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第5話 スミスの魔法

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エルフ達の宴会は続いていた。


酔った勢いでサリーにとんでもない失言を吐いたスミスは、馬乗りで顔面をボコボコに殴られた。

そして、レンが彼女をはがいじめにして押さえている内に、酒瓶を持ってどこかへ逃走していた。


サリーは、怒りが治らない様子でやけ食い気味に食事を続けていた。

捨て台詞の『バーーカ、貧乳ーー!』という言葉が余計にサリーの怒りに油を注いだようである。


「それにしてもスミスってタフだなぁ」


レンはそう呟くと、コップに手をかける。

スミスはあれだけ顔面を殴られてもフラつきもしない、しっかりとした足取りで里の上層へと逃げていったのだ。


「ふふ、それはそうさ。彼は優秀な剣闘士だったからね」


アルド王子がそう言って、レンの隣に座った。


「アルドおう……。アルド。それでも結構危ない所にもらってたよ」


王子と付けそうになって言い直す。

未だに彼への呼び捨てに慣れていない。


「彼の魔法の性質上、打たれ強くならざるおえないのだろう」

「スミスの魔法? そういえば聞いたことなかったなあ」


僕がそう言うと、アルドは意外そうな表情になったが、直ぐにニコリとして話始めた。


「そうか……。では、私から話あげよう。彼には内緒にしてくれよ。もしかしたら敢えて黙っているのかもしれないしな」

「うーん……分かった。聞かせて」


レンは少し躊躇ったが、聞くことにした。


スミスがレンに話さなかった理由が想像できたからだ。

そう。あの牢獄ないでは、スミスは努めて明るい会話をしているように思えたからだ。


スミスの魔法は、彼の凄惨仕合内容に触れるものだ。

その事を分かっていたので敢えて黙っていたのだろう。


だがレン自身はスミスの使う魔法に興味があった。


アルドはコップに注がれた酒を一口飲むと、話始めた。


「彼の魔法は“黒“に属する系統でね。ああ。いわゆる黒魔法と呼ばれるものは呪いや災いに関する力を発現させるものだ。分かるかな?」


アルドは簡潔にそう言ったが、途中でレンの魔法に関する知識が、どこまであるのか分からないと気が付いたようだった。


「呪いとかなら分かるよ。たとえば、儀式とか代償を払うことで、相手に害を及ぼすようにする力、ってところ?」

「そう。よかった、大体あってるよ」


呪いならレンが暮らしていた世界にもある概念だ。

その程度の知識であれば、何となく認識できる。


「でも、実際の戦闘では使いにくい魔法だよね? 儀式とか代償とかはその場でできるものなのかな?」


レンの疑問を受けてアルドは話を続けた。


「彼の場合は、やや特殊でね。代償はその場でいくらでも用意できる。彼が死なない限りはね」

「うーん……。どういう事?」

レンはアルドの遠回しな言い方に、興味を引かれ続きを催促した。


「そうだなもう少しヒントを出そう。彼の戦績は知っているかな?」

「知らないなあ……」

「そうか。では教えよう。3戦中、0勝0敗だよ」

「え!? 勝ってもないし、負けてもない!?」

「そうさ。全て引き分けだ」


レンは知っている。

あの闘技場で勝敗が付かない事はかなり珍しい。


必ずどとらかが戦闘不能になるまで仕合が止められることがないからである。

それを踏まえて考えると、3戦引き分けなどという結果はおかしな話だった。


「一体どうやって……」

「ふふ。分からないかね? では答えを教えよう」


アルドはレンにそっと耳打ちをした。


「なるほど! それは厄介な魔法だね!」


レンの言った通り、スミスの魔法は非常に厄介この上ないものだった。

相手にとっても、スミス本人にとっても……。




夜空に丸い月が浮かんでいる。


里の上層にあたるここは、普段エルフ達が信仰の対象としている神を祀った祠がある場所だ。

既にその神は居なくなったが、その力のの残滓が里の加護として機能していた。


祠を囲むように整えられた、周囲の木々はこの場所が厳粛な空間であると強調するように聳えている。

スミスはそんな木々の一つの枝に座り、美しい月光に照らされながら酒瓶をあおった。


その場所から見える里の風景を眺めながら、そろそろサリーの怒りも治った頃だろうかと考えていた。


ザリ、という足音が下から聞こえた。

スミスがそこへ目を向けると見知らぬ人間がおぼつかない足取りでこちらへ歩いてくる。


スミスは、彼に心当たりがあった。


先ほどの宴席でエルフ達が、怪我をした人間の猟師がいることを喋っていたのだ。

彼はよほど怪我が重いらしいく、宴席には顔を出していないという事だったので、明日にでも話してみようと考えていた。


「よう! あんたも涼みに来たのかい?」


スミスは親しげに声をかけた。

男は、ギョッとして上を見上げ、スミスを見つけた。


「あ、ああ……」


そして驚きながらも、慌てている様子に見えた。


スミスは、座っている枝から地面へ降りると、階段を登ってくる男に向かって言った。


「驚かせて悪かったな。俺はスミスだ。あんた猟師だって? エルフ達から話は聞いたよ。災難だったな」

「ああ、そりゃ、どうも……。俺はエイオンだ。よろしく」


エイオンが階段を上り切ると、スミスは酒瓶を振って笑いかけた。


「どうだ? 一杯」

「あ、うーん……。悪いがやめとくよ。先生に頼まれごとがあってな」


エイオンは出まかせの嘘を吐いた。


「頼まれごとってどんなのだ? こんなところに? ここには祠しかねぇぞ」


スミスがそう問いかけると、エイオンはギクリとして取り繕う。


「そ、その祠に用があるんだよ!」

「いや! そりゃ酷い先生だ! あんた怪我人じゃないか! こんな長い階段登らせていい訳がない!」


(ええい、しつこい……!)


エイオンは思ったが、スミスは止まらない。


「ちょっと先生に文句言ってやる! 呼んでくるから待ってろ!」

「あ! 待て! それはまずい!」


ここにエルフ達を呼ばれたら、絶対に面倒だ。

計画遂行は困難になり、失敗したらどんな目に合わされるか分からない……! 

エイオンは必死にスミスを止めた。


「待ってくれ! 訳があるんだ!」


それを聞いてスミスは足を止めた。


「訳ってどんな?」

「それはだな……。まじないさ! この里に伝わる怪我を治すまじないだよ! この階段を自分で登って、この祠の中の要石に祈りを捧げると怪我が治るって先生が言ってたんだ!」

「まじない……」


スミスはエイオンと祠を交互に見回すと。


「なんだぁ〜〜! そうなら先に言ってくれよ〜〜!」


バカでよかった……! 

エイオンはそう思って、心の中でほくそ笑んだ。


「邪魔して悪かったな!」

「いや、いいんだ。俺も言い方が悪かった!」


二人はお互いに笑い合った。

エイオンは安堵の笑いだった、だがスミスは少し意味が違った。


「ところでよ」


スミスはそう言うと、エイオンの胸ぐらを掴んだ。

それによって、胸元に彫られた刺青が露わになる。


それは蛇が自分の尾を口に入れているマーク。

その上から斜めに赤い縦線が入っている。


「この刺青はなんだ?」


スミスの表情が変わっていた。

まるで、敵を追い詰めるような語勢がそこにはあった。


「テメェ!!」


エイオンはスミスの腕を振り払う。


正体がバレてしまった……。

この国の人間であれば誰でも知っている不吉の印。


キャリバン一家の家紋を見られてしまった……。

エイオンはそう思ったが、もはやそれは焦りではなかった。


「これを見られちゃあ、もう殺すしかないな……」


エイオンの焦りは消え去り、純粋な殺意を込めてそう言った。


「お前! その刺青は……キャリバン一家だな!? 何企んでやがる……!」

「不運なやつだよ、アンタ」


スミスの言葉は聞かず、エイオンはゆっくりとそう言って、スミスを睨みつけた。

そして、ポケットに両手を入れる。


一方のスミスも既に臨戦態勢である。すぐにでも一撃加えようと腕を構えた。

スミスは拳を握り、全力で殴りかかった。


「このやろう!!」


しかし、スミスの拳はエイオンの顔に届く直前で止まった。


「ぐっ……!!」


スミスの首筋が何かに圧迫されていた。

まるで目に見えない手に首を締め付けられているようだった。


「ははは、どうした? さっきまでの威勢はどこへ行った?」


エイオンは変わらずポケットに両手を突っ込んだまま笑っている。


そして、何とか拘束を解こうともがくが、スミスの首を掴んでいる手は物凄い力で圧迫をお続けており、とても解く事は出来なかった。

そうしている内に、スミスの体が空中に持ち上がる。


バタバタと宙を蹴るスミスの足が、エイオンに届く事はない。


「そのまま死にな」


エイオンはそう言って勝利を確信した。

しかし次の瞬間、エイオンの首にも強い圧迫を感じた。


「うぐっ……!」


じわじわと首が締められていく。

まるで、自分の首を自分で締めてているような感覚……。


エイオンはたまらず、魔法を解除した。

すると、首の圧迫が消え去る。

そして、スミスもその圧迫から解放され、地面に落ちた。


「はあはあ。テメェ、一体何を……」

「そっちこそ何しやっがった……!」


睨み合う両者。

遠くから祭囃子が鳴り響く中、二人は睨み合っていた。


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