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第22話 迷宮脱出

 ーーガリガリガリガリ!


 メラルの膝が床に擦れ嫌な音を立てた。


 「イテテテテッ!」 


 入ってきた穴から浮遊魔法で脱出した4人は、吹き抜けになった2階の踊り場へ着地する。


 4人で手を繋ぎ合って浮き出たため、着地の時に割りを食うのは下の二人だった。


 しかし、レンは踊り場が見えた時点で手を離し、床に顔面を擦り付ける。

 そして、メラルも膝を擦りながら転がり、うつ伏せに倒れ込んだ。


 「おい! もっと丁寧に着地しろよ!」

 「リースちゃん優先!」


 顔を上げて文句を垂れるメラルに対し、褐色の少女はフンス、と鼻を鳴らした。


 少女はいつの間にかリースをお姫様抱っこのように抱え、そして彼女が降りやすいよう、床に跪いた。

 バカ丁寧である。


 「よしよし、ありがとね」

 「ふへへへへへへへへ」


 しかもリースに頭を撫でられ、随分ご機嫌そうだ。


 一方、男二人は汚い床にうつ伏せのまま。

 扱いの差に不公平を感じつつ、レンとメラルは立ち上がり、体のホコリを払った。


 ◇


 「まさか学園にこんな場所があるとはね……」


 吹き抜けの手摺りを掴みながら、リースは恐る恐る下の階に空いた大穴を覗き込んだ。

 中は標的を失った亡者達がアリの巣のように群がっている。


 「地下迷宮は元々下水道だったらしいからね。多分、幾つかの分岐路の一つがここに繋がってたんだと思う」

 「だとしたらあの亡者は何?」

 「……それは分かんない」


 レンはそっぽを向いて嘘をついた。


 「元勇者が倒したリッチーが使役してて、恐らくそれの生き残りだよ!」などと、あまりに詳しすぎると自分の素性がバレかねない。

 それに彼自身、嘘をつくと顔に出てしまう。そこで、これ以上言及されないよう話題を変えた。


 「そ、そういえば自己紹介がまだだったね! 僕はレン! よろしく!」

 「……ええ、そうね。私はリース、呪文科4回生よ。レンってあの逃げ出した勇者様と同じ名前ね」

 「……あっ」


 レンはそう言われ、思わず固まった。

 今さっき素性を隠そうとしていたばかりなのに自分から本名を名乗ってしまった。

 認識阻害の魔道具が効いているとは言え、油断が過ぎる。


 「……? どうしたの?」

 「………………いやーーソウナンダヨネ! 僕もコマッテイルンダ!」

 「そ、そうなの」

 

 嘘が思いっっきり顔に出ているが、もはや気にしていられない。

 サリーから渡された魔道具を信じて、レンは嘘を突き通した。


 「おう、そりゃ難儀だな、レン。俺はーー」

 「知ってるよ、メラル。君に関しては十分過ぎるくらいにね」

 「へへっ、まあそうだろうな。互いに殴り合って、肩も並べた仲だしな……」

 

 メラルはそう言って照れ臭そうに笑った。

 そして、頬を掻きながら続ける。


 「その……なんだ、ありがと、な」

 「……え? 何が?」


 メラルの口から予想がいの言葉が出て、レンは思わず聞き返した。

 そんな返しに、メラルはメラルでますます顔を赤くしている。


 「……だ、だからよ! リースを助けてくれてありがとなっつてんだよ……!」

 「最初から堂々と言いなさよ、全くもう……」


 呆れながらもそう言ったリースは優しげに笑っていた。


 「ねえねえ! 次はアタシでしょ!?」

 「うん! そうだね! って近い近い」


 褐色の少女がはしゃぎながら、レンの顔面に顔を寄せてくる。

 キスしそうな勢いだったのでレンは一歩二歩と距離を離すが、少女が止まる事はない。

 やがてジリジリと壁際へ追い詰められていく。


 「私はねぇ……私の名前はねぇ……!!!」

 「近い! それに怖いって!!」


 物凄い圧力を全身で感じながら、レンは壁にへたり込んだ。

 そんな彼をさらに追撃せんと、少女は両手を大怪獣のようにかざす。


ーーポカン!


 「……クレア! レンさん困ってるでしょう、止めてあげなさい」

 「あーー! これから名前言うとこだったのにぃーー!!」


 リースが背後から軽く彼女の頭を叩いた。それに褐色の少女は振り返って文句を言った。

 しかし、名前を聞いたレンはそれどころではない。


 「……クレア……?」

 

 レンはその名前に覚えがあった。

 

 闘技場の牢獄で、メルクへの道中で、教会の宿舎で、この旅の中で何度も耳にしたその名前に。

 そう。今はザグラム下層へ情報収集に出ているスミスが、散々自慢していた妹のクレアと同じ名前だ。


 よく見ると、僅かにスミスの面影があるような気がする。

 それこそ、先ほどら彼女に感じていた既視感の正体である。


 文句を言いながらリースに頬をつねっているクレアに、レンは問いかけた。

 

 「……クレア、一つ聞きたいんだけど。君、お兄さん居る?」

 「へ? んーー、一応いるよ。今は離れ離れだけどねぇ〜〜」


 レンは既に確信していた。

 スミスの面影がある表情、スミスから何度も何度も聞いたクレアという名前、彼女に兄がいるという事実と微妙な反応。

 それらが伝えてくるのは明確な事実。


 「……もしかしてその人、スミスっていう名前?」

 「…………う、うん……そうだけど」


 (間違いない……彼女は、スミスの妹だ……! 良かった! これでスミスは報われる……!!)


 レンは思わず、小さなガッツポーズを作った。

 しかし、クレアは少しだけ眉を潜めている。 


 「レンレン……兄貴を知ってるの……?」


 レンは固まった。

 手配犯のスミスを知っていると答えれば、問い詰められる事は目に見えている。

 

 かと言って、わざわざスミスの名前を出した理由をハッキリ説明する訳にはいかない。

 僅か二秒の間にレンの脳細胞は必死に言い訳をこねくり回した。


 「ま、まあね。お兄さん、有名な剣闘士だったし……僕、スミスのファンナンダヨネ!」

 

 それらしい理由を見つけた途端、カタコトになってしまった。


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