脱出
「エレン、まだー?」
大きなバスケットを抱えた白雪が、
中庭で大きな声を上げた。
「はいはい、今行きますよ」
エレンは持ち物を確認すると、
待ち切れずに中庭に飛び出した白雪の後を追った。
今日は森の中にある湖に
ピクニックに行く日だった。
前々から計画立てていた事だが、
当初の予定より人数がだいぶ減ってしまった。
本当は王妃とカーラも同行する予定だったのだ。
しかしカーラは実家に帰り
王妃は朝から気分がすぐれないといって休んでいる。
「エレンと二人だけじゃ、
あんまり寂しすぎるので違う日にしよう!」
と白雪が言ったのだか、
どう言う訳かエレンが行きたい行きたいと
折れなかったのである。
二人だけでは心配だというので、
兵士を一人御供に連れてのピクニックになった。
「レッツゴー!」
白雪はバスケットを振り上げ叫ぶと、
森に向かって駆け出した。
兵士が慌てて後を追う。
エレンは王妃の部屋を見上げた。
外はこんなに良い天気なのに、
カーテンがピッタリと閉まっている。
「コリーシャ...」
エレンはエプロンのポケットに入れた、
王妃からの手紙を握り締め呟いた。
エレンへ
この手紙に気付いてくれてありがとう。
今、大変な事が起こりかけているの。
信じてもらえないかもしれないけれど
私の中に悪魔がいるのよ。
あの鏡の中に封じられていた悪魔が
私に取り憑いてしまったの。
昼間は鏡の中にいて、
夜になると私の体に入り王に魔法をかけ、
白雪の血を吸うの。
悪魔は白雪の体が欲しいらしいのよ。
なんとか白雪を助けたいのだけれど、
悪魔は私の考えていることが
何でも分かってしまうし、
私が白雪を避けても
悪魔は白雪の行動をいつでも監視しているの。
悪魔は鏡の裏側、
つまり物を映すことが出来る物の裏側に、
いつでもいるのよ。
でも明け方から昼にかけて悪魔は眠るみたいなの。
一番日の光が強い時間だけに、
起きているのが辛いらしいわ。
その時間を見計らって、
白雪を連れ出してちょうだい。
そしてカーラ先生にこの事を報告して、
助けてほしいの。
先生はこの悪魔の一族の研究をしていたらしいし、
何か良い方法を知っているかもしれないわ。
それから、あの鏡を外して
壊そうなんて考えないで。
あの鏡に手を触れたら、何が起こるか
分かったものではないわ。
お願い。白雪を守ってあげて。
コリーシャ
エレンは王妃の窓に向かい十字を切ると、
白雪の後を追って駆け出した。