第56話 ラウ少年
レン、アルド、ノエルの視線の先に、小さな子供がポツンと歩いている。
既に夜更けだ。小さな子供が街を彷徨くには、あまりにも危険な時間である。
「何してるんだろうあの子……ノエル、よく気がついたね!」
「へ? あ、あの……はい!」
ノエルはそう言われて瞬きした。
彼女も気が付いていたわけではないし、そういうつもりでレンとアルドを呼び止めたわけではなかった。
だが今は、後ろに見える少年への心配が勝った。
三人はすぐに少年の元へ駆け寄った。
「……こんばんわ。こんな夜中にどうしたの?」
最初にノエルが優しく声をかける。見たところ3歳くらいの男の子だ。
少年はゆっくりと振り向いた。
「……こんばんわ。おねぇちゃん達だぁれ?」
「えっと、私はノエル」
「アルドだ!」
「レンだよ」
それぞれ名乗ったが、少年は興味がなさそうに西門へ視線を戻した。
まるで彼岸でも見つめるような遠い目をしている。
「こんな時間に何してるの?」
「……パパを探してるんだ」
「パパ……?」
ノエルは座り込んで少年の視線に高さを合わせた。
「どこではぐれたのかな? お姉さん達に教えてくれる?」
「あそこ」
少年が指差した先は、やはり西門だった。
その場所では避難騒動の最中、数名の犠牲者が出ている。
それを知っていたレンは、嫌な予感がした。
「アルド、もしかして……」
「ああ……」
レンが小声でそう呟いた瞬間、アルドも少年に寄り添い、「少年……」と言って座り込んだ。
少年の視線に合わせ、真剣な眼差しを向けた。
「名前は?」
「ラウだよ」
「そうか。では、ラウ。君のパパの名前は?」
少年は一瞬考えたが、すぐに答えた。
「バロック」
「……そうか……」
父親の名前を聞くと、アルドは一瞬、悲壮を浮かべる。
レンにはその表情の理由が分かってしまった。
「ラウくん、パパはどんな人? よければ教会で……」
「ノエル、大丈夫。それには及ばない」
アルドは手を制しながら、ノエルの話を遮った。
「ラウ。君のパパはまだ帰れそうにない。今日は家に帰りなさい」
「パパを知ってるの?」
「……ああ。とても大切なお仕事があるから、暫くは留守にするそうだ」
諭すように、アルドはそう言った。
そんな彼をノエルは不思議そうな表情で見つめていた。
だが、一方のラウ少年は不安げに俯いている。
「……うん」
「良い子だ。お家はどこかな? 送ろう」
アルドは立ち上がり、少年に手を差し出した。
だがラウは首を横に振った。
「いい。すぐ近くだから。それよりさ……!」
顔を上げ、アルドの瞳をまっすぐ見つめる。
少年の瞳には、不安の色が残っている。
「なんだい?」
「パパに伝えて。ママが泣いてるって」
「……だからパパを探していたのかい?」
「うん。パパが帰ってこないから悲しんでるんだと思う。ママ、パパが大好きだから」
「……そうか」
くしゃり、と少年の頭を撫で、アルドは苦しそうな笑みを少年に向けた。
「なら、ラウ少年。今はママの側に居てあげた方がいい。君まで居なくなったら、ママはもっと悲しいだろう?」
「そっか……そうだよね」
少年の屈託のない表情がアルドに向けられた。
「お兄ちゃん、ありがとう! 僕、急いで帰るよ!」
「ああ。気をつけて」
そう言いながらも、アルドは拳を握り込んだ。
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