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第78話 乱入

 拘束されながらも、強引に叩き込んだ卍蹴。 

 まるで蹴り上がったボールのように、ガロードの体は宙を漂った。


 力なく浮き上がった騎士は、そのままぐしゃり、と音を立てて地面に転がった。


 「やった! レンがやったぞ! サリー!」


 アルドの沸き立つ声が背後から聞こえる。

 

 その時、レンに纏わり付いた光る鎖は空間に解ける。

 ガロードの魔力が途切れたのだ。だが、レンは警戒を解かない。


 構えを取ったまま、入念に倒れた騎士を観察する。


 目は虚ろに開かれ、口からは涎が流れ出ている。


 典型的な脳震盪であった。


 そこにあるのは倒れた騎士と、残心を取るレンの姿。

 勝者と敗者は明確であった。


 すると、黒衣の魔女が冷め切った声を発する。


 「凡は所詮凡であったか……魔力も無い者に敗北するとは、騎士も堕ちたものじゃな」


 無様に倒れた騎士を吐き捨てるように言うと、今度はレンへと恐ろしい笑みを向ける。


 「それで今度はワシが相手かのう。ああ、恐ろしい〜死にたくないの〜〜お前の恋人のように」


 そう言いながら、長い袖で緩んだ口元を隠した魔女。

 それを聞いて、サリーは怒りで鉄格子を深く握り込む。


 だが、レンは違った。


 そのまま魔女の元へスタスタと進むレン。

 次はお前だと言わんばかりに、ドス黒い眼を魔女へ向けた。


 受けて魔女はニヤリと余裕の笑みのまま、術式を展開する。


 シャボンの防御魔法に電撃の属性も混ぜ込む。

 同時に罠魔法を地面に設置。


 これによって、レンが繰り出すあらゆる攻撃は防御魔法によって無力化。

 そして同時に電撃で動作を封じ、地面からいくつもの槍が生えて穿殺す。


 物理攻撃しか手のないレンに対して最も有効な布陣である。


 それらを一切気にせず、レンはシャボンの間際までやって来る。


 シャボンに触れただけで、全ての術式が同時に発動する。

 魔女の期待の籠った瞳で、レンを見つめた。


 ゆっくりと、だが確実に。

 レンは魔女のすぐ目の前までやって来て、その横を通り過ぎた。


 通り過ぎ、魔女の足元近くで無様に倒れるガロードへ歩を進める。


 「……は?」


 レンの行動が理解できず、魔女の笑みがスッと消える。

 振り返った魔女が見たのは、ガロードに馬乗りになるレンの姿。

 そして、大きく拳を振り下ろす背中であった。


 「ふん!!」


 グシャ! ドガ!!


 何度も、何度も、それは振り下ろされた。

 その度に、骨と骨がぶつかり擦れる音がする。


 「待て……貴様何をやっている? 次の仇はワシじゃぞ?」

 「…………」


 無視。


 ただ黙々と、レンは作業を続けている。

 騎士の顔面は既にグシャグシャになり、白い床に飛沫が残る。


 「おい!!! このワシを無視するな!!!!」


 魔女の我慢は早々に限界を迎えた。


 大蛇の尾が再び現れ、騎士に馬乗りになったレンを締め上げる。

 だがその瞬間、魔女の表情が苦痛で歪んだ。


 「貴様……!!」


 拘束はすぐに解かれた。


 「へえ、そのしっぽ、痛覚は貴方と繋がってるんですね。というより、しっぽそのものが貴方の一部、って事なのかな?」


 淡々と言ったレンの両手には尖った木片。

 その先には鮮血が垂れている。

 大蛇の尾がレンを締め上げた瞬間、彼は隠し持っていたベンチの木片を取り出し、鋭利な部分を外側に向けて握ったのだ。


 「来いよ魔女。魔法使いとは散々戦った。もうお前程度なら何とでもできる」


 レンの挑発に魔女は眉間を寄せるも、またすぐに笑みを戻す。


 「……ああそうかい。それならワシもしっかり守りを固めねばのう」


 魔女が人差し指をわずかに振る。


 すると、彼女の背後で吊るされていたノエルが魔女の前に移動した。

 まるでノエルを盾にするように、魔女は薄笑いを浮かべた。


 「ノエル……!」

 「おや、顔色が変わったなぁ。これから何が起きるのか想像したかのう?」


 口から愉悦を溢しながら、傍らに持ってきたノエルへと視線を移す。

 そして魔女は、片手に氷の短剣を作り出した。


 「待て! 彼女を傷つけるな!!」

 「待て……? まだ分かっていないようじゃのう。お前は既に、ワシにそんな口を聞ける立場ではない」


 魔女は、徐に短剣をノエルの太腿に突き刺した。

 

 「ノエル!!」

 

 レンの叫びと同時に、アルドとサリーの声も響く。


 腿を刺されたノエルは、一瞬びくりと体を震わせ、目を開く。


 「はっ……! こ、ここは……」

 「ノエル! 大丈夫、今助ける!!」


 レンが身を屈めた瞬間、魔女がそれを制止する。


 「おおっと、動くなよ元勇者。それともこの娘を穴だらけにしたいのか?」

 

 傾けた短剣が怪しく光る。


 ノエルは、足に走る痛みを自覚しながら、察した。

 自分が置かれている立場を。


 そして、心配そうに見つめるレンとサリー、アルドを確認すると、ゆっくりと瞳を閉じた。

 腿に走った痛みを堪え、彼女は決意を固めた。


 「レン様……いいんです」

 「ノエル!」


 狼狽えるレンへ優しく微笑が、額には玉のような汗が噴き出ている。

 それでもノエルは祈るように言った。


 「どうか、私の事はお気になさらず。短い間でしたが、ありがとうございました……」

 「弱気になるな、ノエル!! 絶対に助けるから!!」


 レンの言葉に彼女の決意が揺らぐが、言葉を紡ぎ続けた。


 「皆様との旅は、新しい体験ばかりで……本当に楽しかった。あわよくば、もっと先までお供したかったです……!」


 レンに、サリーに、アルドに、スミスに。

 ここまで旅を共にした仲間達へ、くしゃくしゃの笑顔を見せる。


 そしてノエルは、涙で滲んだ瞳でアズドラを睨んだ。


 「さあ、殺しなさい!!! ただし、貴方の行いには必ず裁きが下ります!! レン様達が、貴方を許さない限り!!」

 

 強い言葉。

 アズドラは笑いを堪えながらも刃を彼女の頬にあてがった。


 「あははははは! 面白い娘だ! いいだろう、盾はまだあるし、その望み、叶えてやる」

 「やめろ!!!! 頼むアズドラ、やめてくれ!!!!」

 「ノエルーー!!!!!」

 

 もはやレン達には、叫ぶ事しか出来ない。

 ノエルは覚悟を決め、ゆっくりと瞳を閉じた。






 「ダメだよーー? 魔女さん」


 礼拝堂に少女の声がポツリと置かれた。


 魔女はその少女の侵入に気が付かなかった、いや、気が付けなかった。

 レン達に意識を向けすぎたために、得意の感知能力を活かせなかったのだ。


 その声の主の方へ、魔女は怪訝に顔を動かした。


 そこには、褐色の少女が立っていた。

 サリーとアルドを捕らえた檻を背に、堂々と胸を張っている。


 「魔女さん。貴方が傷付けようとしている人はね、アイツにとっては初恋の人なんだよ〜〜だから、今すぐ離した方がいいと思う」


 悲劇的な場の雰囲気を度返したような呑気な口調。

 アズドラは不愉快そうに眉根を寄せて言い放つ。


 「邪魔をするな、痴れ者が。これから良い悲鳴が聞けるというのに、台無しじゃ」


 冷徹な声。

 しかし少女はそれを全く無視して呑気を貫き通す。 


 「悲鳴?? じゃあ〜〜余計にやめといた方がいいと思うよ〜〜だって、ただでさえもうカンカンなのに〜〜」

 「悲劇には雰囲気が大事だというのに……もうよい、しゃべるな。邪魔者はとくと失せろ」


 魔女の手に魔力が集まる。 


 この瞬間、魔女の注意の全てが、褐色の少女に向いた。

 そのために気が付けなかった。


 この礼拝堂に、新たな脅威が迫っている事に。


 

 バリン!!!!!!!


 輝くステンドグラスが砕け散り、女神像の背後に破片が飛び散る。

 その豪快な音と共に飛び込んできたのは、自称、学園最強の男。


 「全開強化ああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 刹那、豪腕が魔女の顔面を捉えた。


 「ーーな」

 「飛んでけ、クソババア!!!!!!!!!!!!!!!」


 魔女の華奢な体が浮き上がる。

 不意を突かれた彼女には魔法を出す猶予はなかった。


 そして、その絶大な威力。

 魔女の体は礼拝堂の壁すら易々と突き抜け穴を開け、中庭まで吹き飛んだ。


 「よう! 何か大変そうなんで、助けに来たぜ!」

 「メラル……!」


 赤髪の男は、堂々と礼拝堂に立った。


ご拝読ありがとうございます!


よければ、ブックマーク、ご評価、ご感想いただければ嬉しいです!!

創作の力となりますので、何卒お願いします!!

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