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呪願鏡  作者: ゆかりゆか。
2/17

「王妃様、見付けましたよ、ついに!」


白雪が十五才の誕生日を迎える年、

エレンが息咳切らしながら

王妃の部屋に飛び込んできた。


王妃は白雪と一緒に、

バルコニーでお茶を飲んでいた。



暦の上ではもう春だが朝晩は肌寒い。


春はもう少し先だろう。と思う反面、

昼間はだいぶ暖かかった。


今日は天気も良いので

「バルコニーでお茶を」となったのだ。


白いテーブルにはティーセットが一式と

カップが三つ、

焼きたてのスコーンが置いてある。


スコーンはあらかた食べられた後であったが、

エレンが食するくらいの数は残っていた。


月日がたっても王妃にとって

エレンが特別な友人であるらしい事は

容易に想像できた。


エレンはバルコニーに出ると

王妃と白雪の前で

『ついに見付けた物』を

テーブルの上に置いて見せた。


それは薄汚れた一冊の本だった。



かなりの年代物らしく、

革の表紙は擦り切れていたし

紙は黄色く変色している。


しかしボロボロな外見にもかかわらず、

シッカリと一枚一枚ページはめくれたし、

インクは気味悪いほど真っ黒であった。


その本は、よほど腕の良い紙職人とインク職人、

そして製本人に恵まれたらしい。


「なあに、この汚い本?」


ブルーベリージャムをたっぷりぬった

スコーンを頬張りながら、

白雪はエレンを見た。


エレンはスカートのポケットから

若草色のハンカチを取り出すと、


「もう姫様ったら、

 お顔にジャムがいっぱい付いていますよ。

 もしも、これがストロベリージャムだったら

 私、卒倒してしまうところでした!」


白雪の顔をごしごし擦り泣きそうな声で言う。


「いいのよ。

 食べ終ったら拭くつもりだったんだから。

 ね、お母様」


白雪は膨れっ面でエレンを見上げると、

向かい側の椅子に着いている王妃に同意を求めた。


王妃は答えずに口元に手をあてて、

くすくす笑っている。


「もう、何よ!」


 白雪がますます頬を膨らませると、


「そんなことより、これですよ!

 見てください!」


エレンは重そうな本のページを慎重にめくり、

王妃と白雪の顔を見た。


「これ、あの鏡に書かれているのと同じ文字?」


白雪は紅茶を一気に飲み干すと

身を乗り出した。


「地下の書庫で見付けたのです。

 それにしても、この城の古本量は

 並じゃありませんね。

 十五年目にして、

 やっと見付けることが出来たなんて、

 これはもう奇跡としか言いようがありません!」


エレンは陶酔しきった目で

春の青空を見詰め呟いた。


その隙に白雪はその本を手に取ると、

初めの方のページを読み始めた。


「今から約百年ほど前、

 北の山の麓にかわった文化を持つ一族がいた。

 そのものたちは皆

 天使の様に美しい容姿をもち、

 とても長寿だった。

 しかし、ある春の年、

 天災にあい山から雪崩れ落ちてきた

 土砂に埋もれ滅んだ...ですって」


白雪は著者の前書きを読むと

エレンの顔を見た。


「そんな話、聞いたことありませんよ」


エレンは首を振る。


白雪は再び本に目を移した。


「彼らは独自の文字を持っており、

 その文字はそれぞれが独立した力を持っていた。

 組合せによっては、

 不思議な力を起こす呪文になる

 魔文字と言ってもよい!」


白雪は嬉々とした声で叫ぶと、

バネ仕掛けの人形のように立ち上がった。


「すごい! 呪文ですって!!」


白雪は目を輝かせた。


読書家の白雪は、

どうでもいい知識だけは、たくさん持っていた。


その興味を勉学の方に向けてくれればよいのにと、

王妃はいつも考えていたが、

そんなこと白雪は露ほども知らぬ事実だ。


「すごーい、すごーい!

 ねえ、あの鏡に書いてある文字、

 読んでみましょうよ!」


言うなり白雪は部屋に飛び込んだ。


「大丈夫かしら?」


王妃は心配顔でエレンを見た。


エレンはニッコリ微笑むと、


「大丈夫ですよ。

 魔文字は魔力を持つ者のが

 読まなくては呪文にならないんですよ」


王妃の手を取り部屋に導いた。


十五年間も書庫に通い詰めたエレンは、

すっかり雑学知識人にかわっていたのだった。


白雪は鏡の前でペンとノートを持ち、

丁寧にその文字を書き取っていった。


なんだか縦線がズラズラと

意味なく並んでいるような形をしているが、

よく見ると字に見えなくもない。


すべての文字を書き写した白雪は

ノートを満足気に見詰めると、


「うふふふふー!」


気味の悪い声で笑った。


「何が起こるのかしら、

 キレイな宝石が山のように出るの?

 それとも私の美しさが倍増するとかー!?」


白雪はスキップでも踏みそうな勢いで

部屋の中を跳ね回ったが、

エレンの言葉で、はたと動きを止めた。


「なんて読むのか分かりますか?」


氷のように冷たい言葉が

白雪の浮かれ心に突き刺さる。


「あああ!

 そんな発音記号までは書いていない!」


白雪はその場に膝をつくと

大袈裟に声を上げて身をふせた。


「ほらほら、

 そんなところで一人芝居していないで。

 お勉強の時間ですよ」


エレンは白雪の手を取り立ち上がらせると、

王妃の部屋から追いたてた。


「やだやだ、勉強したくないー!」


白雪は駄々をこねたが、王妃に睨まれると

渋々部屋から出て行った。



「ほんとにあの子ときたら、

 どうしてあんなふうに育ってしまったのかしら」


王妃は眉を寄せてボソリと呟く。


「そうですか?

 私は姫様の性格好きですよ。

 鼻持ちならない美人の我侭娘に育つより、

 よっぽど人間らしいと思います。

 それにコリーシャ様の娘ですからね...」


エレンははっとして

言い掛けた言葉を飲み込むと、


「すみません王妃様、とんだご無礼を!」


 顔を真っ赤にしてペコペコ頭を下げる。


「エレンに名前で呼ばれるなんて

 何年ぶりかしらね」


王妃は静かに笑い、

懐かしげにエレンを見詰めた。


「二人でいる時は

 名前で呼んでくれていいのよ?」


王妃は優しく言ったが、

エレンはブンブンと首を振り、


「いいえ、けじめはシッカリつけなくては

 いけません王妃様!」


厳しく自分自身に言聞かせたようだ。





「...せっかくおもしろい事に

 なりそうだったのに!」


自国の歴史書を歌うように読み上げていた

家庭教師の言葉など耳に入らないのか、

白雪はボソリと呟いていた。


パーン!


その小さな呟きを聞き逃さなかった

女教師カーラは、

恐れ多くも姫君の頭に

平手を振るい落とした。



「いたーい!」



白雪は恨みがましくカーラを見上げたが、

カーラはキレイな金髪をかき上げ、


「またよそ事を考えていましたね!」


厳しい口調で白雪を睨み付ける。



カーラは今から三年ほど前、

白雪の家庭教師兼教育係として雇われた

修道院出のエリート貴族である。


そのわりには、やはり実家より修道

院生活が長かったせいもあるのか、

どこか他の貴族にはない大らかさがあった。


おまけに修道院では何やら

怪しげな歴史の謎を解いていたらしいのだ。


しかし、とびきりの美人であり

身のこなしも気品を感じさせる態度も

上級者であった。


「歴史なんか、つまんない!」


白雪は手にした本を投げ出すと

窓の外に目を向けた。


室内で勉強するなんて

もったいないほどの御天気である。


「駄目ですよ!」


まだ何も言わぬ白雪に

カーラはピシャリと言いきると、

部屋中の窓のカーテンを、

ご丁寧にもすべて閉めきってしまったのだ。


几帳面な正確らしい。


「えーん! 意地悪ー!!」


白雪はジタバタ手足を振り回して訴えたが、

その悲痛な叫びは届かず

カーラは再び本を読み始めた。


何事もなかったように、たんたんと。


「今から百年ほど昔...」


「百年!」


話の途中で白雪は声を上げた。


「また何事ですか!」


カーラは柳眉を寄せたが、


「先生、北の山の麓に住んでいたって言う

 一族の話を知っていますか?」


白雪は歴史の授業とは

全然関係のない話を持ち出した。


どうしても、

さっきの事が頭から離れないらしい。


「北の山の麓って...

 変な語学文化を持っていた

 マーク族の事ですか?」


カーラは何か思い出すように首を傾げると、

瞳を爛々と輝かせている白雪に言った。


いまだかつて白雪姫が、

ここまで遊びごと以外に

関心を持った事があっただろうか?


カーラは意外そうに白雪を見て思ったが、

その表情は、まさに水をえた魚のごとく、

生き生きとしたものだったのだ。


「先生、知っているんですか!」


白雪は手を叩いて悲鳴じみた声を上げると、


「すぐ戻りまーす!」


カーラの返事も聞かずに物凄い勢いで

部屋から飛び出して行ってしまった。


一人残されたカーラは

茫然と立ちすくんでいたが、



「まさか、はったりでは! やられたー!!」



白雪に嵌められたことに気付いたのか、

レースのハンカチを噛み締め、

鬼女さながらの形相で叫んだ。


今すぐ追い掛け、

とっつかまえてきたい心境であったが、

逃げ出した白雪を探すのは容易ではない。


そう今に始まった事ではなかったのだ。


「まったく今回は意外な逃げ口上を

 考えたものね。

 まさか私が修道院で調べていた

 一族の話を持ち出すとは...」


カーラは倒れるように椅子に座ると、


「私、そのうちクビだわ...」


ホーッと溜め息を着き、

ふと、この城に初めて来た時の事を思い出した。



「今日からお前の面倒を見てくれる先生だよ」


王様の言葉に、

白雪は大きな瞳をさらに見開き、

この世のものとは思えないほどの

愛らしい笑みを浮べて、


「はじめまして。

 よろしくお願いしますカーラ先生」


 と、とてもお上品に言ったのだ。


白雪は今まで付き合ってきた

我侭娘達とは程遠い性格であったが、

今日というこの日まで

違う意味でカーラを困らせてきたのだ。



「ああ、どこでどう間違ったのやら...」


カーラは、あの頃会った素直な白雪に

逢いたくてたまらない心境だった。


しかし、かなわぬ願いである。


これは本当にクビを覚悟しなければならない

時期がきたのかも知れない...。


「先生ー!」


潔く腹をくくったカーラの耳に

信じられない声が届いた。


「え!?」


カーラは扉を蹴破るようにして入ってきた

白雪を見詰め、


「何か忘れ物?」


何とも間抜けなセリフを口にした。


「なにを言っているの?

 さっきの続き。これよこれ!」


白雪はエレンが持ってきた

問題の本をテーブルに置くと、

先程自分が書き写したノートを

開いて見せた。


「ホントに先生が知っている

 一族の事ですか?」


白雪は好奇心をむき出しにして

カーラに詰め寄る。


「な、なぜこんな本が、ここに?」


カーラは著者を確認した。


ベラ・バトリー。


聞いたことのない著者名であったが、

どこか知った響きを持った名前ではあった。


どこでだろう...。


頭をひねったカーラに、


「変な文化を持った一族だったんでしょ?」


白雪が質問をする。


その白雪の言葉の為カーラは、

今考えかけていた事をキレイさっぱり

頭の中から除外してしまったようだ。


思い出せない名前の響きよりも、

今、白雪姫がこんなに何かを

一生懸命知ろうとしている!


信じられないが嬉しい事実に

半ばカーラは陶酔していた。


カーラは本をめくると、

自分が知っている一族の話を始めた。


「このマーク族というのは、

 不老不死の魔法を持った

 一族だと言われていたの。

 でも滅んでしまったわ」


「土砂に埋もれたんでしょ?」


白雪は、先程ちらりと読んだ所を思い出し、

カーラを見詰める。


「そう。でも最近その土砂の中から、

 遺留品や何かが発掘されているの。

 かくいう私も、

 昔はその発掘隊の手伝いをしていたのよ、

 修道院にいた時にね。

 修道院は北の山に近い所に建っているから」


カーラはなつかしそうに目を細めた。


そういえば、ここ何年か発掘所に行っていないし、

実家にも帰っていないな。


そんな思いが、フッと脳裏を過った。


「ふーん。でも不死だったんでしょ?

 土砂に埋もれたって死なないんじゃないの?」


白雪はあまりにも単純な疑問を口にしたが、

カーラは一瞬の躊躇もなく、


「嘘だったからでしょ」


キッパリ言い切った。


「...夢のないこと言わないでよ」


白雪は眉間に皺を寄せると本を見詰めて呟く。


「だいたい不老不死だなんて、

 そんな力を持っているのは

 悪魔か吸血鬼くらいですよ!」


カーラは嫌悪感をむき出しにして言う。


カーラはオカルトまがいの

怪しげな話は信用しない性格なのだ。


かわって白雪はと言うと、

読書家なのは先にのべた通りだが、

その種類が少し問題だ。


ホラーや超状現象などといった話ばかり

好んで読むのである。


カーラにとっては、

その事も悩みの種の一つであった。


女の子が、しかも姫という立場の...

そんな怪しげな話に興味を持つなんて!


しかし白雪にその思いが届くはずもなく、

彼女は本を持って立ち上がった。


「先生これ読めるんでしょ?」


「ええ。昔取った杵柄ですわ」


カーラの答えに白雪はにんまりすると、


「じゃあ行きましょう」


本とノートを小脇に抱え、

カーラに背を向けた。


「行くって何処へ?

 それより白雪姫、そんなもの、

 いったい何処から持ってきたんですか?」


今にも駆け出しそうな勢いの白雪の背に

カーラは声を掛けた。


白雪はクルリと振り返ると、


「お母様の所よ」


ニッコリ笑って答える。


「お、母様って...王妃様!?」


カーラは目を丸くして白雪を見詰めた。


「私のお母様は王妃に決まっているでしょ?」


もっともな事を白雪は速答すると、


「早く早く!」


開いた口がふさがらない状態の

カーラの腕を掴み、強引に引っ張り始めた。


「ちょっと白雪姫!」


カーラは躊躇した。

何の用もなく王妃の部屋に行くことは

禁止されているのだ。


またしてもカーラは、

自分のクビを心配する羽目になったのだ...。




「すいません王妃様!」


王妃の部屋に入るなりカーラは頭を下げた。


「いいえ。勉強の時間だと言うのに、

 また白雪が無茶を言ったようで。

 大変でしょう我侭な娘で」


王妃は優しく微笑むとカーラの手を取った。


「いいえ、とんでもありません。

 ただもう少し集中力があればよいのですけれど」


カーラは首を横に振った後、

鏡の前に駆け寄った白雪に目を向けた。


「あれが白雪姫の言っていた物ですか?」


カーラは視線を

白雪の前にある鏡に移して聞いた。


「先生あの文字が読めるんですって?」


王妃の脇に立っていたエレンが

祈るように指を組んでカーラの顔を覗き込む。


「ええ」


カーラは小さく頷くと白雪の隣に並んだ。


「さすが修道院出のエリートさんですね」


エレンは感心して呟くと、


「さ、王妃様も」


王妃の手を引いて二人の所まで歩いた。


「ね、先生どう?」


白雪は本を抱えていた手に力を入れた。


その瞳は少し潤んでいる。


ここで「やっぱり読めないわ」

なんて言ったら

白雪姫はどんな顔をするだろう。


などとカーラは意地の悪い事を考えたが

王妃様のいる前で、

そんなことは出来ない。


それは断念した。


「大丈夫です。

 かなり古い物らしいですけど、

 文字はしっかり読めますよ」

 

カーラは鏡の下方に刻まれた文字を

指でなぞった。


そこにはこう書かれていた。


「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番...」


言い掛けてカーラは言葉を切った。


「世界で一番なに?」


白雪が先を促す。


カーラは白雪に視線を移すと、


「それだけです」


あっさりきっぱり言ってのけた。


「えー?」


拍子抜けしたように白雪は声を上げた。


もっとすごい事が書いてあるだろうと

期待していたのに、

なんともあっけない幕切れだ。


「何か意味でもあるんですか?」


エレンが眉をしかめてカーラを見る。


「さあ?

 なんだか途中まで彫って、

 止めたって感じですね。

 だって見てください」


カーラは文字の語尾を指差し、


「ここに何か彫りかけた後があるでしょう?」


皆が見詰めた視線の先には、

たしかに点と線の様な何かが、

中途半端に彫られた後がついていた。


「なーんだ。じゃあ、呪文にはならないのか」


白雪は残念そうに息を着くと、

つまらなそうに鏡を撫でた。


「せっかく地下で見付けた本も、

 けっきょく無駄だったって訳ですね」


エレンの落胆ぶりも、

気の毒である。


王妃は白雪とエレンを見ると、


「そんなに気を落とさなくても。

 楽しかったじゃない。

 一時の事だったけど。

 ねえ、先生」


二人を慰めるように言った。


「さあ白雪姫。お勉強を再開しましょう」


カーラは所在なさげに頷くと、

溜め息をつき続ける白雪の手を取り、

その場を立ち去ろうとした。


王妃の部屋に無断で入っているところを

他の者に見られたら大変である。


一刻も早くこの場を立ち去らねばならない。


「それでは失礼します」


白雪の手を引いて

カーラが扉の把手に手を掛けた時、



どんどんどん!



扉が叩かれた。


カーラはドキリとした。


これはもうクビだ、

クビしかなーい!

泣きそうな顔で頭を抱える。


そんなカーラの考えなど、

部屋の中にいる他の達には、

ちっとも分かっていないようだ。


「どうしたんですか?」


事も無げにエレンが扉を開く。


ああ、もうおしまいだー!

カーラは目の前に、真っ黒な緞帳が

落ちてきたのを見た気がした。


そして、その緞帳の外側を

一人の人影が走り通っていく。


「失礼ですけど、

ここにカーラ先生が来ていませんか?」


その声に、カーラの人生の緞帳が

するすると上がった。


この声は調理場のアーシャ!

この子なら今のこの状況を

黙っていてくれるに違いない!


「ああ、カーラ先生!」


アーシャは戸口の影で

蒼白な顔をしているカーラを見付け駆け寄った。


「今連絡が入ったんですが、

マーク族の遺留品発掘隊の人たちが、

土砂にあって怪我をしたらしいんです。

たいした被害はなかったようですが

指揮官が足に大怪我をして、

もう発掘の指揮が取れないそうなんです。

それでしばらく代わりに

カーラ先生に来てほしいって」


アーシャは一気にまくしたてると、

不安そうにカーラを見詰めた。


彼女はカーラと同じ国の出身者であり、

そして、発掘隊の指揮官をしている男、

バーミリオンの孫娘であった。


「発掘ってマーク族の?」


白雪は、さっきとは違う意味で

蒼白な顔をしているカーラを見上げた。


「行ってあげたらどう?」


 王妃が頬に手をあてて呟いた。


「え?」


 カーラが意外そうな声を上げると、


「ずっと、という訳にはいかないでしょうけど、

その指揮官さんの足が良くなるまででも。

王には私から話しておきますから」


王妃はそういうと部屋から出ていった。


「あ、そうそう」


出て行きぎわ王妃は声を上げると

白雪を見詰め、


「あまり先生を脅すような事を

 言うんじゃありませんよ」


叱り付けるようにいい、

クスリと笑ってカーラを見た。


カーラが訳も判らず黙っていると、


「姫様に、あることないこと

 吹き込まれているんでしょうけど、

 特別王様の断りがなく王妃様の部屋に入っても、

 お咎めは受けないんですよ」


エレンが耳打ちした。


「白雪姫〜!」


カーラは声を震わせて白雪に視線を走らせた。


が、逃げ足は速いもの。


とっくにその場から姿をくらましていた


「大変ですね、先生も」


エレンは気の毒そうに呟くと、


「荷造りのお手伝いをしますわ。

 さ、リーシャも」


にこっと笑って、カーラの前を歩きだした。


「リーシャ、知ってた?」


「はい?」


ボソリと呟くカーラにリーシャが聞き返す。


「私用で王妃様の部屋に入ると、

 クビになるんですって」


カーラは拳を握り締めて呟いた。


「冗談でしょ?」


リーシャは可笑しそうに答えると、

エレンの後に続いた。


「私だけが白雪姫の作り話に

 騙されていたのね〜!」


今更ながらカーラは自分の素直さを呪っていた。



















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