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第3話 メルクへの旅路②


御者席に座るレンの頬に木枯しが吹き付ける。

レンは思わず身震いし、手を擦り合わせた。


隣に座って手綱を握っているサリーも同じく寒さに身を硬らせている。

少しでも暖かくなろうと、彼女はフードを深く被り直す。


メルクに近づくにつれ、段々と寒さが増してきたのでレン一行は交代で御者席に座っていた。

先ほどまでそこに座っていたアルドとスミスは、今は荷台で休んでいる。


「この季節にしては寒すぎるわね。今年は変だわ」


サリーが肩を竦ませながら呟いた。

レンは「そうだね」と返事をして思いつく。


「サリー。あったかくなる魔法ってないの? 炎系統は得意って言ってたじゃない!」

「あー……。ふふふ、よくぞ聞いてくれたわね……。あるわよ」


サリーは少し考え、不敵な微笑を浮かべた。


(サリーのドヤ顔だ、ドヤ顔が出るぞ……!)


そう思いつつも、レンの期待は高まった。

この寒さに彼自身も嫌気が差していたのだ。


「さすがサリー! 早速頼むよ!」

「ええ。辺り一体焼け野原になるけどいいわね?」

「え。」


サリーは手をかざして魔力を流す。

それは魔法杖を使わない簡易的な術式であるが、彼女の力量であればその威力は常人のそれではない。

前方に向けられた手の甲に、小さな魔法陣が幾重にも連なった。


「ちょちょちょ!!」

「あによ」

「いい! いいから! 寒くていいから!」


サリーはニヤニヤとしながらレンの反応を楽しんでいるようだった。


「じょーだんよ、じょーだん。そんな都合のいい魔法をポンポン使える訳ないでしょう」

「何だよー、ビックリさせないでよ……」

「はっはっは。まあ、ちゃんと術式を組めば出来なくはないけどね。商業都市で防寒着を買った方が早いわよ」


サリーはそう言って手綱を握り直して前方へ目を向け直した。


一行が荷馬車で走っているその道は、メルクへと続く街道である。

周囲は草原に囲まれており、エルフの里があるカブレス山脈は遥か後方に悠々とそびえている。


前方はというと、ただの砂利道と草原しか目に映らない。

ハッキリ言って、非常に飽きる風景である。


しかし、サリーの見つめるその先に異変が生じた。

それはレンもすぐに気が付いた。


「! 止めるわよ!」

「あ、うん!」


サリーが手綱を引いて馬を止める。

荷馬車が突然止まったので、アルドとスミスが顔を覗かせた。


「何かあったか?」

「ええ……二人ともあれを見て」


荷台の幕から顔を出した二人は、サリーの指差す方向を凝視する。

そこに居たのは緑色のゼリー状の生物とそれに破壊されたであろう荷馬車であった。


「スライムだ!!」


アルドはそう叫ぶと、スミスと共に急いで荷馬車を降り、剣をとる。

レンもまた御者席から飛び出して馬車の前に立った。


レンが先頭に立つと、剣を構えたアルドとスミスもやって来る。

そしてレンは自分の横に並んだ二人に聞いた。


「スライムってそんなに危険なの?」

「ああ。あんな見た目だが、凶暴なモンスターだ。動く物であれば何でも吸収してしまう。厄介なのは物理的な攻撃は一切通用しない点だ」

「一切? ホントに?」


それを聞いて、剣を構えたスミスが言った。


「ホントさ。あの水みたいな体には魔法攻撃しか通用しないんだ!」


もしそうであれば、物理的な攻撃手段しか持たないレンにとっては天敵である。

もちろん、それは他の三人も理解していた。

アルドもスミスも、レンを守るために前へ出てきたようなもの。


そうしている間にも、スライム達はこちらに気が付き、ズルズルと近づいてくる。

その大きさは2メートルほど。全体が緑色の半透明なアメーバである。


「レン。君はさがって……」


アルドがそう言いかけた瞬間、レンの足元から砂利が舞う。

彼は、アルドが話すよりも早く、口伝”竜歩”を使ってスライムへと突進していく。


「うおい!!! レン!!」


スミスが叫ぶとレンも振り返らず応えた。


「荷馬車に乗っていた人が心配だ!! 早く助けよう!!」


そう言って再び加速し、レンはスライムの目の前に立ち塞がる。

スミスとアルドは大慌てで走り出そうとするが、御者席のサリーに止められる。


「あんたら待な」

「サリー!? 何言ってんだ! レンがスライムに喰われちまう!」


スミスはそう言うが、御者席に座ったままのサリーは落ち着き払った様子である。


「あんたね、短い間だけどレンと一緒に旅してきたんでしょ? それなら分かるはずよ。あいつに不可能は無いって」

「サリー。お前、そこまでレンを信用して……」


スミスは思わず自分が恥ずかしくなった。

今までレンが闘って勝てなかった相手がいただろうか?


闘技場のチャンピオンや前線の騎士、オークやドラゴン。

そんな怪物達を前にしても、レンは勝ちを納めてきた。


相手が何であろうと、彼は立ち上がり、再び拳を握るのだ。


「くっ……。サリーの言う通りだ! レンなら大丈夫! きっと何とかしてくれる!」

「ええ。分かってくれたみたいね!」


そして二人は顔を見合わせ、スライムに向かうレンの勇姿を見た。


その姿は、緑色のゼリーに包み込まれ、中で溺れているようだった。

というか、溺れるどころか、もがき苦しんでいた。


「ダメみたいね。」

「サリー!!!」


怒るスミス。

遠くを見るサリー。


そんな二人に向かって、レンを助け出そうとスライムに奮戦しているアルドが怒鳴った。


「早く助けたまえ!!!!」

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