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呪願鏡  作者: ゆかりゆか。
11/17

悪魔

「大体話は分かったが、

悪魔が外に出てきたのならば、

倒すのは困難になったな」


ガイアはカーラと王子についで、

新たな三人の訪問者にお茶を注ぎながら言った。


白雪とエレンの到着に

カーラは胸を撫で下ろしたが、

後一人が王妃ではなく、

二人を助けてここまで連れてきた兵士だったので、

心穏やかになれなかった。


おまけにエレンの話では、

悪魔は王妃に取り付き、

白雪の体を狙っていると言うではないか。


王妃の身が案じられた。


「初めに聞こう。

 皆あの悪魔を滅ぼすことに異存はないな?」


丸いテーブルを囲む様にして

席に付いている者達の顔を見回し、

ガイアは言った。


皆、一様に頷く。


ガイアは軽く咳払いをすると、


「では、悪魔の鏡に...

 あの呪願鏡に姿を映したことがある者」


「あたし、映った」


白雪は手を上げた。


カーラとエレンもお互いに顔を見合わせ

ガイアに視線を移す。


「では、お前さん達三人は、

 悪魔退治には参加出来んな」


ガイアの言葉に、白雪はブーイングだ。


「どうしてよ、なんでよ!

 あたし、お母様を助けに行くわよ!!」


白雪はテーブルを叩いて叫んだ。


「悪魔の監視能力が効くのは、

 呪願鏡に姿を映したことのある人間のみ。

 その他の人間の行動までは知ることが出来ない。

 だから呪願鏡に映ったことのない者しか、

 悪魔に近付けないのだ」


ガイアは、言聞かせるように白雪に言った。


しかし、白雪は膨れっ面をやめず、

一瞬ひらめいた考えを口にしようとした。


しかし、その言葉はガイアの一言によって、

あっさりくつがえされた。


「どんなに上手く変装しても、

 悪魔にはお見通しなんだよ、お姫さん」


なだめるように言われ、

白雪は口をつぐむしかなかった。


「ではどうやって悪魔をやっつけるんですか?

 私達が城に近付けないいじょう、

 鏡のある所にだっていけないわ」


カーラは、先程ガイアに手渡された

鏡を見詰めながら呟いた。


「でも王妃様の手紙を読む限り、

 明け方から昼近くまで、

 悪魔は行動出来ないらしいです」


ポケットのエプロンから手紙を取出し、

エレンが言う。


ガイアは手紙を受け取り、

素早く目を通すと浅黒い眉間に

深く皺を寄せ唸るように声を上げた。


「この時間内だけなら

 悪魔に悟られずに動くことが出来るな。

 しかし数時間だ」


「数時間でも、その隙に城に入って、

 鏡を壊すことは出来るんじゃない?

 あの鏡を割ってしまえば、

 解決する事なんでしょ?」


じれったそうに、白雪はガイアに詰め寄った。


しかしガイアは動じずに首を振った。


「そんなに簡単なものではありませんよ白雪姫。

 王妃様の手紙には、

 王様は悪魔の言いなりだと書いてあります。

 おそらく城では白雪姫を連れて姿を消した

 エレンや兵士のことを誘拐犯に

 でっちあげているだろうし、

 どうやら私も、悪魔には邪魔な存在らしいのよ。

 そんな人間が城に行ったって

 捕まってしまうだけだわ」


カーラはいまいましげに爪を噛む。


「では、ここで城に近付くことが出来るのは

 王子だけか。

 カーラと王子が悪魔についての話をしたのは、

 丁度悪魔が眠っている時間だったろう?」


ガイアは会話に加わらず、

聞き役にまわっている王子に目を向けた。


「でも、よその国の人に頼るのは...」


優雅な手つきで紅茶を飲んでいる王子を、

エレンは申し分けなさそうに見た。


王子はティーカップをソーサーに戻すと、

テーブルの上に置いた剣を指先で撫でた。


「私の国にとっては他人事ですが、

 悪魔の存在を許す訳にはいきません。

 もとはといえば

 一〇〇年前に倒し損ねた悪魔。

 わが国の汚名返上にもなりますし、

 アレフ国が悪魔の手に落ちれば、

 隣国であるゴルゴ国も

 無事にすむとは考えられません。

 それに一〇〇年前の件でおそらく悪魔は

 ゴルゴ国の事を恨んでいるでしょう。

 そう考えれば、私が手を貸すことなど

 造作もないことです」


王子は顔を上げニッコリ微笑んだ。


「それなら話は早い。

 王子には城に入ってもらおう」


ガイアはお気楽に言ったが、

カーラとエレンが同時に声を上げた。


「そんな簡単に入れるものじゃないですよ!」


エレンが責めるようにガイアに言った。


その隣でカーラも頷いている。


「城ではたくさんの人が働いている。

 一人くらい知らぬ顔の者がいても

 不思議はなかろう。

 それに兵士は一ヵ月単位で

 出入りがあるのだろう?」


ガイアが兵士に聞くと、兵士は頷いた。


確かに城を守る兵士は統治国内の若者たちが、

一月毎に、お勤めに来る職である。


「でも証明書がないと入れないんです!」


カーラが駄目押しとばかりに叫ぶ。


「そんなものは造れば済むことだろう」


ガイアが唇の端をつりあげて笑った。


「都合良く、

 ここには偽装が得意なドワーフもいるんでな」






「私ちょっと不安だわ」


窓辺に腰掛け、月を見上げていたカーラが、

剣を研いている王子に言った。


「何がですか?」


王子は剣を壁に立て掛けると、

ベッドに腰掛けた。


丁度カーラと向かい合う具合になる。


カーラは王子を見詰めると、


「王子様が頼りなく思えるからよ!」


カーラは恐れ多くも

王子様にたいして暴言をはいた。


まあ自分の国の王子ではないのだ。


名前で呼んでも罪はないかもしれない。


「人を見かけで判断するのは...」


「見かけじゃなくて家柄よ、育ちよ。

 貴方は王子様なんだから

 一般市民と同じ様な態度が

 とれるかどうかが不安なのよ。

 城の雇われ兵士...

 特にお勤めで来ている統治町や村の兵士達は

 ペーペーなの。

 一番地位が低いの。分かる?」


カーラは王子の鼻っ面を指差し、

確認するように言った。


「はあ...」


王子は気のない返事だ。


「って事はよ、どーでもいい雑用や、

 いい加減なインネンを付けられる事が良くあるの。

 王子様でしょ? 貴方。

 そんなことに耐えられるの?

 まかり間違って、無礼者ー!と

 剣を抜かないとは限らないし...」


「ははははっ」


真剣な面持ちで話すカーラに、

王子はさも可笑しそうに笑った。


「確かに私は王子です。で

 も将来城を継ぐ後継ぎが、

 呑気にこんな所でウロウロしていられると

 思っているのですか?」


もっともな王子の話に、カーラは声を上げた。


「貴方...次男?」


眉を寄せて王子に聞く。


「次男だなんて嬉しいことを言ってくれますね。

私は五番目の王子です。

だから将来的には婿養子に出される運命なんですよ。

だから少しくらい勝手な行動をとっても

王は見て見ぬふりです」


ごろりとベッドに寝転がり王子は笑った。


「でも、こんな大事な剣を持たせるんだから...」


「私の国では悪魔の話など

 今では、ただの御伽噺になっていますよ」


それでも腑に落ちないカーラが何かを言いかけると、

王子が割って入った。


「それに国を脅かす悪魔を倒し損ねたなんて、

 いえると思いますか?

 私の国では一〇〇年前に

 悪魔を滅ぼしたって事になっていますから。

 それに私なんか

 子供の頃から城下に出て遊んでいましたから、

 心配しなくても

 「無礼者ー!」なんて立派な言葉は、

 ちょっと考えなければ出てきませんよ」


王子はカーラを見上げクスクス笑った。


「何か色々大変そうね、他国の王子様も...」


カーラはちょっぴり気の毒そうに王子を見た。






白雪を寝かし付けた後、

エレンは庭に出て夜空を見上げていた。


星は美しく輝いていたが、

今のエレンには、

それを観賞する余裕もなかった。


「コリーシャ、大丈夫かしら...」


城のあるほうを見詰めて呟いた時、

家のドアが開いてガイアが現われた。


「眠れないのかい?」


ガイアはエレンの傍らに立ち彼女を見上げた。


「王妃様は私の小さい頃からの友人なんです。

 いくら姫様を守るためとはいえ、

 王妃様を残して来たことが悔やまれて...」


エレンはエプロンの裾で目頭を押さえた。


ガイアは星を見上げるように顔を上げると、


「王妃様は安全だよ。

 危険なのはむしろ白雪姫の方だ」


一際輝く一等星を見詰め呟く。


「どういうことですか?

 ここに居れば安全だと言ったじゃないですか」


エレンは眉を寄せてガイアを見下した。


ガイアは白雪が眠っているであろう

部屋の窓に目を移す。


「悪魔が毎夜、

 白雪姫の血を吸っていたというのは本当か?」


昼間エレンに渡された

手紙に書いてあった事をガイアは聞いた。


エレンは悪魔の姿を見たことはないし、

本当に白雪の血を吸っていたかどうかは

彼女にも判らないことだ。


しかし手紙に書かれていることが事実ならば

間違いないはずだ。


「多分...」


エレンは自信なさげに頷く。


「どうやら悪魔は

 本気で白雪姫の体をもらうことに決めたらしい。

 体を手に入れるには、

 自分の中に相手の血を取込み、

 相手には反対に自分の気を送り込む。

 乗っ取りやすい魂、

 乗っ取られやすい体にするためだ。

 要するに、白雪姫と体の一体化を

 はかるわけだな。

 まあ結果的には悪魔に体を取られた人間の魂は

 消滅してしまうが」


「では、姫様の体が

 悪魔に近いものになっていると言うんですか?」


エレンが悲鳴じみた声を上げると、

ガイアは小さく頷いた。


「そんな...ではどうすれば...」


エレンは血の気の引いた顔でガイアに聞いた。


「今の白雪姫の体は、

 悪魔の半身と言っても過言ではない。

 悪魔の監視力がこの森に及ばないと言っても、

 自分の気をたどってくれば

 悪魔はここに来ることが出来るはずだ。

 まあ結界の中で妙な魔法は使えんがな。

 だがそれを防ぐことは出来る」


ガイアは大きく息を付いた後、

不安な表情で自分を見下ろすエレンに視線を移す。


「城の様子を探るのは王子の役割。

 その情報をここに運ぶのは、兵士の役割だ。

 女のエレンにこんなことを押しつけるのは

 どうかと思うが...」


「大丈夫です。

 私、王妃様と姫様を助けるためなら

 何でもします!」


言い掛けるガイアの言葉に割って入り、

エレンは叫んだ。


ガイアは頷くと、エレンの手を引いて、

森の奥へと入っていった。



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