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第11話 膠着状態


グリアの首筋にナイフを突きつけていたのはレンであった。

だがレン自身に人質をとるという行為に躊躇いがあるのか、手が震えてしまっている。


かと言って、エルフ達の危機を打破するにはこの方法しかなかった。


一方の野盗達は、震える手でナイフを握るレンを見て、怪訝に動きを止めている。

森は先ほどまでの乱戦が嘘のように静まり返った。


場に緊張が走る中、グリアが飄々と口を開く。


「流石は元勇者様だ。随分と勇ましい」

「だ、黙れ! 動くな!」

「少しくらい、いいじゃないか。それにお前には聞きたい事もあるしな」


ナイフを突きつけられているにも関わらず、グリアの表情は実に柔和なものだった。

それこそリラックスしていると言ってもいいほどに。

そして、グリアは続けた。


「あんたがここに居るってことは、ルイスも居るんだろ?」

「!? 何でルイスを知っている!?」


グリアの口からあまりにも予想外な名前が出たので、レンはますます動揺する。

そんなレンの様子を意にも介さずにグリアは続けた。


「さっきから、出てこないから不思議に思ってたんだよ。もしかして別行動でもしてるのか?」


自分にナイフが突き付けられているのにも関わらず、まるで世間話のような風である。

この程度何でもない、そのような態度に、レンの口調が荒くなる。


「何でそんな事を答えなきゃいけないんだ! それよりも仲間達を下げろ! じゃないとこのナイフが……」

「出来っこないさ、お優しい勇者様にはな」


グリアは見透かしたように言いのけた。

しかし、レンはナイフを握るてに力を込める。


「やってみるか!」


そう言って、首筋に刃を当てた。

グリアが少しでも動けば簡単に皮膚は切れるだろう。


「おおっと! 分かった、分かったよ! お前ら、俺の後ろまで下がってやりな」


流石にグリアは手を上げたものの、そのふざけた口調は止めようとはしない。


野盗達は指示を受け入れ、レンを睨みつけながらもゆっくり後退した。

レンは下がっていく野盗達に背後を取られないようにすれ違いながら、グリアを連れて後ろ向きに防衛拠点付近まで移動した。


野盗達は3メートル程離れたところで立ち止まり、グリアを見ている。

まるで何かを待つように。


「もっと下がれ!」


レンがそう叫ぶも、野盗達は動こうとはしなかった。

レンが焦れているとグリアが再び喋りだす。


「なあ。ルイスはどこに居るんだ? 家族を下げたんだから少しくらい教えてくれよ」

「うるさいぞ! お前に教える事なんてない!」

「ああ、そうかよ……」


グリアがそう言った瞬間、レンは凄まじい殺気を感じた。

まるで全身を突き刺されたような嫌悪感。


偶然なのか、直感で理解していたのかは分からない。

それでもレンは咄嗟にナイフを離し、グリアを置いて後方へ飛び退いた。


ズドン!!!!!


雷が落ちたような音と共に、ナイフが電光を発して地面に落ちる。

もし持ったままであったら、レンは殺人的な電圧に焼け焦げていただろう。


「『サンダー・エンチャント』 ッチ……何で分かったかなぁ……」


電光を発し、刃の溶けたナイフが地面にポトリと落ちると、グリアがそう呟いた。

その瞬間、再び野盗達が雄叫びを響きわたらせた。


「うおおおおお!!」「流石お頭!!」「ヒヤヒヤしたぜ!!」


歓喜の声を上げた。

そして武器を持ち直し、再び侵略せんと進み始める。


それに対抗するように、エルフ達も盾を、槍を、剣を構えて防衛線を立て直す。


両者が睨み合っている中、レンの隣にスミスが歩み出た。


「おう。お陰で助かったぜ」

「スミス!」


エルフ達も彼の後から次々と歩み出てきた。


レンがグリアを人質にとっていた間に、多くのエルフ達が回復し、戦闘に復帰できるようになったのである。

そして、レンの隣に先ほど助けたエルフの少年が歩み出た。


「レンさん、ありがとう。貴方の時間稼ぎで立て直せました」

「そう……。失敗しちゃったと思ってたけど、それなら良かったよ」

「あ! それに、こいつを渡せる時間もできたしな」


スミスがそう言ってレンに手渡したのは、件のエイオンが要石の加護を解除するのに使った古めかしい鍵であった。


レンはそれを受け取り、驚いた。

以前、ルイスから受け取った記憶の鍵と全く同じ形であったためだ。


「スミス! どこでこれを!」

「あの野盗の仲間が持っていたものだ……ルイスを探している事といい、あいつらただの野盗じゃなさそうだな……」

「確かに変だよね……! スミス、ありがとう!」


レンはそう言って、鍵をポケットにしまった。

そしてまた、グリアへと顔を向ける。


グリアもそれに応じるように、仲間達に向けて檄を飛ばす。


「野郎ども!! もう終わりにしようや!! さっさと全員殺してしまえ!!」

「おおおおお!」「そうだ! やっちまえ!」


グリアのよく通る声に圧されながら、野盗達のボルテージが上昇する。


「それにな……やっと寝坊助が起きてきたみたいだぞ……」


グリアがそう言った瞬間、奥の茂みが棍棒によって薙ぎ倒され、エバルコが姿を現した。


「すまん。なんか寝てた」

「本当に寝てたのかよ、バカ」


エバルコの巨体を見ると、野盗達の勢いは更に増した。

レンの横に立つエルフ達が竦む位に恐ろしい叫び声を上げている。


「お前ら! あの元勇者には手を出すなよ。エバルコがやる」


その指示に野盗達口々に応じた。

エバルコもレンを睨みつけ、棍棒を肩にかけた。


「殺せー!!!」


グリアの号令と共に、野盗達が森を駆けた。



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