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呪願鏡  作者: ゆかりゆか。
8/17

薄靄が白い帯を引きながら、

朝露に濡れた森の中をゆっくりと漂っている時間、

子供の背丈程もある長い草をかきわけながら

二頭の馬が歩いていた。


白馬と栗色の馬は仲良く並んで歩いていた。


それはもう陽気に足取りも軽く...

しかし、乗り手の方は、

どうにも仲が良ろしくないらしい。


「何処よここは!」


栗色の馬に乗っているカーラが、

怒鳴り声を上げた。


上げられたのは白馬に乗っている美しい青年だ。


雪のように白い肌、

ほんのりと桃色がかった頬。


太陽のように明るいブロンドは、

湿った空気のため、

何となくペッタリとした印象を受けるが、

木漏れ日の中で眩しく輝いている。


「何処と言われても、

 答えはこいつに聞いて下さい」


真珠の様に白い歯を光らせて、

白馬の持ち主...

王子は天使のような笑みを浮べた。



話は数時間前にさかのぼる...。





昨夜酔いつぶれて倒れた王子の部屋に、

カーラは朝早くから押しかけた。


「王子様お願い!

 この剣を私に貸して下さい。

 私こういうものです」


カーラは城が発行している身分証明書を、

寝呆け眼の王子の目の前に突き出した。


「そうは言われても...

 こう見えても一応、国の国宝なんですよ。

 むやみに人に貸せるものでは...」


「そこを何とか!

 どうしてもこの剣を作った人に、

 会って聞きたい事があるのよ」


渋る王子に詰め寄り、

カーラは年がいもなく瞳を潤ませた。


「理由を聞かせてもらえれば、

 考えなくもありませんが」


王子は眉を寄せてカーラを見る。


カーラは口篭もり、

廊下から心配そうに見守っている

主人と女将の顔を見た。


二人は手を横に振って、

声を出さずにダメダメとオフレコ状態だ。


昨夜の主人の話によると、

ドワーフの森には結界が張ってあり、

人間は入れないと言うのだ。


その中に入るためには、

ドワーフの名入りの道具が必要らしい。


主人はドワーフと取引きをしてはいたが、

そんな御大層な物など持っておらず、

取引話はいつも

ドワーフの方から持ちかけて来るのだと言った。


そんな、いつ来るか分からない取引の日など

待ってる時間はない。


となると王子の持つ剣しかないのだ。


しかし理由を話すとなると、

厩の夫婦がドワーフ達と

取引していたことが分かってしまう。


別にアルフ国の王子ではないのだから、

話したって問題ないのではとカーラには思えたが、

昨夜

『何処でどう噂になるか知れないので、

 それはよしてくれ!』と

厩夫婦の懇願にあったのだから仕方ない。


カーラは考え込むと、


「その剣に彫ってある文字、

 北の山にいたマーク族が使っていた文字なの。

 私その研究をしていて...

 その剣に刻まれている名前と同じ人が

 森の中に住んでいるんだけど、

 その人に会うには、

 どうしてもその剣が必要らしいの。

 ね、お願い」


ドワーフという言葉を出さずに、

お願いは出来たが、

王子は眉を寄せている。


「再び悪魔が目覚める時、

 光の森中にて墨色の剣は輝きを取り戻し、

 魔を打ち砕かん」


王子は剣を振りかざして呟いた。


「な、なによ、それ?」


カーラは考え深げに、

剣を見詰めている王子に聞いた。


「私の国に代々伝わる言葉です。

 この剣は一〇〇年前、

 悪魔を滅ぼすため

 妖精に作ってもらった剣だと言われています」


王子はカーラを見て言う。


悪魔を滅ぼすための剣。


それが隣国の城に一〇〇年前からある。


マーク族が滅んだのは一〇〇年前だ。

そういえば、その時代アルフ国は

隣国ゴルゴ国と折り合いが悪く、

いつ戦争が起こってもおかしくない状態だった。


マーク族がいた山のすぐ隣は、

ゴルゴ国の領土だ。


一説では、マーク族はゴルゴ国の襲撃を受けて

滅ぼされたのだとも言われていた。


マーク族の村は

アレフ国の統治村であったにもかかわらず、

城から遠かったせいか謎の多い所だったらしい。


ただ村にはとても美しい伯爵婦人がいて、

そこで一番の実力者だったという。


「悪魔って何?」


カーラは探るように王子の顔を覗き込んだ。


「さあ? 私にも判りませんよ」


王子は何とも情けない返答をした。


「もし私の教え子が

 その悪魔に狙われているのだと言ったら、

 その剣を貸してもらえるかしら?」


カーラは不本意ながらオカルト的な表現で

王子に聞いたが、

その言葉は予想外に彼の心を動かしたらしい。


「でも貸すことは出来ないので

 私も同行しましょう」


王子は剣を持ち、立ち上がった。


王子の笑顔を見て、

嘘をついたカーラの良心は痛んだが

『そんなことは後でどうとでも

 話を繋げればいいわ』と考えていた。


しかし、そんな心配などしなくても、

カーラの予感は的中していたのだ。


「方向音痴なのは、

 馬だけのせいじゃないと思うんだけど?」


カーラは馬上で大きく息をついた。


森の奥へ入れば入るほど霧は濃度をまし、

視界を悪くしていく。


「いくら朝とはいえ、ひどすぎない?」


カーラは、隣を並んで歩く王子に声をかけた。


「そうですね...」


王子は眉を寄せて辺りを見回した。


もう何処に何があるのか

全く分からない状態になっている。


森は白泥のベールに包まれて

足元さえも見えないのだ。


「道、間違えたのよきっと」


カーラは後方を振り返ったが、

もう自分が何処から来たのかさえ

判らなくなっていた。


森の中にいるのではなく、

まるで、ただっぴろい

雪原に立っているような錯覚にとらわれた。


「そうでもないみたいですよ」


カーラが不安そうに

キョロキョロと辺りを見回していると、

王子が前方を指差した。


先程までは何も見えなかった霧の影に、

赤いトンガリ屋根が浮んでいる。


そう、カーラには浮んで見えたのだ。


雲の上に三角錐の積み木が置いてあるように。


「ちょっと、変じゃない?」


カーラは気味悪そうにつぶやき、

王子の方に馬を寄せ悲鳴をあげた。


「ちょちょちょちょ、ちょっと、王子様の剣、

 光ってるわよ!」


王子の腰に下げられていた剣は、

先程見た時のような黒い色ではなく、

まるで鏡のような表面に変わっていたのだ。


「どうしたことだ?」


王子が剣を手に取り、振り上げたとき、

辺りは激しい光に包まれた。


真っ白な光に両目を覆われ、

再び目を開いたカーラは声をあげた。


辺りを包んでいた霧は跡形もなく消え去り、

周りは美しい緑に包まれた森にかわっていた。


そして、その木々の間に

真っ赤な屋根の小さな家が建っている。


「どうやら抜けたらしいですね」


王子は剣を腰に戻すと、

家の方に向かって馬

を進めた。


剣は墨色に戻っている。


「抜けたって、何を?」


カーラは慌てて馬を走らせる。


「何をってドワーフの森でしょ?」


王子はニッコリ笑ってカーラを見た。


「あ、あなた知っていたの?」


カーラは目を丸くしたが

王子は顔色一つかえずに、


「この剣、妖精が作ったっていったでしょ。

 妖精って、ドワーフだったらしいんですよ。

 森の事は本を読んでいたから知っていたことだし、

 まさかとは思いましたけどね」


馬の腹を蹴って、

ゆっくり家に向かって歩きだす。




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