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第85話 突き穿つ


 サリーが目を覚ます。


 眼前には特大サイズの火球。その熱線と輝きは、万象を焼き溶かす力に満ちている。

 そして、彼女へ向けて放たれたそれは、もはや避けようがない程に膨れ上がっていた。


 彼女には、強大な魔法に対抗するための魔力は乏しく、死は確定したも同然だった。


 だが、サリーは想い出した。


 ルイスと交わした約束を。

 レンの居場所であり続ける決意を。


 焼けつくような痛みを感じながら、彼女はそっと笑みをこぼす。


 「ルイス、やっぱり貴方、私なんかよりずっと我儘よ」


 ルイス、ルイス、ルイス……。


 彼女の柔らかな陽射しのような笑みを想い出す。

 いつだって誰かを包み込むように優しさを想い出す。

 本心を隠すのが下手くそで、その癖誰よりも仲間の感情の機微が分かっていた。


 そんな彼女が、どうして、どうして、どうして……。 


 心が深く締め付けられる。

 

 だがサリーは理解した。

 その感覚こそが、目前に迫る危機に立ち向かう勇気を与えてくれる事に。


 「ルイス……貴方、こんな状況でも諦めさせてくれないのね……!」


 魔杖を握りしめ、彼女は上空に浮かんだ太陽を睨んだ。


 

 現状、この魔法に対抗する手段はない。

 ”太陽の儀式”の特性をよく理解しているサリーは、そう確信する。


 この魔法は、放った直後から標的を焼くまでその延焼領域を広げ続ける。

 

 なので今のサリーの魔力量では回避不可。

 さらに、圧倒的な火力によって防御も不可。


 本来なら反する属性魔法か、同規模の火力をぶつけるかの二択だ。

 だがしかし、それをするには、やはり魔力不足。


 であれば、第三の手段を講じる他ない。


 圧倒的な熱線を前に、サリーは背中にさらに熱いものを感じていた。 

 振り向きはしない。だが、彼女は分かっている。理解している。

 今は亡きルイスが、”生きろ”と背中を押しているのだと。

 

 この瞬間、天才魔法学士の頭脳が高速で回転を始めた。

 

 (この術式には膨大な魔力がいる。そして、その魔力を扱うだけの精密ま魔力コントロールも。アズドラを直接攻撃できれば話が早いけど、そうするにはこの分厚い火球を突破しなければならない……)


 そうしているうちにも、太陽は速度と大きさを増していく。


 (ああもう! エルフの里といい、メルクの時といい、最近はろくなことが無い……!)


 その瞬間、サリーの思考が引っかかる。


 (待って……メルク……?)


 この時、彼女が想起したのはメルクの健在置き場でのレンの姿。


 (……そういえば、メルクでレンが教えてた技って……)


 思い至った途端、サリーの脳裏に電撃が走った。

 

 そしてすぐ様動き出す。

 死の瞬間は待ってくれない。太陽は着実に迫って来る。


 彼女が手に持つ魔杖が煌めき、魔法陣が展開した。

 魔法術式による簡易的な思考再現。


 画家にとってのキャンバスであり、この世に新たな魔法を創造するための魔法。


 (時間がない。具体的なものは直感で彩る! とにかく今は、レンの言っていた事をヒントに必要な造形を!)

 

 陣の中は魔力の糸が飛び交い、段々と立体的な構造を成していく。


 そうしている間にも、彼女の掲げた手のひらがジワジワと熱される。

 太陽は、既に危険な領域まで近づいてきている。


 しかし、彼女は残り少ない魔力を紡ぎ続けた。

 亡き親友のため、苦難を共にする仲間のため、彼女の集中力は今、最大に達していた。


 やがて、一本の朱色の槍が姿を表す。


 「ぶっつけ本番、上等よ!!」


 槍の穂先を太陽へ。

 そしてサリーは、暑さに耐えながら腕を掲げて叫ぶ。


 「ルイス! 私に力を貸して!!」


 赤い閃光と共に、槍は放たれた。

 彼女の祈りと、後悔と、懺悔を乗せて、槍は太陽へ突き刺さる。


 まるで毛糸玉を解し回すように、術式の線がほつれていく。

 そうして槍は太陽内部へ潜航し、やがて太陽の核たる術式回路へ到達した。


 ここで槍の術式が本領を発揮する。

 術式の内部へと、魔力によって干渉を始めたのだ。


 ◇


 「ば、馬鹿な……!」


 真紅の魔女アズドラは困惑していた。

 自身が放った渾身の魔法が解れつつある。


 サリーに撃ち放った魔法”太陽の儀式”は、彼女が知る中でも最高火力。

 対抗するには同じ”太陽の儀式”をぶつけるしかない。


 だが、先程からの攻防でサリーの魔力は消耗しきっている。

 それを魔眼によって察知したからこそ、アズドラはトドメを刺すべく最大火力をぶつけたのだ。


 抵抗する余力のないサリーにはどうしようもない。

 そのはずだ。

 そのはずだった。


 しかし、天才魔法学士サリーは魔女の予測を大きく逸脱した。


 「な、何をした!!! サリィィィィィィ!!!!」


 術式が解体されていく。

 さながら巨大な流氷にヒビが入ったように、火球はその構造を保ちきれなくなっていく。

 

 そしてとうとう、太陽は歪な切れ目が入ると同時に真っ二つに割れた。

 その時、剥き出しになった”太陽の儀式”の核が魔女の目に映った。


 それは透明で光沢のあるガラス玉だ。

 中には術式を成立させるための起動式や魔力回路が詰まっている。

 

 だが今、そのガラス玉には一本の槍が突き刺さっていた。


 「サリー……! 小細工を弄したな!」


 そう叫んだアズドラ。

 その視線の先は、白いローブの少女。


 ピンと立たせた人差し指から、サリーは魔力を解き放つ。

 同時に、核に突き刺さっていた朱色の槍が回転。

 核を完全に穿ち、貫通した。


 槍はそのまま、無防備な魔女へと向かう。


 「ーーな」

 「覚えときなさい、アズドラ。精密な小細工は大細工を凌駕すんのよ」


 高速で飛来する一本の朱槍。

 自信を打ち砕かれた魔女には反射する暇もなく。


 それは、魔女アズドラの腹部へ深々と突き刺さった。


ご拝読ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] サリーがたくましいですね。
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