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第9話 神父のお願い


「皆さん!!!!!!!! 聞いてください!!!!!! 私は一人でも行きますから!!!!!!!!」


久々の穏やかな睡眠は、騒がしいノエルの声に破壊された。


「あ〜〜、何よう……」

「うるせ……」

「何事だ……」


サリー、スミス、アルドは一様に眠気まなこを擦りながら、身を起こす。

一方のノエルはというと、相変わらずぎゃあぎゃあ騒いでいる。


「皆さん!! ダラダラしてる場合じゃありません!! 神父様から聞かれたかと思いますが、私、これ以上皆さんにご迷惑をかける訳には……」

「ストップ! 待って、ノエル!」

「はえ……?」


徐々にヒートアップするノエルを止めたのはサリーだった。

寝起きに大きな声を出されて、片手で頭を抱えている。


「何の事だかさっぱりだわ。私たち、ここに着いてからはずっと寝ていたの」

「へ? では、神父様はここにいらっしゃらなかったのですか?」


それに応えたのはレンだった。


「さっき来たよ。皆は寝てたから、夜にまた出直すって」


それを聞いてノエルの顔が青ざめる。


「寝ていた? そういえば皆さん随分眠そう……。で、では、私……皆様の眠りの邪魔をしただけでは……」

「ふあ〜〜。まあ、そうなるわな」


スミスは欠伸をしながら無慈悲にそう言った。


そしてそれを聞いて愕然としながら、ノエルはその場にへたり込む。


「も、も、も、申し訳ありません〜〜!!」





「冒険者ギルドについてきてくれって!?」

「い、いえ! 私一人で行きますと、神父様には言ったのですが、どうしても聞き入れていただけず……」

「それで私たちのところへ来たのね。そして、グラム神父の頼みを断らせよう、と……」


コクリと小さく頷いたのはノエル。


教会へ帰還したノエルを待っていたのは、神父と修道女達の暖かく、感動的な出迎えだけではなかった。

当然だが、ほぼ半日にもわたるお説教も付いてきたのだ。


無謀な行動を散々叱られた彼女だが、断固として”冒険者になりたい”という意思は曲げなかった。

流石の神父も彼女の強い意志と行動力に折れ、冒険者を目指す事を認めるに当たって、二つ条件を出したのだという。


一つ目は、優秀な二等級以上のパーティに加入する事。

二つ目は、レン達に見届け人として同行してもらう事。


一つ目と二つ目は彼女にとっては非常に厳しい条件ではあったが、挑戦する事自体は認めたそうだ。

それはアルド達も納得出来る。

パーティの等級は、冒険者の生存率に大きく影響するのだから。


低ランクのパーティほど、経験の浅さから無茶な行動をとることが多く、もっとも生存率が低い。

彼女を案ずる神父にとっては重要な指標である。


またしても神父の愛情を感じずにはいられなかったが、肝心な本人にはあまり伝わっていないようだ。


「神父様ったら、こんなに厳しい条件を付けて! きっと諦めさせる気なんです!」


なんてことを言いながらプンスカしている。


「”親の心、子知らず”だねぇ……」

「上手いこと言ってる場合じゃないでしょ。それに、私たちが見届け人になるってのが分からないわ」


そう、問題は三つ目の条件である。


レン達を見届け人にする意図が、全員読めなかったのである。


「確かにそこが分からないよね。それは神父様ご本人に聞いてみるしかないでしょ」

「まあなぁ〜〜」


スミスもレンの意見には同意した。


「皆さん! 神父様の申し出は断ってくださいね! 私、これ以上皆様を巻き込むのは流石に申し訳ないんです!!」

「巻き込まれたなんて思ってないよ」

「ああ。それに私たちもこんなにも良い宿を提供してもらっている。何ならその依頼、受けてもいいくらいだと思うが、皆はどうかな?」


アルドの意見には皆、同意した。

レンも正直なところ、ここまで世話になっているのだから、請け負ってもいいくらいだった。


「皆さん!! お願いですから断ってください!」

「ふむ、ノエル嬢の意見だけで決めるのは流石に不公平というものだ。神父様の話を聞いてから決めさせてはくれないかい?」


アルドの真っ当な意見に、ノエルはたじろいでしまう。


「うう……、確かにアルド様のおっしゃる事は正しいです……正しいですけど……う〜〜!」


俯きながらも反論を探したノエルだったが、結局は見つからないようだ。

彼女は立ち上がると、不服そうにドスドス言わせながら扉へ向かう。


「もういいです! 明日の朝、神父様から答えは聞かせていただきます!

では、おやすみなさいませ! 起こしてしまってすみませんでした!!」


彼女は扉をバタリ、と閉めて部屋から出て行った。

ややプンスカ、としながらも、最後にはしっかり謝罪を入れるところが彼女らしい。


嵐のような時間が過ぎ去り、急に静かになった部屋で一同は顔を見合わせた。


「どうする……?」

「どうするも何も……私たちが断っても、無理やり冒険者ギルドへ行きそうね」

「条件がクリア出来なかった場合も余計に大変だな。また失踪するかもしれん……」

「ええ、そうなのです。あの子の悪癖には私どもも気苦労が絶えず……」

「本当、神父様も大変……って、ええ!?」


いつの間にか、話題の本人であるグラム神父が扉から顔を覗かせていた。


「い、いつの間に!?」


全員が扉へ顔を向けて驚いた。

神父は若干申し訳なさそうに扉を開けて中に入った。


「実は道中、ノエルがこちらへ向かうのを見かけまして。もしや皆様を起こしてしまうのではと、後を追ってきたのですが……。

間に合わず、申し訳ありません」

「ええと、つまりは最初からそこで聞いておられたのですか?」

「ええ、もちろん」


グラム神父は軽くにこりと笑みを作った。


この壮年の神父は、いかにも厳格な雰囲気を携えてはいるが、案外親しみやすい方なのかもしれない。

一同にそんな印象を与えつつ、グラム神父は立ったままで話を始めた。


「ノエルからお聞きになったかと思いますが、あの子と冒険者ギルドへ付き添っていただきたいのです」

「ええ、確かにお聞きしました。ところで何故私たちが? ああ、その前にどうぞお座り下さい」


アルドはそう言って、空いている椅子を差し出したが、「ありがとうございます、ですがこのままで」と神父は立ち続けた。


「そうですねぇ。皆様はこの街の冒険者ギルドについてはご存知でしょうか?」

「ええ」

「はい」


応えたのはサリーとアルド。

残ったレンとスミスには何の事なのかさっぱりで、頭に”?”マークを乗せている。


「スミスはともかくあんたは知っているでしょう? そこまで記憶が戻ってないの?」

「分からないってことは、そういうことだね」


思い出していないのか、単純に理解出来なかったのか。

後者の可能性が高いので、レンは敢えて思い出していないフリをする事にした。


神父はそれを察して説明してくれる。


「良いですか? この街の冒険者ギルドは他の街とはやや趣が異なります。

一般的に街の守備は王国から派遣される軍が担うものですが、ここ、メルクではそれを冒険者達が担っています」

「その方が警備関係の需要が増えて、街の経済がより回転すると思って……、というアルド王子のアイデアらしいですね」


アルドは自慢げに語りかけたが、途中で気がつき無理やり締めた。


そう、今神父の目の前に居るアルドはアルドではない。

認識阻害魔法によって、神父にとっては全くの別人である。


「ええ。冒険者達は一種の自警団として機能しています。だからこそでしょうが、他の街以上に荒くれ者が集うようになったそうです」

「つまりは冒険者ギルドは治安が悪いと?」


スミスは丁寧に説明してくれる神父に聞き直す。

やや困った顔をして、神父はそれに答えた。


「言ってしまえばその通りです」


サリーは神父の心配を察して付け加えた。


「そうね。あそこはある程度は秩序だってはいるけど、危険な面も確かにあるわ。

ノエルをそんな場所に向かわせること自体、抵抗があるのも分かるわ。何をされるか分かったものじゃないでしょう」

「ええ。それもありますが、一番の懸念はノエル自身です」

「……というと?」


アルドを含め、一同は理解が追いつかない。

それを察して神父はさらにこう言った。


「ノエルがトラブルメーカーなのは皆様もご存知でしょう……」

「「「あ〜〜」」」


納得の理由。


あの騒がしい修道女が荒くれ者の集う冒険者ギルドに行って、何も起こさないはずがない。

全員のイメージが完全に一致した。


「そうなのです! 短い間とはいえ、ノエルと旅した皆様になら理解していただけると思いました」


レン達の反応を見て、神父は胸を撫で下ろしたようだった。


「本来であれば、保護者である私どもが付いていくべきです。しかし、私たちには暴力や理不尽に対処するための経験も、知識もありません!」

「それで僕らに依頼したい訳ですね」


レンはそう言って立ち上がった。


「分かりました! 良いお部屋に泊めてもらっているお礼です! 僕たちに任せて下さい!」


レンは気持ちだけで承諾してしまったが、彼以外の意見も変わりはなかった。

皆、レンの言葉に頷いていた。


ご拝読ありがとうございます。


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