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第19話 元メイド ドーラ

「ド、ドーラ!?」

「あの怖いメイドさん!?」


アルドとスミスは揃ったように声を出す。


彼らはギルベル邸宅の豪華な作りの門前で、思いもよらない再会をしていた。


元、アルドの専属メイド、ドーラ。

幼い頃からアルドに仕え、時に優しく、時に厳しくアルドと共に育ってきた女性である。


メイドという立場ではあったが、アルドにとっては姉のような存在であった。

闘技場で別れて以来、ずっと彼女がどうしているのか気がかりであったアルドとしては、嬉しい再会である。


「ドーラ!! まさかここで会えるとは!!」

「フフ、私はここで会えると思っていましたよ」


微笑を浮かべながら、ドーラは鉄柵に手を掛ける。


「さあ、まずは中へ。いつまでもそのお顔を晒して外にいる訳にはいきませんから」


その冷静な口調と仕草に、アルドは懐かしさを覚える。

二人はドーラに促されるまま、門を潜った。



ギルベル邸宅は彼の仕事場もあった。

居住用の建屋からやや離れた場所に、書庫や金庫、会議場などが入った2階建ての建物がそれである。

アルド王子が商業都市を管理していた頃、ギルベルは連合組合長としてその場所で書類仕事に追われて過ごしていた。


二人はそこへ通されることになり、ドーラの後について歩いている。


その道中、アルドとスミスは闘技場から出た後の出来事を簡単に話した。

だが、ここにやって来た目的の”エルフの里襲撃の件”は意図せず伏せた。

あまりにも重要な情報のために、外で話すのは憚られたためだ。


そしてスミスは話題を変えて、ドーラの近況も聞いてみた。


「ところで、ドーラさんはどういう経緯でここに?」

「ええ。元々はバカ王子がろくに引き継ぎもしないで私に仕事を投げたのが原因なのです」


刺々しい言葉が、アルドに突き刺さる。


「ドーラ……まだ怒ってるのかい? その事はすまなかった……」

「いえいえ、もう怒ってなどいませんよ。アルド様のお元気そうな姿を見たら思い出しただけですよ」

(まだ怒ってるな……)


スタスタ、と一定の歩幅を保ちながらドーラは続けた。


「商業都市のトップが突然手配犯になったのですから、大変な騒ぎになりましたよ。

アルド様と別れた後、私とシェーンはその対応に駆られていました。

関係各所への案内と調整、その他、様々な雑務に追われていた時に、連合組合長であったギルベル様に助けていただいたのです」

「そうか、ギルベル師が……」


アルドは歩きながらも深く頷いた。

緊急事態だったとは言え、投げてしまった様々な業務をドーラとシェーンは処理しようと懸命になってくれた。


そこに助け舟を出したのがギルベル師匠だとすれば、アルドにとっては、元々返しきれない程の恩がまた増えた事になる。


「ギルベル様のお陰で王都での業務をシェーンに任せられるようになりましたので、ギルベル様と共にメルクに渡ったのです。

そして、ここで残った業務を片付けました。

王都でのシェーンの頑張りのお陰で、早々に商業都市の新しい管理者も王国から派遣され、連合組合も調整し終えました。

王国と組合間に少々問題は残っていますがね……」


ドーラは含みのある言い方しながら、ギルベルの仕事場に当たる建物の入り口を開いて話を戻す。


「大方の処理が終わった頃、ギルベル様にお声かけいただきましてね、今は連合組合に従事しているのですよ。

ここに居れば、ギルベル様を頼ってアルド様もいらっしゃるかと思いましてね……。

案の定、捨て犬のような貴方がここに来た訳ですが」

「ははは! 違いないな!」


呑気に笑うアルドをよそに、スミスは周囲を見回した。


既にギルベルの仕事用の建物には入っているが、中には十数人が忙しなく書類を運び、筆を取っている。

スミスは、飛び回るように働く彼らを見て、アルドの存在がバレてしまわないか心配だった。


しばらく通路を進むと、ドーラは組合長執務室と書かれた部屋の前で止まり、扉に手を掛ける。

開かれた扉から、二人の目に飛び込んだものは巨大な木製テーブル、そしてその奥にある机と革張りの椅子だった。


だがそこにギルベルの姿は無く、雑多ながらもよく整頓された空間だけが広がっているのみ。


「さあ、どうぞお入りください」

「ありがとう。ところでギルベル師は……?」


アルドは部屋に入りながら、ドーラに尋ねた。


「今は留守にしております。メルクには居ませんよ」

「え!? そんな! じゃあ、どうして俺たちをここに?」


驚くスミスはそのまま疑問を口にする。

だがドーラはスミスの疑問に答える前に、部屋の奥へと歩を進めた。


そして、革張りの椅子にゆっくりと座って見せたのだった。


「これでお分かりでしょうか? 今の組合長は私でございます」

「ええーー!!」


激しい反応を示すスミスの隣で、アルドも口を開けて驚いた。


そんな二人の反応が可笑しかったのか、ドーラはクスクス笑いながらも椅子を引いて立ち上がる。


「では改めまして、商業都市メルク商業連合組合、組合長のドーラと申します。お二人とも、どうかよろしくお願い致します」



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