第28話 秘策
「私たちも似たようなもん。結局、神の弱点に繋がるような情報は無かったわ」
「期待してた学院図書館でもかぁ……」
レンは残念そうに声を発した。
さらにスミスも慰める。
「まあ、元々が雲を掴むような話だからな〜〜。気長に探そうぜ」
「それがね、その雲に手が届きそうなんだよ」
アルドは学院図書館での出来事をかいつまんで説明した。
資料を探した挙げ句、何も見つからなかった事。
三人で推論を立て直し、結果的にノエルの発想で新たなヒントが生まれた事。
亜人信仰について記された古文書を読むにはゴーレムの警備を破らなければならない事。
「そういう訳で、相談したいのはその警備を掻い潜る方法についてだ……」
「と言われてもな〜〜まるで方法が分からん!!」
スミスが頭を掻いた。
レンもノエルも同様に俯いている。
「サリーの魔法でどうにかならないの? 認識阻害なら」
「無理よ。認識阻害はある生物にしか効果がないの。ゴーレム相手ではすぐに見破られるわ」
皆、再び首を捻り、しばらくの沈黙が部屋に漂った。
だが、アルドが口を開く。
「……それなんだが、方法がない訳でも無い」
「えっ」
視線が集まる。
アルドは少々苦い顔をしながらも、サリーの方へ顔を向けた。
「サリー、君に頼みたい」
「言ったでしょ? 私の魔法では、ゴーレムの警備は……」
「いや、頼みたいのは魔法じゃないんだ……」
途端に皆は疑問符を浮かべた。
サリーに魔法以外の頼み事など「固いジャムの蓋を開けて」とか、「筋張った肉を叩いて」とかしか思いつかない。
「君は物凄ッッく嫌がるかも知れない。しかし、今はこれしか方法がない……」
「ちょっとアルド」
サリーはベッドから身を起こし、ツカツカとアルドの目の前まで歩く。
そして人差し指をピンと立て、アルドに向けた。
「あんまり私を舐めないでよね。これでも魔王城まで迫った歴戦の魔法学士よ! 今更何を嫌がる必要があるのよ!?」
「……そう言ってくれるとは頼もしい……!」
アルドの声が色見を帯びる。
そんな期待を受けて、サリーは胸を張ってふんす、と鼻をならす。
「よし! それではその方法を説明しよう!」
「ええ。さっさとして頂戴」
◇
同日夜。ザグラム魔法学園。
レンとメラル達が踏み越えた、侵入禁止の通路へ入る者がいた。
正確には、空中を漂って来た、と言うべきか。
その人影は通路の奥へと進んでいき、吹き抜けからその穴を見下ろした。
日中、レンとリースが落ちた大穴である。
「……亡者共の流れがおかしい筈だ……全く、一体どこの誰がこんな穴を……」
月明かりの差すホールに美しい女性の声が響いた。
女性の手元が輝き、眼下の土と石が寄り集まっていく。
そうして亡者が呻くその穴を塞いでみせた。
「生徒か、はたまた教師か……念のためじゃ、一度外魔力の流れを検証してみるか……」
そう呟くと、女性はゆっくりと元の廊下へ戻っていった。
◇
翌日、場所は再びザグラム魔法学園校門前。
「ぜっったいに、嫌ぁーー!!!」
登校する生徒達を横目に、駄々をこねる歴戦の魔法学士の姿がそこにあった。
「サリー、頼むから落ち着いてくれ。昨日やると決めたじゃないか!」
「嫌よ嫌よ!! 奴に頼むくらいなら死んだほうがマシよ!!」
荒ぶるサリーは話を聞いてくれない。
何とか彼女を諫めようとしていたアルドだが、すっかり手こずっていた。
「参ったな……これは時間がかかりそうだ……」
地面に寝転がり、拒否の姿勢と取ったサリーをアルドは哀れに見つめた。
しかし、それを見かねてノエルが前に出た。
「アルド様、お任せ下さい」
「すまないノエル……任せていいか?」
ノエルは「もちろんです」とだけ言うと、汚い地面に伏せるサリーの横に、悠々と座った。
「サリー様。今日は何が嫌なんです? よければ私に話してみてください」
完璧な修道女ムーブ。
まるで幼子を慰めるような、優しくも心強い声に流石のサリーも顔をあげる。
これにはスミスとレンも舌を巻いた。
「すげぇ……! あの状態になったサリーが顔を上げやがった!!」
「本当に凄いよ……! どうやら僕らはノエルの実力を見誤っていたようだね……!」
「いや、昨日も同じようにノエルが諫めてくれただろ」
アルドの言うとおり、実は昨晩も一悶着あった。
宿屋で作戦を聞いた途端、サリーはもんどり打って絶叫し、散々「嫌だ!!」と喚き散らしたのだ。
あまりの騒がしさに、危うく宿屋を追い出されるところだった。
だがアルドの指摘はレンとスミスの耳には入っていない。
二人はすっかり、ノエル劇場の観客となっていた。
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