2話 出オチ
「キビキビと働きやがれこの奴隷が!」
甲冑の人がピシン!と鞭をしならせながら俺に怒号を投げつけた。
俺は異世界に来て世界を救う使命を受けた。
しかし謎の甲冑に捕まり奴隷にされ、暖色を基調とした施設で、円柱に持ち手が付いた謎の物体を動かす仕事を課せられている。
俺と同じ物体を白い髪と髭を貯えた老人と、俺より年齢が三つほど下の少女の計3人で動かしていた。
「何でこんなことに……。っていうか何で俺たちだけこんなことさせられてるんだ」
現状の不満が口から転げ出た。それもそのはずだ。
周りを見渡すとソファに腰かけながら談笑している者、テーブルを囲み紅茶を嗜んでいる者、漫画のような書物を読みふける者、その他この施設を楽しむ者たちの声で和気あいあいとしている。
ここはまさに快適空間としか言いようがない施設だ。
だけど、俺たち3人はこの仕事をさせられている。
「兄さん、何か困ってるでありますか?質問ならあたしが聞くでありますよ」
同じ物体を動かしている少女が声をかけてくれた。
独り言のつもりだったので思わぬ反応に驚いた。
しかし、聞きたいことが山ほどあったので言葉に甘えることにした。
「ありがとう、俺は天知陸海というんだ。この楽園と疑う場所はなんだ?あとなぜ俺たちはこの謎の物体を動かし続けているんだ?」
「あたしは、エリーゼと申すであります。この施設は身寄りのない人を集め、王都シャングルラで流通される前の魔道具のテストを行い、異常がないか確かめる為の施設っす。あとこの謎の物体すけど……別にやらなくてもいいしやってもいい暇つぶしの道具であります」
すっごいちゃんとしてる施設だった。非人道的な実験とかしてる所かと思ったが。
現代でもこんな所で働きたかった。
しかし一つ疑問が新しく生まれた。
「ではなぜ、俺には強制的にやらせるように見張りが付いているのですか?」
俺をここに連れてきた甲冑がずーっと見張っているのだ、ここに来てから。
「あたしも疑問に思っました。あたしとそこのおじいさん、ベラールは食後の運動でよく動かしてましたが、見張りなんて今までいなかったのであります。というか、あの甲冑の人も外の見回りしているとき以外は一緒に動かして遊んでいたっす」
恰好とのギャップがすげぇな、いいお父さんかな?
俺には優しくないけど根は優しいことはわかった。だけど。
「なおさら理由が分かんないな」
「多分、職業が関係してると思うであります。甲冑は辺境の地で騎士をやっていたと聞きました。だから、騎士に対して良くない職業を持っているから当たりが強いのかもしれないっす。」
職業柄ゆえの厳しさ?
真面目な人なんだけど、自分の職業が分からないから理不尽にしか映らないな。
「ちなみに職業ってどうやって判別するの?」
「ステータスオープン!と唱えれば確認できるであります」
えらく簡単に確認できるんだな。
個人証明のこの手軽さ、前の世界でも真似してもらいたい。
余計なことを考えつつも呪文を唱える。その瞬間。
ビタン!
と、四角い透明なアクリル板に似た物が地面に叩きつけられた。
多分これが……。
「出たっすね、見せてもらうであります。職業は、最上無敵奴隷!?100年に一人しか現れないという最上級の職業ですと!アマチ、あんたは一体何者でありますか?」
最上級、響きはいい。普通の人なら鼻を高くしながら、俺なんかやっちゃいました?と、得意げになるだろう。
だが、聞き捨てならない言葉があった。
「えっと、すまん。奴隷ではなく護衛の間違いでは?」
恐る恐る質問した。どうか間違いであってくれ。
「いやいや、直接見てみるっす」
そこには先ほど読んでもらった言葉と、一言一句変わらない言葉が陳列していた。
なんで?どうして?why?イミフ。言葉がとめどなく出てくるが理解はできない。
ごえい、どれい、さいきょう、さいじょう、ふてき、むてき……まさか。
聞き間違い。そんな、これじゃあ、まさに。
出オチ。
膝から崩れ落ちた。
創作の話でしか見たことのない表現。
しかし、第二の人生が出オチになると同じ状況になるらしい。新発見!
甲冑の人がいの一番に駆け寄ってきた。
手を休めたから怒号を飛ばすつもりなのか。俺はお前のための奴隷じゃねーよ。
心の中で悪態をついた。
「大丈夫か!貧血か?これでも飲め!」
美味しそうなジュースみたいなのを持ってきて心配してくれた。
めちゃくちゃ真面目じゃん。悪態ついた自分が恥ずかしい。
落ち込んでいる時に優しくされると染みわたる。
つられて二人もやってきた。ああ、この優しさにずっと包まれていたい。
しかし、一年以内にこの世界を救わなきゃいけないから、それは無理だ。
だが今はこのままで……。
ちなみに能力は「やればできる!」とデカデカと書いてあった。