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第54話 落されたいの??


 爆裂音が中庭を貫いた。


 その衝撃に学園全体が揺れ、驚嘆の後の静寂が訪れる。

 爆心地には一つの音もなく、一つの動きもない。


 あるのは立ち上る煙に映った二人の影のみ。

 メラルとレンは肩を並べていた。


 「……おい、あんがとな。足を踏んだのは正直助かった」


 シンとした空気を破って、メラルが言った。 

 レンはその声に顔を向けるが、耳に手を当てる。


 「うん? ごめん、ちょっとよく聞こえない」

 「お前! まだそれやるのか!?」

 「え……? マジで全然聞こえない……これ、鼓膜破けてないよね?」


 レンの表情が青ざめる。

 辛うじてメラルが何か言っている事は分かるが、金切音が頭に響いて内容が全く理解出来ない。


 メラルが放ったフルパワーの拳。

 その音と衝撃はもはや爆発と言っても過言ではなく。

 爆心地にいたレンの耳が壊れるのも無理はなかった。


 「おい!!! そこの生徒二人!!」

 

 校舎四階の窓から声がする。

 メラルだけが上を見上げると、教師兼神父であるノヴが冷や汗を滲ませた表情が目に入った。

 

 「やべえ、ノヴ先生だ……」

 「そこに居なさい!! 今すぐ行く!!」


 ノヴは声を荒げると校舎へ引っ込んだ。

 

 「…………逃げっか……」


 覚悟して逃走を決めたメラル。

 その横では、レンが耳を塞いで「あ〜〜、あ〜〜、A〜〜〜〜〜〜〜」と耳の具合を確かめている。


 すると、彼らの背後からリースとクレアが駆けてきた。

 先の流水に校門まで押し流された彼女達は、すっかりずぶ濡れだ。


 「メラル、ここは大人しく事情を説明しましょう。ノヴ先生なら分かってくださるわ」

 「そうだよお〜〜逃げたってどうしようもないよ〜〜」

 「だけどよ! リースはどうなるんだ!? このままじゃ、また別の騎士が来るだけだぞ!?」

 

 メラルは必死になってリースの肩を掴んだ。

 先の一撃で壊れかけた肩が痛んだが、気にも留めない。


 「メラル……ありがとう。でも、クレアの言う通りよ。逃げても解決にはならないわ」

 「それでいいのか……!? お前、ここで勉強したいんじゃねえのかよ……!」

 「いいわけないじゃない」


 応えたリースの瞳には確かな光があった。まるで大きな覚悟を背負ったような。


 「私、ずっと見て見ぬフリをしていたわ……本当にやりたい事も、お父様のお気持ちも……こんな事になったのは、全部……ぜ〜〜んぶ、私が逃げていたせいよ……今日のメラルとレンみたいに、諦めずにお父様と闘っていれば、こんな事にはならなかったわ」

 「リースちゃん……」


 勇気を注ぐように、クレアは彼女の手をギュッと握る。

 そしてそれに応えるように、リースは彼女の手を握り返す。


 「私、お父様にちゃんと話してくるわ。この学園に居たいって! 友達や大切な人たちと離れたくないって!!」


 天に宣誓するように、メラルの瞳を覗き込む。 

 彼女の覚悟を受け止めたメラルは、迷ったように視線を泳がせたが、やがて小さく頷き言った。


 「……分かったよ。お前がそこまで言うなら、言う事はねぇ」


 少々悔しそうではあったが、メラルも覚悟を決める。


 「ありがと。それじゃ、まずはノヴ先生のお説教を受けないとね!」

 「う゛、それは勘弁してえな……」


 静かだった中庭に段々と喧騒が戻ってきた。

 その中には、小さいながらも確かに、笑い声があった。


 「また蚊帳の外ね。まあいいけどさ。聞こえないし」


 朗笑に包まれているメラル達を、レンも微笑を浮かべながら見つめていた。

 すると、レンの視線に気が付いたメラルが肩を寄せる。


 「おいレン、お前もこれから説教受けるんだ。これでお前も不良の仲間入りだな」


 肩を組んで笑うメラル。

 何を言ってるかは聞こえていないが、レンには何となく分かっていた。

 

 「何か嫌な事言ってるでしょ」

 「う〜ん、当たり〜!」


 クレアが両腕を広げて大きな丸を作った。


 だがその瞬間、一陣の風がレンの背後に吹いた。

 

 「悪いけど、コイツは返してもらうわよ」


 言葉の返答を待たず、レンの胴に緑色に光る魔法の縄が巻きついた。

 振り向いたレンの視線には、杖に乗って空中に浮かんだサリーの姿。


 「てめえ! さっきの助言は感謝するけどな! 俺のダチをどうするつもりだ!!」


 学園時代からの顔見知りで、本来は「姉御」と呼んで彼女を慕っているメラルだが、認識阻害が効いている。

 今の彼には新たな敵にしか見えていない。

 片足を大きく踏み出してサリーを睨み付ける。


 「フフフ、どうしようかしらね……」

 

 対するサリーも悪い組織の幹部みたいな口調。ハッキリさせると、サリーもノープランだった。

 このまま飛んで逃げたとしても、追いかけてくるだろう。

 

 そして、二人が揉めそうなのは耳が聞こえていないレンにも分かる。


 「……メラル、取り敢えず僕は平気だよ。この人は知り合いだから、何にもされないさ」

 「ちょっと! ここはカッコよく飛び去る流れでしょ!?」

 

 訂正。プランはあったらしい。無計画に等しいプランが。

 サリーの文句を完全に無視してレンは三人へ笑みを向けた。


 「また明日! この学園で!」


 その一言で、サリは渋々上昇。

 胴に巻き付いた鎖が引かれ、やがて地面から足が離れる。


 「レン……ありがとう!! 巻き込んでごめん!!」

 「レンレン!! ありがとうーー!!」

 「レン……お前……一緒に説教を……」


 レンは、その声を手を振って応えた。


 「ふん! もう行くわよ!」


 サリーの不貞腐れた声と共に、大きく空中へ引き上げられる。

 そのまま上昇し続け、やがて眼下の学園が掌ほどに小さくなった。

 その間にレンの耳は、段々と元の機能を戻し始め、金切音も和らいでいた。


 緩やかな風がレンの頬を撫でる。


 「サリー、メラルとちゃんと会わないでいいの……?」

 「いいわよ別に、観たいものは観れたしね」


 風に煽られる髪を片手で抑えながら、サリーは真っ直ぐ前を見る。

 心地よい晴天だ。先ほどまでの激戦のせいか、空にいながらも少し眠たくなった。


 「確かにアンタが言ってた通り、だいぶ無茶な使い方してるわね、アイツ」

 「メラルの事だね? 今日は無傷だった左腕を使っちゃったし、心配だよね」


 メラルの強化術式は、サリーが在学中に与えた物だ。

 それはメラルの強靭な肉体をもって初めて成立する特別強力な術式だった。


 しかし、彼の度を過ぎた強化は完全にサリーの想定を超えている。


 「少し術式を弄らないとね。明日、隙を見てアイツと会ってくるわ」

 「そっか、ならいいんだけど……あんまり大きな騒ぎにならないよう注意するんだよ」

 「……落とされたいの?」


 本日、騒ぎの真っ只中に居たレンを、サリーは睨んだ。


ご拝読ありがとうございます!


よければ、ブックマーク、ご評価、ご感想いただければ嬉しいです!!

創作の力となりますので、何卒お願いします!!

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