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第40話 記憶の鍵の検証




 議論と装置の調整作業で2時間ほど時間が経った。

 その間、二人の天才研究者はその実力を遺憾なく発揮した。

 おかげで、お互い納得のいく形で結論に至ったようだ


 その間、サリーはレンの背後から一切動かず、ウルド王子も同じくレン越しに討論を繰り広げていた。

 恐らくこの空間で最も疲れたのはレン本人である事は言うまでもない。


 「やっっと終わった〜〜? もうくたびれたよ……」


 大きく息をつくと、レンは座り込んだ。

 唐突に盾が下がったので、サリーも合わせて身をかがめる。


 「何言ってんの、まだ検証はここからよ? あ、安心していいわよ。あくまで記憶の鍵とアンタとの繋がりを検証するものだけだから」

 「繋がり……? サリー、その手の話はもうお腹いっぱいだよ……」


 二人が議論している間、サリーの盾代わりにされていたレンは座ることも許されず、すっかり脚が重くなっている。

 いいかげん、楽な姿勢を取りたいのだが。

 

 サリーはレンの袖を引っ張り上げて立つように誘導する。

 そうしながらも話しは続けた。

 

 「なら結論から言うわね。要するに記憶の鍵からアンタの記憶を取り出せないか試してみるの」

 「え!? そんな事が出来るの!?」

 「理論上はね。その理論、聞きたい……?」


 一瞬前のめりになったレンだったが、それを聞いてすぐさま首を横に振る。

 

 「いやいやいや!! これ以上訳の分からない知識を聞かされたら頭が溶け出しちゃうよ!!」

 「はっはっは。ではレン君、その頭が溶ける前に早速検証に移ろうか!」


 左腕ががっしりと掴まれ、今度はウルド王子に引っ張られた。

 サリーの方は王子の姿を見た途端、レンの袖をあっさり離し、すぐそこに居たノエルの方へ駆けていった。


 そのままレンは”記憶の鍵”が浮かぶ空間へと放り投げるように入れられる。

 

 「うわっ! 王子、もうちょっと丁寧に……!」

 

 ーーバタン!!


 レンの文句が届く前に木製のドアは閉められた。

 

 「……全く、そういうところ、確かにアルドの兄弟だよ……」

 

 テンションが高いとあまり人の話が入っていかない。

 そういう部分で言えば、アルドの血を感じざるを得なかった。


 『あーー、あーー、聞こえるかね? レン君』


 室内にウルド王子の声が響く。

 

 「聞こえますよーー」

 『なによりだ! では早速検証を始めよう! 目の前にあるその鍵を手に取ってくれないかな?』

 「はい」


 王子の指示通り、レンは真っ白な空間を三歩ほど進み、宙に浮かんだ”記憶の鍵”へ手を伸ばす。

 外のウルド王子は窓に表示された波形や流れていくデータの川を逃さずチェックしていた。


 やがてレンの手に触れると、古い鍵に重さが現れる。

 そうして落ちるように手中に収まった。


 「取りましたーー!」

 『うむ……どんな感じだい?』

 「……どうって……」


 鍵をまじまじ見つめるレン。

 しかし、それはただの鍵と変わりなく、何ら特別なものは感じない。


 「特になにもーー!」

 

 ウルドも計器をチェックする。

 確かにこれといって大きな変化は起きていない。


 そのまま、ウルドはレンへ言葉をかける。


 『レン君、先ほど私と彼女との討議ではね、鍵から記憶を取り出すには、君自身の感情が必要だという仮説が出ているんだ』

 「僕の、感情……?」

 『そうだ。それを今から検証するためにも、思い出してほしい。これまで”記憶の鍵”が光った時、君の感情はどんな状態だったか聞かせてほしい』

 「……わかりました」


 冷たくも聞こえるその声に、レンも息を整えて冷静に務める。


 『ではまず一つ目の鍵の時だ。どんな状況だった?』


 一つ目の鍵、青い宝石のハマった鍵。

 確かそれは、ルイスから渡され、闘技場で騎士ガロードとの戦闘中に輝き出した。

 その時の状況は今でもよく覚えている。


 「あの時……闘技場で立ち合った騎士のガロードに僕は殺されかけました。でも、場外からルイスが助けに入ってきて……そのために傷を負った彼女を、目の前で殺されようとしていました」

 『その時君はどんな気分だった?』 


 レンはその場面を想起した。


 ガロード卿は薄笑いを浮かべながら、細身の剣を今まさにルイスの喉元へ突き立てようとしている。

 一方自分は地面に這いつくばり、それを見ている事しか出来なかった。

 無力であった。ただただ、自身に弱さに打ちひしがれた。


 「……自分には彼女は救えない。悔しさと、自分への怒り……? で、頭がいっぱいになってました」


 ウルド王子はレンの波形を見て眉間に指を当てた。

 部屋に入れた時から気が付いてはいたが、計器の一つに異常な数値が出ている。

 それは、被験者の精神状態の異常を示すものだ。


 『……ふむ。どうやら君に取っては少々辛い検証になりそうだな。続けられるかい……?』

 「いえ、大丈夫です。これは僕には必要な痛みです。構わず続けましょう」

  

 そう言い放ったレンの表情を見て、ウルドは頷いた。


 『……分かった。強いな君は』


 そうしてレンは二つ目、三つ目の鍵を手にした瞬間を思い出していった。


 エルフの隠れ里ではスミスから鍵を手渡され、盗賊団の頭目グリアから聞かされたルイスの過去と自分への糾弾。

 その時に感じた罪悪感、悲しみ。


 商業都市メルクでは、巨大スライムの中へ突貫し、その内部にあった”記憶の鍵”を掴み取った事。

 そして、その時の感情は、仲間達やメルクの冒険者、兵士達から受け取った信頼感だった。


 『……うん、ありがとう。これで検証は終了だ。お疲れ様』

 

 ーーガチャリ


 木製の扉が勝手に開き、レンは振り返った。


 『では、検証結果を共有するのでこちらに来てくれたまえ。ああそれと、鍵はそのまま持って行ってくれ。もう君の物だ』

 「はい。王子、ありがとうございます」


 お礼を言うと、レンはその古めかしい鍵をポケットへ入れた。


読んでいただきありがとうございます。

面白いと思って下されば

ブクマ、ご評価、ご感想いただければ嬉しいです。


創作の活力になりますので

どうか、よろしくお願い致します!!

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