第7話 また決闘
ノエルは戸惑っていた。
彼女は校舎に入り、あまりに現実味のない学園の光景に見惚れていると、レン達を見失った。
気が付いて皆を探しそうと駆け出した途端、短髪のガラの悪そうな男とぶつかってしまった。
ノエルはすぐに謝り、その場を離れようとしたが、短髪の男は彼女の片手を掴んみ、顔を覗き込んできた。
彼女を掴む太い腕には血管が浮き出しており、見た目通りの膂力で握ってくる。
「離してください!!」
そう叫んだノエルだったが、男は話を聞いてくれない。
何やらボソボソと口を動かしている。
ノエルは恐ろしくなって暴れたが、男はノエルを壁に押さえつけられた。
「頼むよ……! 俺の話を……」
「い、いやあああああ!!!」
そうして騒いでいると、レンが駆けつけたのだ。
「ま、まさかとは思うけど……ノエルに……」
「悪いかコラァ!! 一目惚れだオラァ!!」
少し顔を赤らめながらも、短髪の男、メラルは堂々と言い放った。
「カ、カッケェ……、やっぱ男だぜ、メラル様は……」
彼の背後に控える取り巻きたちは一様に頷いている。
正直、レンも心では感心していた。
ここまでハッキリと、しかも公衆の門前で好意を示すことができるのは本当に尊敬に値する。
しかし、だからと言ってノエルを怖がらせたのはよろしくない。
(こればかりはノエル次第だな……)
そう思い、レンはノエルの方へ顔を向ける。
当のノエルは、突然好意を向けられ驚いた様子だが、もじもじしながらも頬を赤く染めている。
「あ、あの……さっきは大袈裟に騒いですみませんでした……私も貴方のお話をちゃんと聞いていれば……」
「……い、いや……俺もなんていうか……急すぎたっていうか……!」
メラルは突然硬直し、レンから顔を逸らしてノエルに向かい合う。
赤面の二人の周囲に桃色の雰囲気が漂い始めた。
取り巻きも、レンも、野次馬たちも、すっかりその雰囲気に飲まれていた。
(……な、なんかいい感じだ……! このまま上手い事いけばこの場も治りそうだ……)
淡い期待をノエルに向けた。
レンとしても、穏便に済むならそれに越した事はない。
「えっと……それで、その……どうっすか……? 俺、本気です……!」
(言った……! ノエル……どう返す……!?)
「乱暴する人は嫌いです」
華麗な玉砕。
当たり前と言えば当たり前の帰結。
「…………! そ、そうですかっ……!」
だがしかし、このメラルという男の心は簡単には折れない。
今度はレンを指差して、再びノエルを問い正した。
「この、男がいるからですか! コイツとはどういうご関係ですか!?」
そうして矛先がレンに戻ってきた。
ここはどうか穏便にしたいレンは、ノエルに視線で合図を送る。
(ノエル……! 頼むからただの知り合いだと言ってくれ……! 僕も話を合わせるから……!!)
だがノエルは慌てていてそれどころではない。
真面目な彼女は、レンと自分の関係をうまく表現できる言葉はないかと思案していた。
正体を隠して学園に潜入している以上、簡単に答える訳にはいかないのだ。
暫し考えた末、ノエルの口からとんでもない答えが飛び出した。
「えっと……! とても人には言える関係ではありません……!!」
「な……」
「ノエルぅ!?!?!?」
確かにノエルの言うとおり、二人の関係は人に言えるようなものではない。
なぜなら今は潜入中で、ここに入る前にもサリーから”生徒との接触は避けろ”と言われていたから。
『人に言えるような関係ではありません……ありません……ありません……』
衝撃的な発言は、メラルの中で何度も反芻され、あらぬ方向へと妄想が広がっていく。
やがて彼は一つの結論に導かれた。
「貴様……! こんな清純そうな女の子になんて変態行為を……!!」
「いやいや、君が思ってるような事はしてないよ!」
レンはそう言ったが、メラルの方は聞く耳を持たない。
(この流れは……見覚えがあるぞ……! マズい……!)
似たような事がメルクでもあった気がする。
奇しくも原因を作った人物は前回と同じである。
「男として、貴様だけは許せん……!!! 決闘しろ! 今すぐに!!!」
「あーもう! そう言うと思ったよ!」
”決闘”その言葉を聞いて、レンは逆ギレ気味に吠えた。




