1話 話は最後まで聞きましょう!
「すいません、ここってどこでしょうか?」
気が付くと真っ白の世界に俺はいた。
目の前にこの世界より白い羽衣を身にまとい翼を携えた女性が立ちすくんでいたから
疑問を投げかけてみた。
恰好からしてここの管理者なのは間違いなさそうだし。
「ここは神や天使が住む天界です。天知陸海、アナタは死にました。子供をかばいトラックにひかれ。あ、私は女神ね。とりあえず「イザミ様」とでも呼びなさい」
俺は死んでいた。
バイトに行く途中に子供を助けたところまでは覚えていた。けどそこからの記憶はないし、この人が言う通りなのだと理解した。
「ええと、説明ありがとうございます。イザミ様、俺はここまで美しく高貴な存在を見たことはありません。さぞや崇高な目的の上で君臨しているに違いありません。貴方は何を司っている女神さまですか?」
世間話をしながら媚を売る。
ここでポイントを稼ぎ、後の展開を有利に進めるって寸法だ。
「早速だけど今後のアナタの処遇を発表するよ」
無視された。
多分この人は無視を司る神様。
「アナタは生前、信号無視、借りパク、ソースの二度付け、ピンポンダッシュ、さらにはプールでおもらしその他もろもろ……。極悪人ね、地獄でも生ぬるいわ。無限に続く虚無の世界に永久追放を100輪廻でもまだ足りないわよ」
悪事に対してめちゃくちゃ処遇が重いな。
実際に体験したことないけど、生まれたことを後悔しそうな感じがする。
「だけども子供を救ったこと。この子は数十年後、全世界及び銀河平和条約の引き金となる存在です。間接的に世界を救ったことにより罪が軽くなるわ」
生前の俺ナイスだ。
どうやら果てしない贖罪は回避できそう。
悪事に手を染めている悪人の皆、とりあえず子供を助けよう。
「今まで行ってきた善行を鑑みて、100輪廻から37輪廻まで減ります!おめでとう!」
と女神は心の底から祝うように言った
ダメだった。
宇宙まで救っても苦行は避けられないらしい。
というかもちろん悪いことだけど、そんな苦行させられるほどじゃないだろ。
「まぁでも私はそこまで悪魔ではないし、救済措置があるわよ。転生して活躍すれば無罪放免、天界での安寧を約束するわ。安心して何かしらの能力をあげるから、あんまり危険な目に合わないと思うわ。ちなみに断ったら虚無行きね」
「ぜひやらせてください!何をすればいいでしょうか?」
結局一択じゃねえか!と思いつつも即答した。
異世界転生というものに興味はあったし、チート能力?っていうの使い自由に生きていくのは生前から憧れていた。
スローライフもいいなぁ、学園に行ってハーレムとかも捨てがたい。
「いい返事!転生コースは二種類あって、パンの袋を止めるアレに転生しましたがパンの皆に好かれて困るけどゆっくり袋を束ねていきますコースと、超高難易度!一年後に世界を破滅させるつもりの邪王を倒さないといけませんコースよ」
「ロクなのがねぇじゃん……」
ロクなのがなくて素の言葉使いになってしまった。
「すんません、スローライフとかハーレムとかそういったほのぼのしたものは?」
「そういうのは倍率高くてね、前世徳を積まなかった人は下積みが無いとダメなのよね。だからこういったキツイ、苦しい、こんなはずじゃなかった……の3K転生しか残ってないのよ」
転生にもブラックの影がここまで来ていたとは。
「一応パンの袋を止めるアレだとスローライフもハーレムもあるけどどうする?」
「それパンに対してだけですよね?」
女神はその通りだと言わんばかりに静かにうなずいた
できる限り虚無行きは避けたいし、邪王倒すしかないか。
「じゃあ邪王コースにします」
「その言葉が聞きたかったわ!まぁきつくならないようにサポートはしていくつもりだから。どんな能力が欲しい?」
と言われても特に欲しいものはないなぁ。
最強の力は欲しいけど、うまく言葉にできないもどかしさ。
「なかなか決まらないようね、出来れば次がつかえているから早めに決断して欲しいの。コレ!っていうのが無いならオススメがあるけど」
イザミ様が助け舟を出してくれた。
女神様直々の提案だし、ぜひともとお願いした。
「前世は人を守って死んでしまったし、人を守る系がいいと思うわ」
なるほど、確かにそうだ。
なにせ世界どころか銀河を救う子供を助けたんだ、きっとその道があってるんだ。
「ありがとうございます、守るって言ったら護衛かなぁ。誰にも負けない不敵で最強なものがいいなぁ。王女様の護衛とかかっこいいな。でも一年以内に世界救わないといけないしそれはのんびりしすぎかなぁ、自分からアクション起こさないと」
俺は独り言気味に吟味し始めた。
「そう、いいじゃない。あ!もうそろそろ次の人の処遇を決めないといけないから、早速飛ばすわよ」
そう言うと、イザミ様はどこからか持ち出した杖を両手で掲げて呪文を唱え始めた。
俺の足元が七色に光りだし、体が徐々に透けていった。
「イザミ様!ちょっと待ってください!ちゃんとどんな感じかわかってますか?役職も独り言程度しか伝えてないし、どんな能力とか詳細言ってないですよ!ねぇ!大丈夫すか?」
目を見て訴えたが、イザミ様は目をそらし呪文を唱えている。
そうだ、この人、無視の神だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!絶対聞いてねぇぇぇええええ!」
天界の隅々まで響くほどの声を上げ、俺は消えた。
「ふぅ、ちょうど人手の足らない世界に誘導できたわ。やっぱり私はできる女神ね」
イザミは一息ついたのか、心の内を吐露した。
「あれ……ここは?」
天知が立ちすくんでいた場所に、今度は十代近くの少女がポツンと立っていた。
現状を把握できていないようで、辺り一面を見渡している。
その存在を認識すると同時にイザミは彼女に向けて言葉を発した。
「ここは神や天使が住む天界です。アナタは死にました。」
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「いてぇ!」
俺は消えた瞬間、ケツから地面にごあいさつしたようだ。
残念ながら、ケツにはそんなにクッション性は期待できないようだ。
「いてて、ここはどこだ?森?」
周りを見渡す。
空は快晴、周囲は森、どこに進めばいいのかわからない。
とりあえず人のいる場所に出ないと現状を理解することはできなさそうなので、人がいそうな場所に歩みを進めた。
「転生者特有の勘に全部任せるしかないな」
自分にそう言い聞かせた。今は相談する人いないし、そうするしか道はない。
「おーい!」
歩いていると後ろから声がした。
安堵の表情を浮かべながら振り返るとそこには、西洋風の甲冑を身にまとった人物がいた。
「探したぞ」
甲冑の人物はそう俺に近寄ってきた。
この世界の騎士団の人かな?ああ、よかった。向こうから探してくれるとはありがたい。
どうやら話は通じてるようだ。
安心して突っ立っていると、ガチャンと重苦しい音が聞こえた。
「え?」
その音の後を追ってみた。
右足首に鎖でつながれた鉄球を取り付けらえたようだ。
「逃げやがってこの野郎!持ち場に戻るからついてきやがれ!」
怒号を投げつけられたが、混乱していたため何も聞こえなかった。
次第に現状を理解し始め、大声で助けを叫んだ。
だけど誰も来るはずがありません。だってここは異世界なんだから。
甲冑の人に引っ張られ、俺は森の中に消えた。
これからよろしくお願いします。
疑問点、改善点などあるのでしたら、あらゆる方法で私に教えてください。
本日は区切りのいい4話まで投稿するつもりなので
お気に召したとしたら少々お待ちください。