第10話 冒険者ギルドへ行こう
「ついて来ないでください!!!!」
石作りの道をドスドスと音を立てながら歩いているのはノエルである。
朝に教会を出てからもう10分程、そうして歩き続けている。
「まあまあ」
「私たちも冒険者ギルドに用があんのよ」
ノエルからやや離れて後ろを歩いているのはレンとサリー。
「アンタが案内してくれると助かるわ」
「案内してる訳じゃありません!! 素質査定を受けに行くんです!!」
昨日、レン達は神父が帰った後に話し合っていた。
ノエルに連れ添うに当たって、メンツを決めたのだ。
元々は宿の確保が出来次第、アルドの師匠の元へ赴く予定だったため、当初の予定通り、アルドとスミスはそちらへ向かう。
残ったレンとサリーはノエルに付き添うという事になった。
サリーも「冒険者ギルドなら”記憶の鍵”についての情報も集めやすいわ」と言って賛成した。
そのため、先ほどのサリーの発言も、あながち嘘ではない。
ノエルの付き添いと情報収集。
これが冒険者ギルドに行く二人の目的であった。
「悪いとは思っていますよ……。お二人とも私に構ってる暇はないはずなのに……」
「思わなくていいよ。だって神父様の頼みだもの。それを受けたのも僕らの意思だし、ちゃんと別の用もあるしね」
それでもノエルは子供扱いされているようで、納得いかない様子。
彼女はどうしようもない腹立たしさを、路面にぶつけるように、ドスドスと歩を進めた。
◇
「さあ、ここですよ!」
「へえ」
「あら」
3人の目の前には、木造の巨大な建物がそびえていた。
馬2頭が通れそうなほどの大きな木製扉から忙しなく人が出入りしている。
過去の商業都市での記憶を取り戻していたはずのレンだったが、その建物には見覚えがなかった。
「あれ? 本当にここ? 何だか記憶と違う……」
「ええ、私も。前はもっと古めかしかった気がするのだけれど。建て直しでもしたのかしら?」
その建物の壁や窓はかなり綺麗にされており、かなり清潔感がある。
「いいえ、ここのはずです! ほら! 看板を見て下さい!」
レンとサリーは指差された方向に目を上げる。
”エミーのグランドパブ(冒険者ギルド〜クエスト受付)”
そこには、でかでかと描かれた色彩豊かな店名があった。
まるで、ついでのように付け足された”冒険者ギルド”という名前が哀れに見えてくる。
レンもノエルに文字を読み上げてもらう。
しかし、それを聞いたところで、印象は全く変わらなかった。
「怪しいわね!」
「うん! 怪しいね!」
警戒を強める二人をよそに、既にノエルは扉の前に立っていた。
「ほらほら〜〜!お二人とも、行きますよ〜〜!」
冒険者ギルド? を目前に、テンションが上がっている様子のノエル。
「はいはい。怒ったり、喜んだり忙しいわねアンタ」
ノエルは『引く』と書かれた扉の縁に手を置いて、腰を入れる。
サリーはそれに気がつき、注意しようと口を開いたが……。
「あっ、ノエ……」
彼女はそれに気がつかず、思い切り扉を押し込んだ。
ドン!
扉の向こうで何かがぶつかる音が響く。
「あっ……」
「ちょっと! ノエル!」
ノエルはというと、あわあわと震えながら扉を引いて中の様子を見ている。
二人はノエルの元へと駆け出した。
「痛ってぇな!! 誰だ!!」
「あ、あの、申し訳ありません……」
扉が開かれ、ノエルはその大男と目があった。
男はノエルを見ると、一瞬だけニヤリと笑った。
「あっ!! 今の衝撃で大事な時計が壊れちまった〜〜!! どうしてくれんだぁ? 女ぁ!?」
「えっ?」
男の手に掲げられた懐中時計には確かにヒビが入っている。
しかし、その針は明らかに夕刻を示していた。
あからさまな言い掛かりである。
しかし、そんな事に気が付かないノエルは、変わらずに慌てている。
そんな場面を見て、サリーは思わずため息をついた。
「早速起こしたみたいね、トラブル……」
「絡まれてるだけだと思うよ。ここは僕に任せて、あんまり目立つと情報収集もやりにくいだろうからサリーは先に入ってていいよ」
「あら、気が利くわね。じゃあ任せるわ」
サリーはそう言って店の中に入っていった。
その後ろ姿を確認し、レンは「ふーー」と息を整える。
「どうすんだ、コラァ!? 高けぇんだぞ、これ!」
「すすす、すみませんんん〜〜!!!」
「待って、待って!」
レンは男とノエルの間に身を入れて向かい合った。
「なんだぁ、テメェ!」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。女の子相手にそんなに怒鳴らなくても……」
「女だろうと関係あるか!! こっちは大切なモンを壊されてるんだ! 誠意を見せてもらおうじゃないか!!」
そう言って男はレンの胸ぐらを掴んで思い切り引き込んだ。
フードが外れる事を危惧したのか、男の理不尽な怒りに腹が立ったのかは分からない。
レンは男の引く力に抵抗せず、ふわりと身を浮かせた。
そして男の引く勢いを利用して、鼻頭に頭突きをかます。
「ぐえ!!」
「あっ……」
咄嗟に技を使ってしまったと、レンがに気がついた時には、男の鼻からポタポタと血が垂れていた。
「テメェ……! いい度胸じゃねぇか!」
「あ、いや、違うんだよ……。体が勝手に……」
レンは青ざめながら必死に言い訳しようとしたが、男の怒声でかき消された。
「いいだろう!! 喧嘩、買ってやるよ! 決闘だ!!!!」
男がそう叫ぶと、建物の奥で酒盛りをしていた冒険者達が沸き立った。
「おおおーー!!!」
「いいぞぉーー!!!」
「準備しろおーー!!!!」
冒険者達はお祭り騒ぎで立ち上がり、テーブルと椅子を動かしている。
そんなレン達の様子を遠くから見ていたサリーは頭を抱えた。
「そういえばアイツもトラブルメーカーだったわね……」
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