。

サリーも「分かったわ……」と唇を噛みながら言う。


3人は走り出した。

スミスはノエルを抱えたまま。


破壊された正面扉を通り、中庭を真っ直ぐに駆け抜け、教会の門を潜った。


スライムは追ってこない。

もはや相手にされていないとう言う事実に、皆、悔しさから拳を強く握りしめた。


聖堂を見遣る。


赤い影が蠢き、聖堂にヒビが入る。


「一体何を召喚したんだ……?」


アルドがそう呟いたが、その答えはすぐに示された。


スライムの体積が爆発的に増加し、一瞬で聖堂が飲み込まれたからだ。


「まさか……自分の分体を呼んだの!?」

「こっちまで届くぞ! もっと遠くへ逃げよう!!」


みるみる内に教会は飲み込まれ、おおよそ80メートルを超える巨体は、メルクの夜を眺めた。


◎読んでいただき誠にありがとうございます!!◎


大変恐縮ではございますが〜

少しでも本作を気に入ってくださった方

面白いと思った方


評価とブックマークを頂けると大変嬉しいです


作者の日々の励みにもなりますので

お手数ではございますが

どうか、よろしくお願い申し上げます。

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