3話 安定した環境に浸るのが、いちばん気持ちいい
この世界に来てから一か月たった。俺は未だに謎の円柱を動かしている。
神による神がかり的な聞き間違いにより、俺は護衛ではなく奴隷として存在していた。
あまりのどうしようもなさに落ち込んでいた。
だが甲冑、ベラールさん、エリーゼは励ましてくれ
俺のいきさつを聞き、今後について話し合ってくれた。
どうやら転生者は俺以外にも数人ほどこの世界に存在していて。
王都シャングルラで指示を聞き邪王軍と戦うのが一般的らしい。
つまり、王都に行けばいいらしい。
だが、なかなか足が進まないでいる。
だって他にも転生者いるし、俺は奴隷だし。
「おら!しゃかりきと働け!」
「はいぃぃぃ!すいませぇぇぇぇん!」
甲冑は鞭をバチンと地面に叩きつけた。
やることも無いし、落ち着くから無心で動かしている。
甲冑は俺の気持ちが収まるまで監視役として、時間を惜しまずこの茶番に手伝ってくれた。
優しいね。
「よし、今日の作業は終わり!風呂に入ってさっぱりしてこい!今日の夕飯はカレーらしいぞ、しかもおかわり自由だ!」
「マジか!楽しみだ!」
この世界にもカレーはあるという事実に驚くところだが、もうどうでもいいことだ。
そう考えながら浴場に向かった。
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俺はひと風呂浴びた後、この施設の管理者である所長のところに向かっていた。
今後のことを考えて、この施設内で居候として働いていた。
しかし、もう全てがどうでもいいため、ここでお手伝いとして働くことを伝えようとしていた。
「居心地いいしな、この施設」
自分に与えられた使命を誤魔化すように、独り言をささやいた。
所長室の前まで来て扉を開けようとしてきたとき、声が聞こえた。
「いやぁ~、所長、今月も無事上納できそうですね」
「ああ、王都の道具を横流し、さらに施設内の住人から吸い取った魔力を邪王様に捧げる。敵に塩を送っているとも知らずに笑えてくるわ。しかも運よく転生者を手中に収められるとは。幹部になる日も近い」
すごい説明口調!ベラベラと内情をしゃべりやがって。
こいつらの思い通りにさせてたまるか!
部屋の中に殴り込もうとした。
しかし、証拠がないのではぐらかされるかもしれないため、怒りを静め、お腹が減ったので夕飯を食べに帰った。
食後、俺は持ち場に帰りボーっとしていた。
所長たちが悪事をしていることは明白だったが、自分がそれを裁く必要があるのか悩んでいた。
他の住人に危害は加わってないし、俺は奴隷だし。
うまくいってるこの環境を壊すこと自体、悪ではないかと思う。
「うぅ……」
エリーゼが突然、腹を抱えて倒れた。
突然のことだったが、周りの住人は急いで駆け付けた。
ちなみに一番最初に駆け付けたのは甲冑だった。優しいね。
「どうした、具合でも悪いのか?」
甲冑が心配そうな声色で聞いた。するとエリーゼは。
「ゆ、夕飯が……」
力なき声でそう返した。
その姿を見た俺は目を覚ました。
子供をかばって死んだときもそうだ、その後のことなんて関係ない。
その時助けたかったから助けたんだ。
エリーゼはきっと毒を盛られた。奴らは邪王軍だ、この世界を滅ぼす敵なんだ。
たとえ奴隷でも、孤独でも、目の前の命を救うためなら命をかける。
それが俺の生きざまだったんだ。
俺は人知れずその場を立ち去り、所長室へ向かおうとした。
「どこかへ行くつもりかの?」
それを察したようにベラールは俺に話しかけた。
「世界を救いに行ってくる。ことが終わるまでここを出ずみんなでゆっくりしてくれ」
そう返した。
それを聞いたベラールは、健闘を祈る、と吹き出しそうになりながら言葉を重ねた。
自分でもクサイと思ってるわ、笑いそうになってんじゃねぇ。