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4話 あああああああ!あっちぃぃぃぃぃぃいいいーーーーー!!!!!

「邪王の手下の所長出てこいゴラァ!」


 俺は威勢よく賑わっている所長のドアを蹴飛ばした。

 中には体格のいいオークやゴブリンが斧や棍棒を持ってたむろっていた。

 突然のことにいら立っていたのか、俺のことを全員にらんでいた。


「ええと、すいませんこの施設の所長様はいらっしゃいますか?」


 さっきまでの威勢はそこらへんに投げ捨てた。

 

 この雰囲気、高校の頃、不良に絡まれたときそっくりだったのだもの。


「ふむ、認識阻害魔法を使っていたはずだが。転生者には聞かなかったか」

 

 部屋の一番奥に、鎮座している所長らしき悪魔が俺に語り掛けた。


「ああ!所長様ですか!実は住人の一人が食中毒になってしまったらしくて、それの救護をお願いしたくて」


 目をウルウルさせて上目遣いで懇願した。

 俺はチワワだ、今の俺はチワワだ。チワワになりきれ、チワワにマジ切れする奴なんていないんだから。


「ふむ、そんなはずはないんだが……。まあいい」


 どうやら話は聞き入れてもらえたようだ。エリーゼは助かる。こいつらの正体はまた今度暴くことにしよう。


 そそくさに退室しようとしたところ。所長からある言葉を投げかけられた。


「こいつは秘密を知っている。ちょうどいい、邪王様に献上する。動かなくなるまで痛めつけろ、手足の二、三本なくなっても構わん。差し出した奴に褒美をやろう。あと気を付けろ、そいつは転生者だ。」


 部屋にいた魔物たちは、今までのいら立ちが逆転するほどの歓喜に包まれていた。

 

 俺は、手足の二、三本なくなっても構わんと聞こえた瞬間に走ってこの場を去った。


 かくして、俺の未来をかけた人生最大のチェイスが始まった。





_________________________________





「ぎゃはははははは!待ちやがれ人間!殺させろ!殺させろ!」

「いやぁぁぁぁやめてぇぇぇ!来ないでぇええ!」


 殺せとまでは言われてないだろ!

 そう突っ込みたかったが、そんなことを言っているうちにマジで殺される。


 所長がしゃべっている途中で逃げたので、距離的にかなりアドバンテージがあった。

 しかし、オークは鼻が良く、どこまで逃げても追跡できるそうだ。

 

 さすが豚さん、俺と一緒にトリュフを追っかけないか?


 そしてゴブリンのコンビネーションにより、俺は袋小路まで追い詰められた。


「まずは足ちょん切って動けなくしてやろうぜ!」

「その前に爪だろ!痛みで泣くとこが見てぇ!」

「違う違う!半分ほど骨を折るんだよ!」

「目ん玉と金玉の位置を入れ替えてやろう!」


 魔物どもはじりじりと俺に近づきながら、アイデアを出していた。


 すごい楽しそう。

 靴舐めればいけると思ってたけど、どうやら舐めるのは辛酸シンサンだったようだ。


 絶望していた時、不良に絡まれた際に使った打開策を思い出した。

 こいつらに効くか分からない。

            

 俺は無敵らしいが、どんな感じの無敵かわからない。

 無敵の仕様がわからない今、サンドバッグにされるのはリスクが高い。

 

 このまま蹂躙ジュウリンされるくらいなら、もがくしかない。


「ウアァアァアアォォォォオオオォ!!!!!!!!」


 今まで出したことのない声を出しながら、右手は時計回り、左手は反時計回りにグルグルと回し魔物どもに向かっていった。


 グルグルパンチ!


 幼稚園から大学に入るまでこの技でピンチをしのいできた。


「「「「「ぎゃははははははははは!」」」」」


 魔物どもは笑っている、だけど俺は泣いている。

 

 ええい、どうにでもなれ!


「はははははは、あれ?体が吸い込まれていくぞ。ぬぉぉぉぉおおお!」


 一人のオークが俺のほうに飛んできた、その後、俺の右手に当たり吹き飛んだ。


 突然の出来事に辺りは静まり返った。

 俺はその静寂のおかげで我に返って分析することができた。


 どうやら左手のグルグルによりオークが引き込まれ、勢いのついた右手のグルグルによりオークが吹き飛んだようだ。


「おいなんだアレ」「やばくねぇか」「逃げたほうが」

 

 魔物どもはどよめき、困惑している。


 だが、いち早く現状を理解した俺は、一言述べた後、グルグルパンチを再開した。


「まわっちまったようだなぁ……。狩る側から狩られる側へなぁ!」

「「「うわぁぁぁ!」」」


 誰一人逃がさん!

 強い闘志を燃やしながら所長室までグルグルしながら向かった。

 


___________________________________




「邪王の手下の所長出てこいゴラァ!てめぇんとこの部下全員ぶっ飛ばしてやったぞ」


 俺は管理室の中まで再臨し、同じ脅し文句を吐き散らかした。

 もう守るものはいない、おびえるのはお前のほうだ。


「さすがは転生者、あれだけの数を無傷とは……。どうだ、邪王様の元でその力活かしてみないか?富と名誉は保証するぞ。」

「それなら部下けしかけずに最初から交渉しろや!行動と口頭があってないよ~」


 所長の甘言に俺は即答した。

 世界の半分やるってやつだな。ああいう約束って結局無下にするからな。


 第一、罪もない人に毒を盛った。それだけで断る理由だ。


「言いたいことはそれだけかな?じゃあもうぶっ飛ばすね!」


 俺は腕をグルグルして所長に近づき始める。

 これで幕引きだ。


「ならしかたない、いでよ眷属達よ」


 所長の発した号令に応じ十人近くのゴブリンが現れた。

 さっき相手したゴブリンとは雰囲気が違った。

 魔法使いが着てるような服を身に着けた格好だ。


「なんだ仮装大賞か?俺とお前で司会でもやるか!」


 それを見て相手を侮る意味を込めた挑発をした。

 

 なぜなら俺にはグルグルパンチがある。どんな敵でも負けない。

 ドラゴン?ケルベロス?なんでもこいや。


「あのパンチ、不格好ながら素晴らしい威力だ。だがそれは近づけばの話だ。構えろ」


 所長の命令に応じ、ゴブリン達は前方に両手をかざした。


「ぅてぇぇーい!」


 その言葉と同時に火の玉の大群が俺に襲い掛かった。


「ぬわぁーー!あっちぃぃぃーー!」


 その大群を半分以上くらい、耐え切れず、管理室外に逃げ物陰に隠れた。


 無敵のはずなのに熱さとか感じるのかよ。


「あれをもろにくらって熱いですむか!耐久力は転生者の中でも上位だな。陸に上がった魚のようにピチピチと跳ねる姿はお笑いだったぞ」


 先ほどまでの挑発を返すように所長はそう述べた。


 くそ、ダメージはくらう系の無敵か。痛覚ないと不便だし、しょうがないか。

 だけどそれなら我慢すればいいってわけだな。


「何が火の玉だ、こっちは玉砕覚悟だ!おらぁぁああ、あっちぃぃぃーー!」


 気合で目の前に飛び出したが、ダメ。熱くて耐えられない。

 分かりやすく例えるなら、焚きすぎた風呂を真夏に入るくらい熱い。


 すかさず物陰に逃げ帰った。


「なぁ、それ禁止にしませんか?こっちはグルグルパンチ禁止します」

「もう打つ手はなさそうだな。終わりにしよう」



 俺の懇願コンガンを聞かずにこちらの物陰に向かって歩を進めてきた。

 

 ダメだ、遠距離に対して打つ手がない。

 パワー的には俺が勝っている。

 何か投げつける物があれば。

 今から用意しようにも、その間にハチの巣にされ、のたうち回ることになる。


 万事休すか……。諦めかけてたその時、あることを思い出した。


 あれならいける、ってかあれを利用するしかもう道はない。

 決意を固め、再び、所長達の目の前に出た。


「すいません、邪王軍の椅子ってまだ余ってます?」

「全員、準備を始めろ、これで仕留める」


 俺の思いは届かないどころか、時間も稼がせないらしい。


 練習してみたかったが、ぶっつけ本番でいくしかない。

 俺は両手に物を掴めるように自由にしながら、ある言葉を放った。


「ん、ステータスオープゥゥゥゥン!!!」


 その言葉をきっかけに、右手に自己のステータスを表すアクリル板が現れた。

 と同時に、それを所長達めがけて投げつけた。


 運よくそれがゴブリンの一人に当たった。


「ひるむな!打てい!打てーい!」

「ああああああ!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープン!ステータスオープゥゥゥン!」


 火の玉とステータスオープンの応酬が始まった。


 火の玉と投擲されたステータスは、時には相殺しあい、時にはすっぽ抜け、時には互いにぶつかり合うという攻防が続いた。


「あああ熱い!熱いよお~オープン!ステプンプン!ステータスプン!ステェアゥン!スン!」


 止まったら殺される。


 熱いが今は一つでも多くステータスをオープンしないとダメだ。

 半狂乱になりながら、息が切れるまで投げ続けた。


「ぜぇぜぇぜぇ。すひゅー、こひゅー。はぁはぁ」


 完全に息が切れ投擲を止めた。

 

 ゴブリン魔法部隊は全員床に倒れこんでいた。

 しかし所長はバリヤーを使い、身を守っていた。


「くそ、バケモノめ!邪王軍の椅子は開けてやる、だから許してくれ!」


 所長はおびえながら命乞いを始めた。

 

 聞く耳を持たず、俺は所長の元へ一歩、また一歩と歩みを進めた。


「じ、実は王都の道具の横流しは個人でやっただ。私腹を肥やしただけなんだ。邪王様への上納も必要最低限に欺いていて、残りの稼ぎは懐に入れていただけなんだ!対立を煽るためじゃなく個人の利益のためだけにやったことなんだ!許してくれ」


 俺はそれを聞いて所長の前にピタッと止まった。


 そうか、個人事業主みたいなものか。

 でもやってることはそれ……。


「それ脱税と横領じゃねぇかー!」


 バリヤーを突き抜け、所長の頭に拳骨をお見舞いした。その後気絶した。


 脱税と横領は犯罪です。詳しくはググってくれ。




_____________________________





 激闘を終え、俺は所長室で途方に暮れていた。


 エリーゼが毒にやられているので、医者か何かを探したが誰もいなかった。

 王都から医者を呼ぼうにも、方法がわからない。



「なんだなんだ、どうした?」

 

 激しい物音を聞き不審に思ったのか、住民が押し寄せてきた。


 そういえば、認識阻害魔法がかかってたって言ってたな。

 それが今頃解けたのか。


「アマチ!これはいったいどういうことなんだ?」


 甲冑がベラールを引き連れて俺に聞いた。俺は事のいきさつを全て話した。


「そうかそうだったのか。なら、この施設の仕様上、所長室のどこかに王都に連絡する魔道具があるはずだ。それで騎士団を派遣してもらおう」

「ならワシが王都に連絡しよう、ここに長くいるからの、何度か通信したことあるのでな」

「俺は道具の使い方がわからないから頼みます。じゃあ甲冑は毒に効く薬を探してくれないか」


 なぜ?と甲冑が聞いてきた。エリーゼが毒にやられたからだと答えた。


「ああ、それなんだが。夕飯のカレー食べすぎてお腹痛いらしかったから、寝かせといてるよ」

俺はガクッと膝から崩れ落ちた。


 決死の覚悟が徒労に終わると膝から崩れ落ちるらしい。新発見!


 まぁでも、無事でよかった。

 俺は魔物どもが暴れないように、丁度いい縄を見繕い、捕縛してくると伝え、その場を後にした。


___________________________________


「あと数時間で騎士団が駆け付けるそうじゃ」

「わかりました、じゃあ俺はその前にここを出て、王都に向かいます」

「本当にいいのか?」


 甲冑とベラールは心配そうに聞いてきた。


 なんか嫌な予感がするんだよね。

 転生者がなぜ一か月も邪王軍の元で遊んでいた!とか難癖つけられそうだし。

 これ以上勘違いで厄介ごとを増やしたくない。


「所長室で地図を見つけたし、大丈夫だよ。たどり着くことはできるはず」

「そうか、ならこれを持っていけ、困ったときは私を訪ねに来てくれ」


 甲冑は自分のステ板(ステータスオープン板)の切れ端を渡しながら言った。


「なんだこれ」

「るるぶカードだ。持ち主を念じながら握ると相手の居場所がわかる」


 なんか聞いたことある名前だな。

 たびたび、ここが異世界なのか疑問に思う。


「短い間でしたが、ありがとうございました。また会いましょう」

「おう、またな」

「もし困ったらこの施設に来なさい!ワシは所長の手柄だけを横取りし、ここを仕切るつもりじゃ!きっと助けになるはずじゃ」


 俺は最後にお礼を述べ、施設を後にし、森に消えた。二人とも激励を飛ばしてくれた。


 ベラールさんはかなり野心家みたいだ。あの年になっても上り詰める向上心。

 見習って行きたい。



「おーい、待つであります~」

 

 少し歩くと、後ろから声がした。

 

 振り向くと、エリーゼが俺のステ板を持って追いかけてきた。


「一体どうした?体調は大丈夫なのか?」

「腹は大丈夫であります!どれだけ食べても、だいたい30分くらいで消化できるであります。実はあたし、赤ん坊の頃にあの施設に預けられたのであります。だから旅をするアマチについてきて、預け主を探したいのであります。それに……」


 それに?


「あたしのために魔物と戦ってた聞きました、だから恩返しもしたいであります!」


 その言葉を聞いて俺は感動した。

 こんなに優しい心の持ち主がいたなんて。ジーンときた。

 

「そうか、じゃあこれから頼むぜ!おっしゃ、ついてこい!」

「はい!」


 エリーゼが仲間になった。ぶっちゃけ心細かったし嬉しかった。

 

 護らなければ、俺にはその力がある。


「君たち、ちょっといいかな?」


 エリーゼと信頼を築いていた最中、黒いライダースーツのような衣服を着ている長髪の女性に声をかけられた。


「この辺で転生者が現れたって聞いたんだけど、何か知らない?」

「ああ、知っています!この近くに身寄りのない人を集めた施設があります。そこで甲冑を着ている人がいます。その人がそうです。これはその人のるるぶカードです、どうぞ」


 甲冑、すまん!今が困った時なんだ。

 エリーゼがこっちを見て驚いている。ばか!バレるだろ!


 第一、この森の中で一人でライダースーツだけは怪しすぎる。

 邪王軍の女幹部か何かだろ。

 施設には騎士団もいる、そこでお縄にでもなってろ。

 

「ありがとう、わかったわ。じゃあお礼させてもらおうかしら」


 ガチャン!


 その女は俺の首に、リードのついた首輪をはめた。


「嘘つきは正直者へと矯正しなくちゃね、ついてきなさい」

「うぁぁああ、お礼じゃなくてご褒美だこれぇぇ!」

「わ、わ、何をするでありますか!」


 エリーゼは現状を理解できないながらも、謎の女に食ってかかった。

 ナイス!早めの恩返しをしてくれ。


「お嬢ちゃん、この人の仲間?じゃあついてきて」


 女はエリーゼに優しく微笑み、手をつなぎ先導した。

 悪い人ではないと判断したのか、エリーゼは静かになり、ついていった。


「いやぁぁああ、洗脳!洗脳されてる!誰か助けてぇーー」


 俺は引きずられながらも王都へ向かった。


 一か月前、異世界に来た時と同じ状況になっている。


 だけど、あの時と違う事がある。


 俺には人を守る力があり、仲間がいる。


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