第33話 第二王子ウルド④
本に埋もれ、にっこりと笑みを浮かべる不気味なデスマスク。
それを見てビビり散らかすノエル、レン、スミス。
薄暗く、乱雑な空間にいきなりデスマスクが現れれば誰だって驚くだろう。
まして、そのマスクが喋り出せばもはや恐怖体験だ。
だが、そんな混沌状態の中でも比較的冷静だったサリーが動いた。
彼女は怯える三人の頭を杖で叩き、一言「うるさい」と嗜める。
振り返ると、腕を組んだサリーの豪胆な視線があった。
ここはサリーが嫌っているウルド王子の研究室。一番怯えたいは彼女のずだ。
だが、当の本人はいつもと変わらず冷静沈着だ。
「お、王子様に、ひ、ひつれい、でしょ」
全然冷静じゃなかった。
恐怖から来る緊張か、全く呂律が回っていない。
よく見れば手足は震え、目の端に涙が光っている。
「だ、大丈夫……?」
逆にレンが冷静になる程、サリーの居様は強張っていた。
一方アルドは埋もれているウルド王子を掘り起こした。
「兄さん……なんでこんなところに埋まって……」
「ははは、ちょっと思考実験をね。ここが一番落ち着くんだ」
あまり答えになってないが、ともかくウルド王子は立ち上がり、ボロボロの白衣のままテーブルの方へ皆を促した。
「言い損ねていたけど、ようこそ我が研究室へ。えっと、すまないがイスは二つしかなくてね。従者の君たちはそこらの適当な所に腰掛けてくれ」
「あ、ありがとうございます……」
スミスがおずおずとお礼を言うと、ウルド王子はゆっくりと椅子に腰掛ける。
座った瞬間にブワッとホコリが舞い、レン達は眉をしかめた。
そこに向かい合うように置かれた椅子へアルドも座る。
従者らしく、皆はアルドが座るのを確認してから恐る恐る本と紙の中に座った。
「久しいな、弟よ。王都での事件は聞いているよ。君たちが指名手配までされている事もね」
「そうですか……では何故そんな私達をここへ?」
アルドの表情には緊張感が走っている。
一方、ウルド王子は問われた事に少し首を傾げた。
「何故って……冷たい事を言うなぁ。君と僕の仲じゃないか!」
ウルド王子にとって、理由などそれだけで良い、王命やら、指名手配やら、目の前の信頼には及ばない、と。
彼の短い言葉の中には、そんな意味が多大に込められていた。それも簡単に、笑みを溢れさせて言い切ったのだ。
「兄上……ありがとう……やはり貴方を頼って来てよかった……下手に兄上に会うのは危険だと思っていたが、杞憂だったようだな」
「はは! 結構結構! そうでなければザグラムまで来られなかっただろう!」
愉快そうに笑うウルド王子。
その仕草と表情には、話に聞く気難しさや変態性は皆無。
本の山の中で寝ていた事には驚かされたが、レンが見ている限りはただの善人だ。
(いい人じゃないか……ノエルもアルドも、一体何を警戒してるんだ……?)
語り合う二人の王子には和やかな空気が漂っている。
一方、認識阻害で別人になりきったサリーは未だに怯え、ノエルの背後からウルド王子を睨みつけていた。
「アルド、まずはここまで何があったのか聞かせてくれないか? 頼み事ならその後に聞くよ」
流石はアルフ王の息子の一人。
既にアルド達が何か厄介事を頼みに来たことは察しているようだった。
アルドの方も、大した反応は起こさない。
むしろ、相手の方から話を促してくれる事自体を好機と読んだ。
「話が早くて助かるよ、ウルド兄さん。じゃあ、私がレンを連れ、闘技場を逃げ出した経緯から話そうか」
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