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第7話 侵略者

エルフの里からは賑やかな祭りばやしが聞こえてくる。

誰一人として里の上層で激しい戦いが起こっていた事など知るよしもなかった。


スミスは、自身の魔法によって倒れ伏せたエイオンの手を見た。

そこには、見覚えのある鍵が握られていた。


「これって……レンの記憶の鍵ってやつか!?」


スミスは思い出す。

あの闘技場でルイスから渡されたという鍵の姿を。


形はよく似ていたが、持ち手の中心に付けられている宝石の色は違った。

記憶の中では青い宝石だったが、そこには紫色が怪しく輝いていた。


「何だってコレをこんな奴が……」


そう言って、エイオンの手から鍵を取り上げるとよく観察してみる。

だがその時、倒れているエイオンの口が微かに動いた。


『門よ……来れ……』


すると、突然鍵が淡い光発し始めた。


「うわ!! 何だ!?」


その光に共鳴するように祠の中の要石が強い輝きを放つ。

そして、その光は鍵へと吸収されていく。

慌てたスミスは鍵を持ったまま、片手でエイオンの胸ぐらを掴んで問い詰める。


「何だこれ!? テメェ! 何しやがった!?」

「へへ……。これで、仕事はまっとうしたぜ……お頭……」


エイオンはそのまま意識を失った。


スミスは何が起こっているのか分からないまま、鍵を振ったりしてみるが、光の吸収は止まる事はなかった。

やがて、要石の光が止むと、鍵からまっすぐな閃光が放たれた。


その閃光は境内の地面に突き刺さり、そこを中心として大きな魔法陣が出現する。

だが、展開された魔法陣は何の動きも見せないまま、光るだけであった。


スミスは考えを巡らせた。


これは何の魔法陣だ? 召喚術式? 大規模破壊の魔法? 止めるにはどうしたら……。


だが、自分には結論を出せないと悟ると、スミスは呟いた。


「まずいな……。俺じゃあどうにも出来ん……。とにかくサリーだ!」


今は彼女の魔法学士という肩書を信じることしか出来ない。

スミスは光を失った鍵を持ったまま、宴会場へと走って行った。




先ほどまで賑やかだった宴席は物騒な騒ぎに変わっていた。

エルフの巫女の一人が、族長の元へ走り耳打ちをした。


族長はそれを聞いて、目を見開いて驚いたが、真剣な顔つきに変わり宴会を楽しむエルフ達に大声で叫ぶように言った。


「皆の者聞けい!! 里の守りが解かれた!! 男達は警戒体勢に移れ! 女達は子らを連れて上層へ!!」


その危機に迫った声を聞いて、エルフ達は慌ただしく動き出した。

宴席の和やかさが嘘のように、緊迫感が里全体を支配していた。


男達は里唯一の門付近に集まり、女たちは子供を連れて階段を上がっていく。

それを見てレン、アルド、サリーも立ち上がった。


「アルド王子、緊急事態です。皆さまは上層へ避難して下さい」

「族長、一体何が起きている」


アルドは避難を促す族長に聞き返した。


「原因は分かりませぬが、里を守っている加護が解けてしまったのです。こういう時は侵略者がやって来る」

「加護とはあの霧のことか!? それはまずいな……。私たちも加勢しよう」

「ええ! 僕らも戦いますよ!」


宴席でエルフ達が言っていた。


この里を包んでいた加護は霧状に里を囲み、この里に危害を加えようとする意思がある者は決して辿り着けないようにする力があると。

その加護が解かれたという事は、この里に危害を及ぼす何者かに無防備になったという事である。


族長はアルド達に加勢は止めるように言ったが、アルド王子もレンも聞き入れなかった。

アルド達も彼らに受けた恩を返すためにも譲るわけにはいかなかった。

一方で、サリーは里の状況を俯瞰しながら考えているようだった。


「サリー? どうしたの?」

「……ええ。確かに加護が解かれてる見たいね。でもおかしいわ。古神とはいえ、神の加護を解除するなんて……」

「サリー、変かもしれないけど今はそれどころじゃないよ。君も彼らに力を貸してくれないか?」

「当たり前じゃない。あれだけ美味しい料理を振る舞ってもらったんだから、せめてその分は働かないとね」


サリーはそう言って、杖を掲げて魔法を発動する。

『アルペウス神よ……』


祈りを唱えると、森の木々がザワザワと揺れ、何百という葉っぱで形作られた鳥達が羽ばたいた。

それらは里から四方八方に飛び立っていった。


「すごい……! でも一体何を?」

「探知よ。待ってて、すぐに分かるから」


まもなく、一羽の葉っぱ造りの鳥が飛んできた。

そして、サリーの杖にとまった。


サリーがその鳥触れると、鳥は元の葉っぱに戻り、サラリ、と散った。


「うん……。 門の方向から人間の群れが来るわ。数は50ちょい」

「50人!? そんなに!?」

「私がいれば大丈夫よ。この程度の人数なら……」


サリーが何か言いかけたが、後ろからかけられた声に遮られた。


「おーい大変だ!! サリー!! 助けてくれ!!」


それはスミスの声であった。

彼は非常に焦った様子で二人の元へ駆けてきた。

スミスは里の変化にも気が付いているようだったが、それ以上に緊迫した様子だった。


「どこ行ってたのよ? 見ての通り大変よ」

「いやいや。何だかここも大変そうだが、こっちも大変そうなんだ……! サリー、一緒に来てくれ!」

「何で私?」

「いいから!!」


スミスはよっぽど急いでいるようで、サリーの腕を掴んで引っ張って行った。


「スミス! どうしたんだ!」

「すまん! 俺も後で加勢する!」

「離してよ! 自分で歩けるったら!」


そうして、スミスは里の上層へとサリーを連れて行く。

アルドとレンはそれをただ見ていたが、今は時がない。


「あちらも緊急事態のようだな。だが、今は目の前の危機に集中しよう!」


アルドがレンに声をかけ、レンもハッとして頷いた。

そうして二人も騒動の渦中である、エルフ達が守る門の方向へと足を向けた。




月が雲に隠れ、森に暗闇が落ちる。


そして暗黒の森の中に、唯一輝いているのは炎の煌めきであった。

あの方向にエルフの隠れ里がある。野盗団、キャリバン一家は歓喜していた。


彼らは、一向に晴れない霧の中でひたすら待ち続けていたのだ。


この蹂躙の時を。


「お頭! エイオンの野郎、やったようですぜ!」

「そのようだな。よし、お前ら! 仕事の時間だ!」


キャリバン一家の長であるグリアは部下達を立たせ、目標を定める。


「あの光が見えるか! あの光の元に、大量のお宝があるぞ! 宝石、魔道具、美しいエルフ達だ!」

「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」


グリアの檄に部下達が呼応する。

彼らの目は恐るべき光を帯びて炎の輝く方向へと向いた。


「いいか!! 早い者勝ちだ!! 同仕打ちは許さねぇぞ!!」

「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」


部下達の忠実な返答を聞くと、グリアはすぐさま腰の刀を抜いて、炎の揺らめく方へ刃先を向けて叫んだ。


「蹂躙の始まりだ!! 奪い尽くせ!!!」



その声を聞いた瞬間、部下達が一目散に駆け出した。

先ほどまで組んでいた隊列など関係ない。全員、我先にとエルフの里へ突撃していったのだった。


「エバルコ。お前はいつも通りだ。厄介な奴はお前が相手しろ」

「おう」


駆けていく部下達の後ろ姿を見ながら、グリアの後ろに控えていた人間にそう言った。


エバルコと呼ばれたその大男は、その身の丈にも劣らず巨大な棍棒を肩に担ぎ、ゆっくりとグリアと共に歩いて行った。



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