第24話 ヒント①
「やれやれ、これだけ蔵書があるというのになぜ見つからん……」
書棚に本を戻しながら、アルドが愚痴をこぼす。
一日通して百冊以上は目を通したが、彼らが欲するような”神の打破”に繋がる情報は全く得られていない。
「私の探し方が悪いんでしょうか……?」
ノエルのションボリ声が背後から聞こえた。
アルドの呟きはしっかり聞いていたらしい。
「いや、そんな事はないさ……すまない、ついボヤいてしまった」
ノエルから本を受け取り、書棚に戻した。
「……アルド様、謝る必要なんてありません。仲間なんですから、いつでもボヤいていいんですよ」
「いいのか……?」
「ええ! もちろんです!」
そう言われて、アルド手を止める。そして、ノエルと、その隣で黙って作業を続けるサリーに顔を向けた。
「”神の打破”など、本当に無理難題だというのは分かっていたさ。だが、メルクからザグラムまで散々書棚を探しまわった挙句、一度としてそれらしい情報を掴めていない」
「そうね」
書棚に本を戻しつつ、サリーが短く言った。
「……これだけ探しても無い、という事は……そもそもそんな情報など、方法など本当に存在しないのではないかと思ってな……」
「……」
ノエルは黙ってアルドの言葉を聞いている。
彼女の物憂げな視線はアルドが弱音を吐き出すには十分だった。
「……これまでの私の決意は無駄だったのだろうか。ここまでの旅は、何だったのだろう……」
王族としての立場を投げ捨て、メルク管理者という職務を放り投げた。
それも全ては、”人が”、神ではなく、人自身ために回り続ける世界を作る為。
しかし、そうまでしたアルドに突きつけられたのは、無情な現実だった。
神の弱点、神の欠点。どれだけ探し回ろうと出てこない。
それもそのハズだ。
なぜなら”神”とはそういう者。
自身の完全性を証明する必要がない程に、摂理として成り立っている。それが常識でありある種の基準だ。
神について調べれば調べるほどに、完全性がより強固になっていく。
その度にアルドは、自分の決意にヒビが入っていくような気がしていた。
「アルド、あんた本当バカね」
黙っていたサリーが口を開く。
分厚い本を肩に載せながら、呆れたようにため息をついた。
「これまでの旅で神を倒すための方法は見つかってないわ。でも、ヒントは幾らでもあったでしょ?」
「ヒント……?」
「サリー様! ヒントって何ですか!?」
ノエルがサリーに向き直ると、彼女は本を荷台に戻す。
そして、腕を組みつつ説き始めた。
「第一はレンの存在よ。アンタもそこに可能性を感じたから”元勇者”を助け出したんでしょ」
「ああ。しかし、単に彼は神に感知されないというだけで……」
「バーカ、それこそ重要じゃない。完全無欠の神様が感知出来ない存在なのよ」
勇者とは”神器”というこの世界の人間には手に余る武器を託した異世界人。
そして武勇と神威を持って、魔王討伐を遂行させる。
一見聞こえは良い物語だが、その実”勇者”とは大量破壊兵器でしかなかった。
そして神器を失った元勇者レンを、神は予測のつかない不都合な存在として抹消しようした。
「では、神様は自分の完全性を守るためにレン様を葬ろうとしたのでしょうか……?」
ノエルが恐る恐る聞いた。
「それも理由の一つでしょうね。」
「…………サリー、君の言いたい事が分かってきたぞ! 理由はそれだけじゃないだろう?」
何かに気が付いたように、アルドが真っ直ぐな声を出す。
先ほどまでの消沈ぶりが嘘のように、力が漲り始めた。
「自らの完全性を保つため。確かにそういう考え方もできる。だが、それでは動機としては弱い。その為だけにレンの処刑まで画策したにしては、神に利が少なすぎる」
「利って、人間じゃないんだから……」
サリーがそう呟いたが、アルドは前のめりになって続けた。
「確かに、神からすれば人間ごときの考え方さ。でもねサリー、人間でも亜人でも、魔人でさえ、損得で行動している。それは神でさえ例外ではない。となれば、レンの存在そのものが、神に対抗するために必要だという事は分かる」
「……アンタらしい解釈ね。まあ概ね当りよ。そこまで分かったなら、次のヒントは察しがつくでしょう?」
「ああ!」
アルドがハッキリと答えた瞬間、ノエルが割って入る。
「ちょっと待って下さい! 私にはお話が見えません……!」
「すまないノエル。これから説明するよ。でも、サリーのお陰で分かった事は一つだ」
ノエルはパンクしそうな頭を抱えながら、脚立に乗ったアルドを見上げた。
「神は完全では無い、むしろ不完全だ。殺す方法も必ずある」
「????」
ノエルは再び首を傾げた。
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