第67話 傀儡
一人の騎士が二人の魔法戦に割って入った。
騎士の纏う白銀に輝く鎧は、まさに聖なる騎士。
礼拝堂に立つその姿は絶妙に合致し、神聖さすら感じられる。
だが、その表情は真逆であった。
阿修羅のような憤怒で眉間に深い溝を作り、今にも噛み付かん威勢に満ちている。
「お遊びはこれまでだ!! 貴様ら呪文屋の戦闘など見るに耐えん!!」
騎士は吐き捨てつつ、魔女を守るように前に出る。
ガロードの憤然とした背中を眺め、魔女は愚痴る。
「全く、せっかちじゃのう。よいところだったのに」
「黙れ!!! 人質を取ったくせに悠長にしやがって!!!!!! 私が協力している意味を履き違えるなよ!!!!!」
怒声が礼拝堂に反響する。
魔女をそっとため息を吐くと、やれやれと首を竦めて見せた。
騎士ガロード。
王国に駐在する騎士の中でもトップクラスの実力を持ち、時期騎士団長候補とまで呼ばれた男。
だが、王都の闘技場でレンに敗北し、今は主戦場から左遷されている。
因縁浅からぬレンも、彼の登場に大きく感情を揺さぶられたが、もう一人、驚愕を隠せない男が居た。
「ガロード卿……貴公は何をしているのか分かっているのか……!?」
アルドは目を見開いて問う。
驚きと共に去来した怒りが、口をついて出てしまった。
騎士が目を向ける。
サリーの後ろで愕然とするアルドへ、ガロードは忌々しさを含ませて応える。
「これはこれは”元”王子! 貴方に用はありません。お友達の”元”勇者はどちらに居るのでしょうか!!!」
濃密な殺気が、気勢と共に屋内を満たす。
この瞬間、戦士ではないアルドでさえ理解した。
”既に射程に入っている”と。
それでもアルドは恐怖出来なかった。
目の前にある兄の惨状を、この騎士は完全に無視している。
そんなこと、決してあってはならない。
王国を守る役目を負った騎士が、守るべき者を無視し、まして踏み付けるような真似。
元とはいえ王族として、絶対に許してはならない。
「質問に答えろガロード卿!!! 騎士たる者が、兄上の……ウルド王子の姿を見て何も思わんのか!!!!!」
「もう結構」
騎士の答えはシンプルだった。
その一言と同時に、剣閃が飛ぶ。
風の付与魔法と俊敏性強化、その状態で放つ抜刀は、風圧の刃となって敵を切り裂く。
それは、彼がザグラムに来てから開発した新たな術。
全ては、憎き元勇者を切り裂くために。
無論その神速に、アルドは反応出来る筈もない。
ガロードの放った斬撃が彼の首へ迫った瞬間、サリーが動く。
魔杖を掲げ、小規模の突風を巻き起こした。
強い横風に流され、風の刃はアルドを掠めて横へと逸れた。
ーーズバン!!!
アルドにとっては知らぬ間に放たれた斬撃。
辛うじて後ろを振り返り、その威力を目にした。
それは真一文字に正面扉を斬り裂き、不自然に真っ直ぐな断面。
危なかった。
アルドがあと数センチでも横に居たなら、縛り上げられたウルド王子以上に恐ろしい事になっていた。
彼の頬をから流れる血が、そう語っている。
ガロードが「チッ!」と舌を打つと、今度はサリーが凄む。
「あんたが誰だか知らないけどね。アタシを無視出来ると思うなよ……?」
したたかな怒気を、静かな声と共にガロード卿へ向けると、魔力を充実させた。
だが、対するガロードは冷めた視線を向け返す。
「卑しい女だ。その目つき、騎士にでもなったつもりか。呪文屋の風情が!」
「騎士だと!? ふざけるな!!! 兄上を裏切って未だ騎士を名乗るつもりか!!!」
その怒声に、ガロードは一切耳を貸さない。
彼は何も応えず、アルドの叫びが礼拝堂に響くのみだった。
「ぷっ……フフフッ、あはははははははは!!」
途端に魔女が吹き出した。
堰を切ったように醜悪な笑い声が反響する。
「貴様、何が可笑しい」
アルドの口がさらに回ろうとしたが、サリーが片腕でそれを制する。
「アルド、気持ちは分かるけど落ち着いて。あの騎士は正気じゃないわ。そこの女に操られてるだけ」
「何!?」
魔女アズドラは腹を抱えて笑いきると、「その通りじゃ」とあっさり肯定した。
「この凡にはずっと目をつけておってのう。時間は掛かったが、今となってはワシの思うままじゃよ」
まるで子供が買ってもらったばかりのオモチャを自慢するように、言ってのける。
そして、ガロードの髪を愛おしそうに触れると、
「気安く触れるな!! 魔女!!」
と怒鳴られた。
「ははは! 流石は騎士、精神の全てを支配するまでは出来ん。じゃが、こういう気難しい所も気に入っておる。しかしな、ちと黙しておれ」
アズドラが指を鳴らすと、ガロードは口を閉じる。
その瞳からは感情が失せ、呆然と佇んだ。
まるで自慢げに見せつけるアズドラだが、サリーは意に介さず言い放つ。
「どうだっていわ……。アンタが騎士をオモチャにしようと、ウルドのクソ野郎をボコボコにしようと……でもね!!!」
魔杖を向け、魔力を引き絞る。
新たな魔法の発射準備は完了している。
「これ以上、アタシの仲間を傷つけるってなら、容赦しないわ!!!」
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