表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪願鏡  作者: ゆかりゆか。
16/17

最後…

「きゃあああ。もう嫌ーーーー!!」


王妃の部屋を出てから今まで、

ひたすら逃げ回っていたカーラとエレンは、

またしても行き止まりのピンチに陥っていた。


「こんなことなら、

 王妃様の部屋に残ってたほうが

 良かったんじゃないんですか」


エレンが責めるように

カーラの袖を引っ張ったが、


「冗談じゃないわよ。

 あんな地獄絵みたいな部屋の中に、

 一分一秒でもいられるもんですか!」


カーラは先程の王妃の部屋の状況を思い出し、

吐き気を催した。


王妃の部屋の中は、まさに地獄だった。


そこには魑魅魍魎が蠢き、

城内の使用人たちを

頭からバリバリと喰っている姿があった。


そして足に絡まり着くように流れてきた煙は

大蛇となり二人に襲いかかったのだ。


「でもここで蛇に喰われるなら同じですー!」


エレンは悲鳴を上げて、

道中手に入れた掃除モップを振り回した。


「そんなことないわ、

 これは幻覚なのよ。

 白雪姫と兵士が言ってたじゃない。

 この幻覚は払えるかもしれないけど、

 あの部屋に長くいたら狂ってるわよ!

 間違いなく!!」


カーラはホウキを振り上げ大蛇に叩きつけた。


跳ね返される衝撃は、

とても幻覚とは思えない。


「やっぱり本物かもしれなーい!」


カーラはホウキを抱きしめ

観念したように叫んだ。


「もう駄目、私達ここで死ぬんだわ...」


エレンは血走った目で大蛇を睨み上げ呟く。


「不吉なこと言わないでよ!」


カーラはエレンを睨んだが、


「先生、ジ・エンドよ」


エレンは、ぎゅっと両目を閉じた。


大蛇が大口を開いて飛び掛かってきたのだ。


「きゃあああああ......あ?」


迫り来る大蛇の口内目掛けて

叫んだカーラだったが、

その悲鳴は突如、

拍子抜けしたように間の抜けた声に変わった。


その声にエレンが顔を上げる。


大蛇の姿は忽然と消えていたのだ。


「ひょっとして王子様が、

 悪魔をやっつけたのかしら?」


エレンは息をついて床に座り込み呟く。


しかし、カーラは返事をしない。


「先生?」


エレンはカーラの視線の先に目を向け、

ぎょっとした。


真っ黒い窓ガラスの中に、

血のように真っ赤な目をした

美しい女が映っていたのだ。


「だ、誰ですか、あの女」


エレンは呟くように言ったが、

カーラの答えを待つまでもなく、

その正体えは想像できていた。



悪魔だ...。



「ひいいー!」


エレンは悲鳴を上げると

カーラの後に廻り込んだ。


どうしてこんな所に悪魔がいるんだ?

王子はどうしたんだ?


とでも言いたげな表情で

エレンはカーラを見上げたが、

カーラの方もエレンと同じ表情をしている。


「...なによ...」


カーラは思い切り凄んでみせたが、

足はガクガク揺れている。


悪魔は王妃の部屋に向けていた神経を

カーラに移すと、

にやりと気味の悪い笑みを浮べて

窓から出てきた。


しかし王妃の体をなくした悪魔は

実体がないので、

カーラの目の前に迫ってきた体は

水のように透明だった。


たった今出てきたばかりの窓にある枠が、

悪魔の体を通して透けて見える。


「うひゃあ!」


カーラの後ろでエレンが身を固くしたが、

悪魔の感心はカーラの方にあるようだ。


蛇のように身をくねらせて彼女の前に立つ。


カーラは悪魔を睨み付けると、

恐怖心を打ち払うように頭を振った。


しかし、そんなことは

気休めにしかならない。


王子はどうしたんだろう?


悪魔が王妃の姿をしていないのだから、

作戦は上手くいったのだろうか?


それなら、今目の前にいる

こいつは何なんだろう……。


カーラはチラリと

廊下の先に視線を走らせたが、

寝静まっている城内は静かなものだ。


『お前さえこの城に来なければ、

 計画はうまくいったはずなのに...

 何年もかけて綿密に企んできた計画を...』


悪魔は忌ま忌ましげに言ったが

言葉の意味とは裏腹に、

口調は変に嬉々としている。


まさか失敗ったのでは!?


カーラは不安になり、

もう一度廊下の先に視線を移した。


相変わらず静寂が続いている。


『ほほほ。

 誰を待っているんだい?

 あの王子か』


悪魔の言葉にカーラはギョッとした。


「失敗したんだわ!」


カーラの後でエレンが悲鳴のような声を上げる。


『白雪は、もういい。

 とりあえずの体さえあればね。

 お前も美しい...』


悪魔は牙を向いてカーラに飛び掛かったが、

寸でのところで手が届かない。


『何だ?』


悪魔は振り返り声を上げた。


窓ガラスの表面から細い光り状の紐が伸び出て、

蜘蛛の糸のように幾重にも連なりながら

悪魔の体をとらえていたのだ。


『何だ、この糸は!?』


答えは待つまでもなかった。


蜘蛛の糸は見る間に悪魔を縛り上げると、

その体を窓の方に向けて引きずりだした。


『や、やめろ!』


悪魔は身悶えたが蜘蛛の糸の呪縛は解けない。


悪魔の体が窓ガラスの表面と重なった時、


「今よ、王子様!」


白雪の叫びに似た声が

窓ガラスを通して響いた。


銀色の光が閃き、

野外の闇を映していたガラスは

明るい色に変わった。


その中には

カーラから受け取った鏡を構えた白雪と、

剣を振り上げている王子の姿が映っている。


その姿を見るより早く、

澄んだ音を立ててガラスが割れた。



『ぎゃああああーーー!』



耳をつんざくような悪魔の声は、

城中に響き渡った。


割れたガラスの破片は床に落ちることなく、

すべて悪魔の体に刺さった。


否、ガラスは割れてなどいなかった。


ガラスのように見えた光が鋭い刃となって、

悪魔に突き刺さったのだ。


その光を放ったのは王子の剣である。


悪魔殺しの剣。


それは使命をまっとうすると、

またもとのように漆黒の剣に姿を変えた。


『おのれ、お前たち覚えていろ、私は死なん。

 何度でも蘇り新しい体を手に入れてやる。

 私は不死身だ!』


悪魔は陽炎のように希薄になった姿で

呪いの言葉を吐くと、

悲鳴を笑い声に変えた。


「何言ってるの。

 呪願鏡は割れちゃったのよ?」


呆れたように白雪が言ったが、

悪魔は笑い声をやめない。


『そんなもの、また作ればいいさ。

 教えてやろう。

 マーク村で土砂崩れがあった時、

 呪願鏡は割れた。

 しかし、私が長い時間をかけて修復したのさ。

 私の魂が生き続けている限り、

 呪願鏡も壊れることがないのさ。

 しかも私は不老不死。

 お前等、末代までも呪ってやるっ!』


悪魔の瞳がルビー色に輝いた。


「そうはいきません。

 貴方にはここで死んでもらいます。

 本当の意味で...」


ガラスの中にいる王子は、

消えそうな状態の悪魔にきっぱりと言い切った。


『何度も同じ事を言わせるんじゃないよ。

 私は死なない。

 現に一〇〇年前、その剣で刺された私は、

 こうして今の世に蘇っている...』


悪魔は声高らかに笑うと、

呪いを暗示するように王子を睨み付けた。


『復讐してやる。必ずだ』


「それでは困るのです」


王子は漆黒の剣を振り上げ、

大きく振り下ろした。


その剣は、

もうほとんど空気と同化していた

悪魔の姿を真っ二つに裂き、

塵のように飛ばした。


落雷に似た轟音と

絹を裂くような女の悲鳴が同時にあがる。


悪魔の悲鳴ではなかった。


悪魔と契約を交わした

哀れな一人の女の悲鳴だ...。


王子の振り下ろした剣のもと、

悪魔との契約は破棄されたのだ。


「悪魔のとどめは、この黒い剣でなければ。

 貴方と悪魔の契約を断ち切るために」



『...なんという事だ。

 私は死ぬのか...?』



悪魔の姿はもう何処にもなかったが、

苦しげな声だけは聞こえてきた。


聞こえてくる、と言うよりは、

その場にいた者達全員の意識中に

語りかけてきているような感じだ。


「悪魔殺しの剣は

 悪魔一体につき一本だけしか存在しません。

 そして本当に

 悪魔を滅ぼすことが出来たときは...」


王子の手の中で

剣は煙のように姿を消していった。


「村を土砂で潰したのは貴方ですね?

 一〇〇年前、貴方は最後の力を使って、

 とどめを刺されるのを回避したのですね?」



『.........』



王子の質問の答えは生涯、

誰も知ることはなかった...。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ