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第60話 破かれたページ



 サリーは読んでいたページを開いて、見開きの狭間へ指を差し込む。

 不自然にギザギザとした断面がそこにあった。

 

 「やっぱり……この一枚だけ破かれてるわ」


 アルドは身を乗り出し、サリーが指した先を凝視する。

 一枚だけ破かれてしまっている痕跡に、彼は眉根を寄せて唸った。


 「これは……妙だな……実に妙だ……何故わざわざこんな真似を」

 「……そこだけ読まれたくなかったんじゃない?」


 レンの安直な結論。

 一瞬場が納得しかけたがサリーが口を挟んだ。


 「そんな細かい事しなくても、読んで欲しくないなら本ごと燃やしてるでしょ。もしかすると破った奴も私達と同じ目的だったかもね」

 「と、言いますと……?」


 テーブルの端から顔を覗かせたノエルは、疑問を口にする。

 それにサリーも応じるように、視線を合わせた。


 「そうね……ページを破り取った奴は、少なくとも神側の人間ではないわ。こんな内容、作り話だとしても燃やされるでしょう?」


 そこへレンが真っ当な疑問をぶつける。


 「待ってサリー。ここは禁書庫だよ? 検閲から免れた書物が揃ってるんじゃないの?」

 「そのはずよ……でも、何冊も本を読んでて思ったのだけど、ここも検閲済みじゃないかしら、アルド?」

 

 突然水を向けられ、アルドは少し目を開いた。

 しかし、やがては観念したように片手を持ち上げた。


 「……ああ。実を言うと、私もそんな気がしていた。禁書庫と言う割りに、情報が偏り過ぎてる。これは今までの図書館にもあった違和感そのものだ」 


 アルドとしても言い難かったのだろう。

 それはテーブルに積み上げられた本の山を見れば、その場の誰もが思い至った。


 その本の山の真隣でスミスも口を開く。


 「なら、一体どんな奴が破ったて言うんだ??」

 「だからさっき言ったでしょ。私たちと同じ……つまり神に敵対する人間」

 「……なんでそう言い切れるんだ??」


 短いため息をつきつつ、サリーは分厚い本に手を乗せた。


 「いい? 読んで欲しくなければこの本自体が検閲で弾かれてるはずよ。でもここにあって、盗み取るみたいにページを破ってる。そんな事する人間、神様をよく思ってない奴に決まってるわ」

 

 アルドが頷きながらサリーへ目を向ける。


 「……サリーの意見は憶測だが筋は通ってると思う。だが先ずは、事実だけ鑑みてみよう」


 そう言うと、アルドはテーブルに紙片を出した。

 話しながら、次々に文字を書き込んでいく。


 「一つ、この禁書庫は既に検閲されている。これは間違い無いだろう」

 「ええ、私もそう思う。アルドの言う通り、メルクや学院図書館でも同じ感じだったわ」


 図書館での情報収集に慣れた二人の意見に、他の三人も黙って頷いた。


 「二つ、本来の検閲で弾かれるべき本が残っていた。そして、重要と思われるページは破かれている。さて、ここからはサリーの推測」


 そう言うと、別の紙片を取り出し、続け様にペンを走らせる。

 

 「ページを破った人間は神の敵、つまりは私たちと同じ立場」

 「そう考えるのが妥当よ」

 

 先ほどと同様に反論はない。それを代表するようにスミスが応えた。


 「……まあ、そうだな」

 「では、だ。私の意見を言わせてもらおう。これ以上本を探し回るのは時間の無駄だと思う」


 妥当な意見だった。

 禁書庫まで検閲されている以上、新しい情報は出てこない。

 そんな確信めいた予感は、アルドだけでなくサリーも感じていた事だ。


 「じゃあ……これからどうするの?」


 レンは集めた本の山を見上げ、呟くように聞いた。

 アルドも同じく感慨深そうに本を眺めながら、応じた。


 「検閲の担当者を探そう」


 力強い声。

 そこには希望の色が含まれていた。


 「なるほどね……良い方針じゃないかしら。検閲を誤魔化してページを破ける人間って言えば、検閲した本人しかいないでしょう」

 「賛成! この本の山を探し回るよりかは早そうだ!」

   

 景気良くスミス机を叩く。その衝撃は机を伝い、不安定に積み上げられた本の山をユラユラさせた。

 古時計の振り子のように揺れる山は、ノエルの瞳を右に、左に動かす。

 

 やがて彼女は気が付いてしまう。

 そのすぐ真下で笑っているスミスに、危険が迫っている事に。


 「……あ、スミス様! 危ない!」

 「へ?」


 ドサドサーー! と音を立て雪崩が起こる。無論、スミスの方向へ。


 「ああああああ!!」と呻きながら、哀れスミスの全身は本の中に埋もれてしまった。


 ここまで本を積み上げた犯人の二人が、大慌てで埋もれたスミスへ駆け寄った。


 「スミスーー!」

 「スミス様ーー!」

 「何やってんのよ、もう」


 救出はサリーも手伝い、三人で本を掻き出す。

 上半身まで掘り返すと、レンが彼の腕を引っ張り上げた。


 そうして出てきたスミスの後頭部には見事なコブが出来ていた。

 

 本から助け出されるスミスを見て、サリーは思わず変態王子のことを思い出してしまう。

 その瞬間、ゾクリと背中に悪寒が走り、彼女は肩を震わせる。


 「……うわ。縁起悪い事思い浮かべちゃったわ……」


ご拝読ありがとうございます!


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