林檎
ガイアに連れられて、
エレンは大きな林檎の樹の前に連れてこられた。
大きいなんて一言では済まされない。巨
大な林檎の樹だ。
「なんて大きな木...」
エレンは樹の根元まで
歩いていくと顔を上げた。
月明りに照らされ、
大きな塔の様に見える林檎の樹は夜風を受けて
たくさんの梢を揺らしていた。
生い茂る若葉の間に
樹の大きさと比べると、
不釣り合いなほど小さな実がなっていた。
実る時期ではないのに...。
「林檎は神の食物だ。
それを体に取り入れることによって
体内は浄化される。
この林檎を白雪姫に食べさせれば、
悪魔の悪い気は抜けていくだろう」
ガイアは惚けたように
樹を見上げているエレンに言った。
実を取るのは容易な事ではない。
まず樹に登らなくてはいけないのだ。
「私が取ってくるんでしょうか?」
エレンは振り返りガイアを見た。
「出来ることならわしが取ってやりたいが、
林檎は妖精族には取れないのだよ。
なんせ神の食物だからな。
しかし、人間は大丈夫だろう?」
ガイアは少々皮肉っぽく言った。
確かに昔、人間は悪魔に騙され林檎を取った。
でも、その罪で自分に皮肉を言われたって...。
エレンは恨みがましくガイアを見詰め
そう思うと、太く伸びた根子に手を掛けた。
そう簡単に登れるような代物ではない。
根子の部分だけでも、
普通サイズの木と同じくらいの
高さがあるかもしれない。
これほど大きな樹ならば、
城からでも見えるだろう。
今まで気付かずにいたとは、
ドワーフが張る結界と言うものは
たいしたものだな。と
エレンは考えた。
考えているうちに根子部分を
登りきり幹に辿り着いた。
「おーい」
下からガイアの声がしたが姿は見えない。
「なんですか?」
エレンは下方に向って返事をした。
「幹を叩けば実は落ちてくるぞ。
落ちてきた実を一つだけ取るんだ。
いいな、一つだけだぞ」
ガイアの言葉にエレンは頷くと、
力一杯幹を叩いた。
と同時に小さな林檎の実が
滝のように落ちてきた。
「きゃあ!」
エレンは頭を抱えて悲鳴を上げたが、
林檎の方は彼女が嫌いみたいだ。
見上げると、
顔面に向って林檎が落ちて来るのが分かったが、
ぶつかる寸前に器用に方向転換しているのだ。
「な、何? 気持ち悪ーい!」
エレンは落ちてくる林檎を見ながら呟いた。
「早く取らないと、みんな落ちてしまうぞ!」
ガイアの声にエレンは気をとりなおすと、
落ちてくる一つに手を伸ばして、それを取った。
と同時に林檎の落下はぴたりと止まり
辺りに静寂が訪れた。
「これがあれば姫様は助かるのね」
エレンはエプロンのポケット
に小さな林檎を大事にしまうと
慎重に根子を下りていった。