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第12話 人明流・縄術外伝 布術

「一体何の魔法だぁ!?」


それまで避ける一方だったレンの変化に、ガッドは警戒した。

そして大剣の柄を両手に持ち、正面に構える。


彼の肉体は強化魔法によって増強され、握っている剣の柄が悲鳴をあげそうなほどの膂力を全身に滾らせる。


一方のレンはというと、観戦していた冒険者の一人から手拭いを奪い取り、それを片手にリラックスした体制で構えている。

右手に手拭いを持ち、左の腰に当てるような姿勢は、まるで居合抜きの様相だ。


そんな知識は無いガッドと周囲を囲むように観戦している者達は、レンが何をしようとしているのか全く想像がつかない。


布に硬化魔法を使って武器とするのか?

属性魔法を付与して大剣に対抗するのか?

黒魔法の一種で呪術的な意味合いがあるのか?


など、見ている物達の注目はレンに集まった。


建物の広い窓から太陽の光が降り注ぐ。

その暖かさを感じている余裕は観戦している者達にはなかった。


誰もが息を飲み、騒がしかったギルド内は山奥の泉の如く静かであった。


「ふっ……。ハッタり……」


ガッドが言い終わる前にレンの体が勝手に動いた。


スパン!!!!!!


乾いた破裂音が吹き抜けまで響き渡る。


「ーー!!!!! 痛ってえぇぇーー!!!!」


ガッドは思わず足を押さえて痛みに苦しむ。

その痛みたるや、経験豊富な冒険者ガッドも形容し難いものだった。


斬られたのでも、殴打されたのでも、魔法に焼かれたのでもない。

強いていうなら、皮膚表面のみに電撃を喰らったような衝撃。


その衝撃を生み出したレンの動作はごく単純。

ガッドの油断を見て、瞬発的に攻撃を繰り出していた。


その攻撃とは、布を使った打撃。


一般的には布やタオルなどの柔らかい繊維素材は剣や弓、盾などに比べて戦闘には適さない。

そんな事は当たり前だ。そもそもの用途が全く違う。


だが、こと護身術に関していえば、事情が変わってくる。


日常の中で突如襲いかかる理不尽な暴力。

そんな時に自身を、他者を護るには常に武装していなくてはならない。


しかし、ガッドの持つような巨大な剣や盾、はたまた特殊部隊の使用する防護服を着て生活できる訳がない。

そのため、護身術の心得がある人間は己の技という名の剣と、日常の中に存在するあらゆる物という盾で武装する。


ペンや鍵、串などは貫通力を持ったナイフに、椅子や自転車の空気入れなどは大楯に、ベルトはうまく使えば鞭になり得る。

そんな数々の物の中でも、特に有用なのが、手拭いやハンドタオルだ。


持ち運びやすく普通に持っていても自然。

広げれば投擲物から身を守ってくれる盾となり、縛れば捕縛に使用できる。

そして、柔軟性があるため、鞭として使用すれば絶大な痛みを相手の皮膚に与える。


レンが今行った打撃はそういう攻撃だ。

鞭のようにしならせ、翻る勢いを利用してその先端を音速の域へ加速させる。


スパン!!!!!!!!!


再び轟音が響き、ガッドが腕を押さえて身をよじる。


「〜〜〜〜〜!!!!!!」


既に大剣は手から離れ、床に転がっている。


ガッドは痛みに耐えられず、膝をついてしまった。

そこへ容赦なく、柔らかいはずの手拭いが頬を貫いた。


パン!!!!!!!!!


「ああ〜〜〜!!!! 痛い!!! 痛い!!!!」

「そろそろ降参してよ」


手拭いをゆらりと振りながら、レンが言った。

ガッドは怒りで顔を上げ、叫んだ。


「出来るか!! 調子に乗るなよ!!」

「そう」


スパン!!!!!!!!!!!


今後は首に恐ろしい一撃が入る。

攻撃を受け、ガッドは床で身悶えしている。


「〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


彼の痛みが引くのを待ち、レンは言った。


「また立つようなら、何度でも打つよ? 嫌なら降参してくれなかな……?」


ガッドは床にうつ伏せになったままではあったが、囁くように呟いた。


「わ、分かった……俺の負けだ……」


冒険者達はざわついた。

あまりの異常、あまりの不気味に。


彼らからしたら、ただの手拭いにそんな力があるなどと、想像できない。

レンの布術は恐ろしい呪いの魔法にしか見えなかった。

それほどまでに、ガッドの痛がり方が普通ではなかったのだ。


自分にもそんな災いが降りかかるのではと、ほとんどの冒険者がレンから目を逸らす。


「ガッドーー! 大丈夫か!?」


リングが開かれ、彼の仲間の女が駆け寄った。

レンはその隻眼の女性に声をかける。


「大丈夫だよ。打ったのは皮膚表面だから今すぐにでも動けるはずだよ」

「だ、黙れ! お前の言葉など信じるものか!!」


彼女の背後で他の仲間達が怯えながらも心配そうに見ている。

それだけで、良いパーティだなと、レンは気がつく。


ニコリと笑顔を作り、レンは手拭いをその隻眼の女の目の前に投げた。

手拭いが床に落ちると、女性は思わず飛び上がるように警戒した。


「返すよ。それを見れば、何の魔法も使ってないってわかるだろ?」


疑いの目でレンを睨んでいた彼女は、恐る恐る手拭いを剣で突く。


それを微笑ましく横目で見つつ、サリーとノエルを探した。

周囲にを見渡し首を回す。


冒険者達は、レンの視線を避けるかのようにそっぽを向く。


「まあ、顔が見られないのは好都合だけど……」

「おーーい。上よ、うえ〜〜」


声のする方向に顔を向けると、吹き抜けになった2階の手すりにサリーとノエルが居た。

その姿を見て、レンは安心しながら手を振った。


それにノエルが元気よく手を振り返す。


しかし、レンの表情は一瞬で硬直した。

彼女達二人のすぐ背後に、ガッドを超える巨体の男がやって来たのだ。


「二人とも!! 後ろ!!」

「…………」


艶やかな紫の髪色の男は、振り返り警戒心をあらわにする二人をよそに、レンを見下ろす。

その黄色い眼光が怪しく輝き、レンは身を竦ませた。

まるであの夜対峙した、竜のような威圧感であった。


ご拝読ありがとうございます。


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