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第64話 突入


 

 ザグラム魔法学園、礼拝堂。

 そこは、校舎と研究棟の間の敷地にあり、全部で三つの出入り口がある。

 

 一つは学園側へ、もう一つは研究棟へと繋がっている。そして、外から入れる正面の大扉が三つ目だ。

 実を言うと、この世界の礼拝堂としては邪道な構造である。


 そんな礼拝堂の正面の大扉に手をかけるもの達がいた。

 アルドとサリーの二人は、その建物に満ちた禍々しい魔力を肌で感じ取る。


 確かにここにいる。

 王国一の魔法使い、魔女アズドラの存在が、この小さい建物から漏れ出ている。


 アルドは静かに、そして慎重に、大扉に手をかけ振り向いた。

 彼の背後にはサリーのみ。

 彼女は静かに頷くと、学園側の通路にある窓へ手を掲げた。


 合図を送った先には、レンとノエル、スミス。

 同様に、学園側の扉に手をかけていた。



 数分前、彼らは走りながら、簡単な作戦を立てた。


 最も目立つ正面の大扉へ、先にアルドとサリーが入る。

 会敵した瞬間に派手に魔法を放つので、その騒ぎに乗じて学園側の通路から他の三人が潜入する。

 そして隙を見て、捕らえられているウルド王子を救出する。

 

 ぶっつけ本番。事前情報なしの危険な作戦だ。しかし、彼らに時間はなかった。

 もう数分もすれば、魔女アズドラが一方的に決めた”廃棄”の時間が来てしまう。


 破棄とはウルド王子の死を示す。

 それだけはあってはならない。


 一方で、全員内心では焦っていた。

 それでも、やるしかない。

 

 ここに来て、エルフの隠れ里から商業都市メルクでの連携と信頼感が背中を押した。

 自分達なら出来る。


 確かな結束を武器に仲間達は腹を決めた。

 


 窓の外に見えるサリーの合図に、レンが手を挙げて応える。


 それを見たサリーも小さく頷き、アルドと目を合わせた。

 静かに頷き合い、扉へ顔を向ける。


 アルドは指を三本立て、次々に折りたたむ。

 突入のタイミングをサリーに告げているのだ。


 一つ、二つ、三つ……。


 扉を大きく開いた。


 中の光景が見えるか見えないかの内に、サリーは呪文を叫ぶ。


 『閃光よ!!!』


 杖から光弾が放たれ、礼拝堂で弾けた。

 一瞬にして焼けるような輝きが礼拝堂を白く染める。

 あまりにも激しい輝きに、レン達の潜む扉の影が長く、漆黒になる。


 光が静まった瞬間、今度はレン達が動いた。


 レンが学園側の扉を静かに開けると、身を屈めたまま侵入する。

 それと同時に、サリーとアルドも大きな物音と共に堂々と足を踏み入れた。


 「来てやったわよ!!! アズドラ!!!」


 サリーの怒声が礼拝堂に響き渡る。


 彼女の視線の先に居たのは、先の閃光で顔を歪めたままの黒衣の魔女。

 激しく瞬きをしながらも、ボヤけた焦点を合わせようとしていた。


 その隣には、白く輝く甲冑を着込んだ騎士が一人。

 閃光に怯みきって目を抑えながら膝を突いていた。


 一見してウルド王子の姿が無い。

 レンはさらに見回した。


 そして気が付く。

 白い床にこびり付いた夥しい血痕を。

 その痕跡を目で追うレン。


 「居た……あそこだ……」


 密かな声で、礼拝堂の木製ベンチの陰に隠れたスミスとノエルに示した。


 二人の目線が上に上がる。


 そこにあったのは女神アルペウスの像。

 

 ノエルによる事前の調査によると、ザグラムにおける信仰の要である。

 一昨日調査に来た時は、神聖な輝きと慈悲深い微笑みを称えた巨象。

 

 そして今、その女神の腹部に血塗れのウルド王子が、鎖で縛り付けられていた。

 滴っている血液が、女神の神聖さを悪趣味に塗り潰している。


 鎖に巻かれた王子の表情は青白くなり、黙して項垂れている。

 そして全身に見られる生傷は、暴行された結果なのだと、嫌でも分かる。


 正面突破組のアルドとサリーも、その無残なウルド王子の姿に憤りを隠せない。

 アルドは、今すぐにでも走り出して、兄を助けたい気持ちを抑えるのに必死だった。


ご拝読ありがとうございます!


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