第26話 人質
レンは偽のグラム神父と握手を交わした瞬間気がついた。
彼の中指、薬指、小指の三指が危険信号を発している。
グラム神父の手の触感は紛れもなく人間のもの。
しかし、その打感は全く異なるものだった。
レンの鍛え抜かれた三指の感覚はその記憶を呼び起こす。
グラム神父の手は、まるでスライムを打った時と同じような響き方と構造だったのだ。
流石のレンも一度目は自身の感覚を疑った。
だが、もしスライムだったとすれば、あってはならない事が起こっている。
そんな疑念を払拭する意味でも、神父呼び止める風を装って、背を向ける神父の肩に打震を放ったのだ。
そして、その打震によって、レンは全てを悟った。
このスライムの体内に感じた”記憶の鍵”、いつからか神父に化けている事、そして信仰の集まるこの場所で何をしようとしているのか。
「お前……! ここで何をするつもりだ……!」
レンの手には魔人領への門を開くための鍵が握られていた。
一方、ドロドロに溶け出したメッカは冷静な声をどこからか発する。
「やはり勇者だからか……? しかし、私の変化魔法は魔王ですら見抜けない精度のはず……道理に合わない……」
彼はレンを無視するかのように一人呟く。
「おい! レン……! なんだそいつ!」
「分からない! でも間違いなくスライムだ! 記憶の鍵を持ってる!!」
叫ぶスミスにレンが叫び返すと、仲間達の緊張が高まった。
メッカはそれを感じ取り、思案を中止。
ひとまずは自身を貫くレンの腕ごと彼を取り込んでしまおうと、その赤い体をアメーバのように広げた。
その瞬間、レンは竜歩で後退しようと踵を踏む。
だがしかし、粘性のあるメッカの体がレンを捉えて離さない。
スライムに対して、レンの武術は尽くが無力だ。
だが、彼を覆いつくすその前に、火炎魔法の一閃がレンの頬を掠めてメッカを貫いた。
着弾点から発火し、メッカとレンを切り離すように炸裂する。
レンは急いで飛び退き、サリーに礼を言った。
「ありがとう、サリー!」
「バカ! あんま無茶すんな……!」
杖を担いでサリーは再び魔力を収縮させる。
「これは良くないな……。勇者とそれに次ぐ危険人物の魔法学士か……全く、不運としか言いようがないな……」
メッカは赤い体液を空中に浮遊させ、自らを捻るような螺旋状に変化する。
彼にとっては紛れもないハプニングであったが、その口調はいかにも冷静。
一方のレン達も、戦闘態勢である。
「まずはその鍵を返してもらう。そして、開門だ」
「させないわよ!!」
サリーの杖から小さな炎が巻き立つ。
その渦をメッカに向けて放つ瞬間、アルドが手を出し、サリーを制した。
「待て! サリー!」
「何よ……って!?」
アルドの指差した先に、全員の目が釘付けになる。
そこには、赤いスライムの粘液に包まれたノエルの姿があった。
長椅子の影からゆっくりと浮遊し、これみよがしに掲げられている。
「意図は伝わったかな……? 人間はこういう手に弱い」
「き、貴様……!!」
アルドは怒りに声を震わせた。
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