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第19話 蚊帳の外

 湿った石の香りがする。

 

 リースは朧げな感覚のまま、子供の頃の記憶を思い出していた。

 父から剣術を教わっていた頃、あまりに厳しい訓練に倒れ伏し、何度か地面を舐めたことがある。


 古い石の匂いは、その時の懐かしさを蘇らせた。


 「……って、ここは……?」


 微睡は唐突に終わり、リースはハッキリと意識を取り戻した。

 落下のダメージはしっかりあるようで、上体を起こすと少しフラつく。

 

 そこは古城の広間のような空間だった。松明や照明は無く、自分が落ちてきたらしい天井から注ぐ光でおおよその広さは分かる。

 よく見回すと特に装飾は無く、石作りの壁にはいくつかの破壊跡があった。

 ここは一体何をする空間なのか。

 だが、リースの思考はメラルの大声でかき消された。


 「おーーい!!!! 大丈夫かーー!?」


 天井から声が降ってくる。

 彼の大声が反響し、リースはわずかな頭痛を覚えた。 


 上を見上げると、褐色の少女と、彼女に抱えられたメラルがふわふわと降りてくる。


 「ごめん……大丈夫……!」


 片手を軽く上げ、緩やかに着地した二人を見ると、少し胸を撫で下ろす。


 「リースちゃん!!!!」

 「わっ」


 ガバッと褐色の少女がリースに覆いかぶさるように抱きついてくる。


 「死んじゃったかと思ったよ〜〜!!」

 「ははは、私も……」

 

 リースの胸で泣き喚く少女を優しく撫でつつも、メラルに目を向ける。

 

 「あんたもゴメンね……心配かけちゃったみたい」

 「謝るのは俺の方だ。すまん、無茶させちまった」


 メラルはそう言うと片膝をつき、リースの顔をじっと見つめる。

 急に近くに来たメラルに、リースは赤面しながら目を逸らした。


 「な、なによ……」

 「いや、怪我はないかと思ってな、顔に傷でも付いてたら大変だ」

 

 左手でリースの頬に触れながら、メラルは物憂げな視線を向けてくる。

 それだけでリースの頬はさらに熱を帯びた。


 「ちょ、ちょっと……」

 「動くな。よく見えねぇ」


 メラルの太い指が彼女の整った顔を滑っていく。

 リースはされるがままにしつつ、目を逸らしたままそっと呟いた。


 「その時は……あんたが責任取ってよ……」

 「ん? なんか言ったか?」

 「な、何でもないわよ!!!!」


 リースの怒声が空間に響き渡った。

 キーーン、という反響がこだまする。


 「や〜〜い、鈍感ゴリラ〜〜」

 

 リースの胸で泣いていたはずの少女が、メラルを揶揄った。


 「んだと、テメェ!」

 「そんなんだからモテないのよ〜〜、オホホホ!」


 メラルはリースから手を離し、煽り散らす褐色少女と口喧嘩を始めてしまった。


 しかし、そんな光景は日常茶飯事。

 逆にリースは、二人のいつもの喧嘩に吹き出してしまう。


 和やかな雰囲気の中、なんとも言いづらそうな、それでいて苦しそうな声がした。


 「……あの、そろそろ、どいて……」


 リースの尻の下からレンの声が鳴った。


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