第20話 商業連合組合長 ドーラ
ドーラの背後にある大窓から、木漏れ日がゆらゆらと差し込んでいる。
アルドとスミスは予想外の発言に虚を突かれていた。
スミスは慌て、アルドは呆然としている。
「コホン」
二人の落ち着きを促すように、ドーラが咳払いをした。
すると二人はハッとして、状況を飲み込んだ。
久々に再会で浮かれていたが、今目の前に居る人物は間違いなく商業連合組合長だ。
たとえそれがドーラであろうと、慌てている場合では無い。
「すまない、驚きのあまり思考が止まっていたようだ……。兎にも角にも、就任おめでとう」
アルドの祝いの言葉に続いてスミスも「おめでとうございます」と伝えた。
「ありがとうございます。まあ、驚かれるのも無理はありません。ギルベル様に推薦された時など、当の私も驚きましたもの」
「そうかい。やはり君を推したのはギルベル師だったか……」
アルドにとっては、彼女の能力であれば組合長をこなすのに何ら問題は無いと考えられた。
だが、商人の世界は男性優位の世界だ。
女商人は確かに居るが、彼女達の誰もが差別的な視線に耐えながら働いている。
そんな中で、女性を組合長にするなど多方面から批判が来る事は容易に想像できた。
だが、出来ない事をむしろ喜んでやるのが、ギルベルという男である。
彼女が実際に組合長のイスに座れたのもギルベルの手腕である事は間違いない。
「さあ、私がここに居る理由はお分かりですね? 次はお二人の番です。私の居ない間に何があったのか、お話いただけますね?」
ドーラは机に両手を乗せて、真剣な目つきでアルドを見る。
アルドは真っ直ぐにドーラの目を見返し、ニコリと微笑を返す。
彼女の瞳には、以前と変わらない忠誠心が漲っている。
それを察したアルドは、安心して話し始めた。
エルフの隠れ里襲撃事件、転移の門、レンの記憶の鍵、飛び立って行ったドラゴン。
それらの情報をドーラはいたって冷静に聞いていた。
驚くべき情報ばかりではあるが、リアクションは少ない。
それは、彼女なりに情報を整理している証拠であった。
一通り話し終えると、今後はアルドから質問した。
「ところで、王都へドラゴンが襲来したという話は聞いていないかな? 途中の街やここメルクでも全くそんな話を聞かないんだが」
「いえ、私の元へはドラゴン襲来の情報は来ていますよ。突然やって来たドラゴンは苦戦の末、騎士団が討ち取っています」
そこへスミスが割って入る。
「やっぱり来てたか! でもそんな大事件、何で広まってないんだろう?」
「理由は簡単ですよ。絶対に安全だと思われていた人間領内に突然魔人軍のドラゴンが現れたんです。これが知れれば国民はパニックになるでしょう。だからこの事を知っているのは上層部の人間だけです」
「だろうな……。だが、いつまでも隠し通せる訳ではないだろうな。恐らくは、人間側の混乱を誘発するための襲撃だったのだろう……」
それを聞いて、ドーラはゆっくり立ち上がる。
「アルド様の仰るとおりです。そして、お二人が見て来た事が他の都市やメルクでも起こりうるという事です」
「ああ。だからこそ、先ほどの話はこの上ない情報だと思う。そして、ドーラ組合長にお願いしたいのはこの情報の拡散だ。国中に知らせてはくれないか?」
「当たり前です。メルクの上層部と王都と格都市に伝達しますよ」
そしてすぐさま行動するため、部下を呼ぼうと立ち上がる。
しかし、それを見てアルドが止めた。
「待ってくれドーラ。頼みたいことがまだある」
「は? なんでしょうか?」
「なに、ちょっとした情報収集を頼みたいのさ。出来る範囲でいい。レンの記憶の鍵について、スミスの家族の行方についてだ」
「いいですよ」
スミスは驚いてドーラを見た。
「え!? いいんですか? 鍵はともかく俺の家族まで……」
「一つ目は防衛上必要なので言われなくても集めます。もう一つは……」
ドーラはアルドに一瞬目をやって続けた。
「私の主人にここまで付き従って下さった感謝の気持ちです。もちろん、私個人だけではなく、アルド様の配下全員も同じ気持ちですよ」
あっさりと、そう言ってのけたドーラは席を立って入り口のドアを開けた。
「情報は集めておきましょう。しばらく時間はかかりますので、滞在先で待っていてください。使いの者に封書で届けさせます。
名残惜しいですがご退出を。部下達にあなた方を見られる訳にはいきませんので」
「ああ! ありがとう! ドーラ!」
「ドーラさん! オレ、なんて言ったらいいか……」
泣きそうな顔のスミスに、ドーラは微笑を向ける。
「男がなんて顔してるんですか……ご家族のことは任せてくださいな」
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