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第61話 ウルド王子の危機


 スミス救出劇の最中、アルドは凍りついたように動けなかった。

 彼の頭に突然響いた声に、驚愕と共に焦りを感じさせた。

 

 『アルド……アルド……』


 「!?」


 アルドの頭に霞みがかった声。

 その聞き親しんだ声は、今にも消え入りそうな程衰弱している。


 それは彼の兄、第二王子ウルドからの念話魔法。

 やはり他の四人には聞こえていないらしく、全員スミスをつついて何か話している。


 『アルド……まだザグラムに居るのかい……?』

 「ああ、まだ居るよ兄上。どうしたんだい、声が……」


 兄の弱々しい声が頭に響く度、アルドの不安が増していく。

 だが、ウルド王子はアルドの心配をよそに話を急ぐ。


 『早くザグラムを出るんだ……君たちは……追い詰められている……』

 「待ってくれ……! いきなりそんな事を言われても……兄さんは無事なのかい!?」

 

 椅子を倒す勢いで立ち上がり、大声をあげた。

 兄の切迫しきった様子に危機感を覚えつつ、その声がアルドの肚に不安を広げ続ける。

 

 その異変に四人も気が付き、振り返った。

 そして、恐る恐るレン達が近づいてくる。


 『私のことはいい……流石に奴らも王族殺しまではしないはずだ……だが、連中の狙いは君たちだ……』

 「アルド? どうしたの?」


 アルドの凍りついたような表情を見て、レンも心配を募らせる。

 振り返ったアルドは、冷静さをすっかり失っていた。


 「レン……兄さんが!!」


 レンは彼の肩に手を置いた。


 「落ち着いて、アルド。いつもの君らしく、冷静に。いつもの君なら、先ずは状況確認だ。そうだろ?」


 レンの純信な瞳をアルドは見つめる。

 震えた肩も、身の内に広がった不安も、レンの輝く眼差しをもって弱まっていく。


 レンは信じていた。

 

 どんな状況だろうと、やるべき事を瞬時に判断できるアルドの能力を。

 彼を信頼しているからこそ、力強い言葉も自然と出てくる。


 「冷静になれば君に解決出来ない事などない! そして、僕たちは何があろうと協力する! だからとにかく落ち着いて!」


 厚い信頼を受け、アルドは我に返った。


 そして一瞬顔を俯くと、アルドは自らの両頬を強く叩いた。

 赤く腫らした痕が残ったが、その痛みを契機に頭の熱を払い除ける。


 「……すまないレン」


 一言だけそう言うと、レンも頷いて見せた。

 そしてアルドは念話を飛ばす兄へ声を投げる。


 「兄上……どこにいるのですか? とにかく場所を!」

 『ダメだよアルド。君たちを危険に晒せない。それに、君には成し遂げなければならない事があるだろう? こんな所で迷うな。君は……前へ、進め』

 「兄上!? 兄上ーー!!!」


 アルドの悲痛な叫び声が室内に反響する。

 しかし念話は虚しい沈黙で応えた。それ以降、ウルド王子から声が届くことはなかった。

 

 その場で消沈しかけたアルドだが、足を踏ん張り顔を上げた。

 目前で自分を信じるレンの視線が、アルドの沈みかかった意地を支えていた。

 

 兄に逃げろと言われた以上、相応の危険が迫っている事は確か。

 だがそれでも、アルドという男は自分を止める事はない。敬愛する兄の危機に、背を向けるなど彼自身が許す筈がなかった。


 「みんな、聞いてくれ! 理由は不明だが、どうやら私達がここに居る事が敵にバレている! 今すぐにでもザグラムを発たなければならない!」


 皆一様に目を見開いた。

 差し迫った見えない危機に驚きを隠せてない。


 そして、アルドは続けた。


 「みんなは先に出てくれ! 私は兄上を……!」


 自分の無謀に仲間達を巻き込みたくない。

 だからこそアルドは、反対される事も覚悟の上で、兄の救出に向かう決心した。たった一人で。

 

 しかし、四人の反応はアルドが思っていたものとは大きく異なった。


 「しゃーねーなー! 行くなら研究棟か? 王子ならそうそう出歩きはしねぇだろ!」


 スミスが肩を回して張り切る。


 「その前にスミス様はコブを治しましょうね! 急ぐなら、走りながらでも回復魔法を!」


 ノエルが魔力を充実させる。


 「ウルドの奴はどうでもいいけど……アルド、アンタ貸しだからね。当面の食事は豪勢にしなさい」


 サリーが短いため息を吐いて立ち上がる。


 「それじゃ、アルド。行こうか」

 

 最後にレンがそれだけ言った。


 有無を言わさぬ信頼に、アルドの瞳に熱い物が込み上げる。

 

 「……スマン、みんな」


 もはやそれ以上、語る必要はなかった。

 アルドが出口へ足を向けると、皆も駆け出した。


ご拝読ありがとうございます!


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