第16話 追いかけっこ
「これは……凄まじい書蔵だな……」
学院図書館に足を踏み入れたアルドは、顔を真上に向けている。
城の大広間が十や二十も入りそうなほど広い空間に無数の書棚が並んでいる。
「おかしい。明らかに外観以上の大きさだ……魔法によって空間が拡張されているのか……?」
アルドが驚いているのは広さだけではない。その高さも異常である。
書棚の一つ一つが真上に伸び、上段が霞んで見渡せないほどに高い。
そして空中には魔法使い達が本やら資料やらを抱えて飛び回っている。
「相変わらずとんでもない空間ね、私が居た時よりも広くなってるわ、これ」
「広がっているのか……これ……」
「ええ。飛び回ってる学生や教授が見えるでしょ? 彼らの日々の研究が新たな発見として一冊の本にまとまり、ここの蔵書となるの。つまり……」
「蔵書量は日々増えている、と……」
アルドは宙を飛び回る人々を見つめた。
彼ら一人一人の研究がこの都市、そして人類の発展に大きく貢献していると考えると、思わず胸が熱くなる。
「流石は知識と技術が集まる都市……これは期待が持てるな!」
書棚を埋め尽くす大量の文字を前に、アルドはもう一歩、足を踏み出した。
◇
「待てええええええええーー!!!!!!」
「待たない!! 諦めて!!」
礼拝堂と旧校舎を繋ぐ廊下は平穏なものだった。
この通路は、新校舎側と比べて通る生徒は少なく、そこに面した教室は学生の自習室もしくは空き部屋となっている。
その為、普段は静かで平穏な時間が流れている。
「止まれえええええええ!!!!!!!!」
「だから嫌だって!!!!!!」
しかしどうやら今日だけは様子が違うらしい。
廊下を必死に逃げ回っているのはレンだ。
武術も技も関係なく、ただただ必死に走っている。
その後を追っているのは、おかしな体勢で叫ぶ目つきの悪い男、メラル。自称学園最強の男。
彼は浮遊魔法で宙を浮きながら、左右それぞれの肩には二人の女子生徒をはべらせている様に見える。
「ちょっと〜〜メラルうるさいんだけど〜〜」
「メラル! アンタちょっとは静かにしてよ! 誰が運んであげてると思ってんのよ!!」
実を言うと、メラルは浮遊魔法を使えない。
なので、彼になついている(?)リースとその親友の手を借り、二人の浮遊魔法でレンを追い回しているのだ。
「馬鹿野郎! 叫ばなきゃ逃げられるだろうが!!」
「そのせいで逃げてるんじゃない〜〜?」
メラルの右肩を担ぐゆるふわ系褐色女子がそう言ったが、彼は聞く耳を持たない。
「逃げんじゃねぇ!!!!!!!!」
「この追いかけっこ、いつまでやればいいのよぉ!!!」
元はと言えば、礼拝堂を出た直後に鉢合わせたレンに大声を浴びせたことが間違いの始まりだった。
振り向き、メラルと目が合ったレンはノエルと教師のノヴを残してその場から逃走。
気がつけば、メラルの肩を担いで逃走者の背中を追うことになってしまった。
「ま、まあ? アンタの頼みなら協力してあげてもいいですけどね……! その、アンタは特別だし……」
「待てって言ってんだろがーー!!!!!!!!!!」
「リースちゃん渾身のデレ攻撃、全然聞いてないね〜〜」
青筋を立てて吠え続けるメラルにはもはや誰の声も届かない。
こうなってしまえば、やりたいようににやらせるしかないと、リースは長い付き合いから知っていた。
「はぁ……もういいわよ! さっさと奴を捕まえちゃうわよ!」
「はいはい〜〜」
リースの青い瞳と褐色の少女の視線が交差した。




