第43話 トラブル再び
ウルド王子の研究室を出た一行はそのまま図書館へ向かっていた。
アルドの懐にはウルド王子の一筆で禁書庫への出入り許可証、レンのポケットには新たな”記憶の鍵”がしっかりと収められている。
この二つの収穫物を得るために払った代償は非常に高かった。主にサリーが。
今回一番の貢献者であるサリーはドスドスと不機嫌に足を踏み締めている。
そんな彼女の足には、いつも履いている黒いソックスの姿はなく、素足があらわになっていた。
それを見ていたスミスは気軽に背後から話しかける。
「ま〜〜だ機嫌悪いのかよ。たかがソックスくらいいいじゃねぇか〜〜、新しいの買ってやるから〜〜」
「たかがじゃないわよ!! 私が差し出したのはソックスじゃないわ!! 乙女のプライド! 誇りよ! 物やお金に変えられる物じゃないの!!」
スミスの軽口に思いっきり憤るサリー。当たり前だがご機嫌斜めだ。
そんな姿を哀れんでか、アルドはサリーへ優しく言った。
「サリー、今日は好きなものを好きなだけ食べてくれ……君が一番身を切ったのはこの場の誰もが知っている事。だからその……せめてもの償いを……」
「何が償いよ!! 食べ物なんかで誤魔化されないんだから!! それよりも、アンタのとこの変態兄貴を先になんとかしなさいよぉ!!!」
食事にも食い付かず、未だにサリーが荒ぶっているのも理由がある。
数十分前、アルドから二足めのソックスを受け取ったウルド王子。
今度はテイスティングを辛うじて我慢したのだが、上機嫌になってコレクションルームなる部屋を自慢してきたのだ。
そこにあったのは、壁一面に貼られたサリーの隠し撮り写真、サリーの杖の精巧なレプリカ、研究者時代に彼女が着ていたマント、彼女が捨てた紙屑など、変態的な収集物がズラリと陳列されていた。
部屋を見回したサリーは暫く呆然としていたが、やがて杖を掲げて最高火力魔法の詠唱を始めた。
いち早くアルドがそれに気が付き、男三人がかりで何とか止めたのだ。
このままでは第二王子殺害事件という国を揺るがす大惨事にまで発展しかねない。
なので一行はサリーを捕まえたまま、お礼もそこそこに大急ぎでウルド王子の元を離れたのだった。
「あの野郎……ぜったいころしてやる……」
まだサリーの瞳が真っ黒に染まっている。
どうやら本気のご様子だ。
「……弟としては残念だが、頼むからその時は周りに被害が及ばない方法で頼む」
流石のアルドもこれ以上変態の弁護は出来なかった。
◇
一行はそのまま長い廊下を抜け、研究棟から学園へ入った。
そして今、学院図書館の大きな扉の前に到着した。
「……さて、図書館に着いたはいいが、スミス、妹さんを探さなくていいのか?」
レンはハッとしてスミスを見た。
そう。スミスが今日ここに来た目的はアルド達の付き添いだけではない。
昨日、レンが出会ったクレアと名乗る少女が彼の妹であるのかを確認するためだ。
しかし、アルドに問われたスミスは呑気そうに首を傾げる。
「う〜〜ん。俺もそうしたいんだけどさ、明日にするよ。それより、図書館の利用時間は制限されてるんだろ? だったら、今は皆で探した方がいいんじゃねぇか?」
「スミス、気遣ってくれたんだね、ありがとう。でも本当にいいのかい?」
再び聞いたアルドに、スミスはニヤリと笑みを返した。
「いいって。レンの言ってる通りなら、俺の妹(仮)は逃げたりしねぇ。その代わり、明日はクレア探しを皆に手伝ってもらうさ」
「フフ、なるほど。商談成立だな」
向かい合ったアルドも笑みを見せる。
その瞬間、廊下の遥か先から騒ぎ声が聞こえた。
「わーー!!!! どいてどいてーー!!!」
「きゃーー!!」
「危ねぇだろ!!!」
アルドは怪訝な表情に変わり、スミスの背後にある騒ぎを見ようと目を細める。
一同もその方向へ顔を向けた。
どうやら何者かが浮遊魔法を使い、猛スピードで廊下を駆け抜けてきているようだ。
図書館前の廊下はそれなりに人通りがあるため、そこかしらから悲鳴や怒声が上がっている。
「……全く、迷惑な生徒もいたものね」
サリーが真っ先にそんな事を言ったので、レンは「絶対そんな事言える立場じゃないでしょ」なんてツッコミを入れたくなる。
しかし、そんな事をしている時間などなかった。
なぜなら、その迷惑な生徒は猛スピードでこちらに向かってきていたし、何よりも。
「あーー!! レンレンいたーー!!!!」
昨日メラルと共に追い回し、最後には友人になった褐色の少女、クレア。
彼女がレンを見つけて必死な形相で飛んで来た。
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