第39話 議論
助けを求めるレンの声が、研究室の高い天井に響き渡る。
声を聞いて、サリーはノエルの膝から顔を上げた。
「サリー様!? ご無理はしない方が」
「……大丈夫よ」
ノエルのお陰で冷静さを取り繕うも、その顔色は明らかに大丈夫ではない。
なんなら立ち上がったその膝もガクガクと震えている。
とてもじゃないが見ていられない。
この中で最も大きな罪悪感を抱えるアルドは、ゆらゆらしているサリーの肩を掴んで止めた。
「サリー、大丈夫じゃないだろう? そこまでして行かなくとも……」
「いいの……アタシにしか、わかんないもの……あの、くそ変態野郎の言ってる事……」
彼女の言い分には確かな重みがあった。
しかし、アルドはそれでも止めようと言葉を繋ぐ。
「も、もう十分に頑張ったよ。君は……」
「まだよ゛!! 私、このままじゃ、変態にくつした喰われただけの人になっちゃう!!!」
振り向いた彼女の顔は未だ涙に濡れている。
だが、サリーを立たせているのは、女として、魔法学士としての矜持だ。
ここで行かせなければ誇りが傷付けられたままになる。
サリーの気概を察し、アルドは手を離した。
「す、すまん、分かったよ……」
「う゛ん゛……」
サリーはゆっくりとだが、強く床を踏み締めて、ウルド王子の元へ歩いて行った。
少しずつ、ウルド王子姿が近づいてくるにつれ、サリーの全身に鳥肌が立つ
ソックスを失った悲しみを乗り越えようとも、ウルド王子への恐怖は未だ超えられず。
(頑張りなさい、私!! あんな変態、人として見るから良くないの!)
「お、お、おまたせ……! なんかあった?」
恐怖なんて無いかのように、気軽にレンの肩を叩いた。
「サリー……その、僕にはよく分からなくて……」
申し訳なさそうに俯くレン。
一方のウルド王子は、サリーに笑顔を向ける。
「やあ、お嬢さん! 君が専門家? かわいいねぇ」
「……ひっ!」
そのねっとりとした口調に、サリーは思わず飛び上がりそうになる。
警戒心を最大にしたまま、彼女はレンを盾にするように背後へ避難した。
なお、ウルド王子にはサリーが本人だとは思っていない。
彼女の巧妙な魔法によってただの生徒にしか認識できていない筈。
なので、彼は首を傾げて言い放つ。
「おやぁ?? 何か嫌われるような事をしてしまったかな??」
(今さっきしただろ……)
(しましたね……)
(兄上……)
何しろ本人のソックスをまさに目の前で食したのだ。
ウルド本人が知らぬ事とはいえ、後ろの三人が冷ややかな視線を向けるのは当たり前だった。
当のサリーはレンの背中から顔を覗かせ、ボソリと呟く。
「……話は聞いてた、ました……術式配列は……混合パターンですか……」
「……ほう!! どうやらよく勉強してるようだね!!」
どうやらウルドの話は耳に入っていたらしい。
その質問に、ウルドも目を見張っている。
そして爛々とした瞳のまま、ウルド王子は弁を回す。
「配列は特打式を採用しているよ! この回路には混合パターンよりもそちらの方が相性が良かったのでね! 並列パターンや重層パターン、枝分かれなども試してみたが、この装置に目的を入力するにはかなり術式の伝達が遅延するので術式神経と似たような構造でトラックしてみたんだ。すると、”$*の機能が活発になってね! 困ったことに#’)#と*+**と”#$はオーバーロードしてしまったんだ。だから仮想上の信号機関に”$##を枝留めして』?*』は構築上の#”$を利用することにしたんだ!」
再び理解不能の言語。
レンは未知の恐怖を感じてサリーの方を振り返った。
見ると、先ほどまで彼女に貼り付いていた怯えた表情は消え去り、今は一人の研究者の顔になっていた。
サリーがたまにやる、立ち向かうような力強い瞳で、ウルド王子の意味不明な言語の羅列に頷いている。
今のレンにとっては、それがたまらなく頼もしく思えた。
そうして一通り聞き含むと、サリーが口を開いた。
「……なるほどね……でもその方法は反対……です。レンの体に何が起こるのか分かったものじゃない。人体への影響を考えるなら、完全複合型の信号は少々危険かと思い、ます……」
「……そうなの!?」
人体への影響などと、被験者のレンには聞き流せず驚いた。
だが、ウルド王子も持論を返す。
「君の懸念も一理あるがね! それでは機関の空想神経を接続する際に多大な痛みが伴うことになる。被験者にとっては何が最善か考えてみてくれ」
「……い、いいえ! より負担が少なくする方法はあるわよ! ……あります! 神経拡張の際に使われている魔力量を一定の基準を設ければ〜〜で$##$になるはず。だから#$#$*+?>+#$%&*?*〜〜」
「いいや、それでは調律が取れない! #%$%&の*+>に$%&だ! 死ぬよりも痛い#$+から+>』に〜〜」
二人の議論は段々と熱を帯びていく。
レンとしては所々に物騒な単語が散見しているので、その部分だけには注意が必要である。
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