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第18話 獣の如く



 「リース!!!!!」

 「リースちゃん!!!!」


 吹き抜けへ投げ出されたリースを見て、メラルと褐色の少女が叫ぶ。


 リースは杖を無くし、浮遊魔法を制御できない。

 しかし、二人が彼女を助けるには、あまりに距離が開きすぎている。

 

 投げ出された少女。そしてその背後から聞こえた叫び。

 状況は、今まさにリースの一番近い位置に倒れていたレンも察した。


 だが、間に合うはずがない。

 近くに倒れているとはいえ、彼が上体を起こし、吹き抜けへ走り出す頃には彼女は地面に激突しているだろう。

 

 ましてレンに彼女を助ける理由などない。

 それどころか、あまりにも一瞬の出来事で、それを判断する間などありはしない。


 そのはずだ。


 だがそれでも、レンは前足底に力を込めた。


 それは背後から響く悲痛な叫びを聞いたからではない。

 理性を飛び越え、直感的に動いていた。


 瞬間、レンは動き出した。


 地面を捉える右足は、そのパワーを左膝へと送り出す。

 それを受け取ったのは左腿。そして更なる加速でレンの体を前へ前へと推し進めた。


 すると、レンは上体を起こす事なく、即座に走り出す。

 

 現代でいうところの、クラウチングスタート。しかしその姿はアスリートというよりも、まるで四足獣のようだった。

 両腕、両足を駆使し、人間とは思えない加速で落下寸前のリースへ向かう。


 (間に合え!!!)


 そして手すりを飛び越え、レンの体はリースと共に宙を舞った。

 レンは両腕を広げ、空中で放心状態のリースをしっかり捕まえると、そのまま真っ逆さまに堕ちていった。





 「彼は良いのですか? ノエルさん」

 「え、ええ。私が居なくともレン様なら……それに、あそこに割って入るには遅すぎました……」


 時は少し戻って礼拝堂の前。


 メラルの姿を見た矢先に、レンは「ごめん、先に行ってて」とだけ言い残して走り去った。

 そしてメラルもそれを追って長い廊下の奥へと消えていったのだ。


 「申し訳ない……彼は悪い子ではないのです……ただ、育った環境が周りと違うというだけでして……私の指導力不足です」


 神父兼教師のノヴは、悲しそうな声でそう言った。

 

 「何を仰いますか! ノヴ様はとても良い先生だと思いますよ。ここの生徒でもない私に親切にして下さいますし、今もメラルさんを心配されていますし!!」

 「ノエルさん……ありがとう。貴女も清い心を持っているようですね。女神アルペウスも貴女のような信徒を持ててさぞお喜びでしょう」


 聖職者同士、なんだか穏やかな空気が流れた。

 そのまま二人は学院図書館へと足を向ける。


 「ところで、先ほどのレン君とはどこでお知り合いに?」

 「え! ええと……!」


 ノヴがニコニコとした笑顔を向けて、話題を振ってきた。

 当然だが、正直に「今王国が追っている元勇者様ご本人で、私の故郷を救って下さったのです!!」などと言えるはずがない。


 ノエルは目線を壁の方に向けながら何とか誤魔化した。


 「あはは! な、長い付き合いでして! 幼馴染みですよ〜〜!!」

 「……ほう。それは変わったご関係ですね。普通、幼馴染みの方を”様”呼びするのは少々不思議ですが……」

 「ギ、ギクウ!! そ、それはですね……! 私は家族以外をそう呼ぶように育てられたからなんですよ〜〜! なぜなら私、教会で育ちましたから〜〜!!!」


 思わず肩がビクリと上がり、ノエルは目を泳がせる。

 一方ノヴは、「ギクウ?」と、首を一瞬傾げたが、彼女の家庭を察して謝った。


 「失礼、立ち入った話でしたな。信頼関係は千差万別、第三者が口を出すような事ではありませんね」


 教会で育ったという事は自分が捨て子だと話すようなもの。

 その事を、ノエル自身は何とも思っていないが、他所様から見ればそうではない。ノヴは彼女の事情を慮ったのだ。


 しかし、ノヴは暗い雰囲気にはさせず、話を変えた。

 

 「では、話題を変えましょうか。レン君のどこが好きなのですか?」

 「ははは……え?」


 ノエルが見上げたノヴの顔は慈悲深さに好奇心が混ざったような、要するにニヤニヤとしている。

 

 「な、何を仰っているのでふ……!」


 予想外の話題にノエルは顔を真っ赤にした。


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