09.Sランク冒険者、ステラ
ナールが出発して三日が経った。
今、俺はウッドと二人暮らしをしている。
やはり喋れるようになると、一段階レベルアップだな。
成長したことで、ウッドの出来ることが格段に増えてきた。
最近では朝ごはんの用意は、ウッドに任せているのだ。
「ウゴウゴ! あさごはん、できた!」
といっても、作れるメニューは野菜たっぷりサラダだけだが……。
当然、俺の朝食もサラダオンリーである。
ちなみにウッドのご飯は水だ。
木だからね。仕方ない。
「ありがとう、ウッド」
「どういたしまして、ウゴウゴ!」
今朝のサラダはトマトとキャベツ、カボチャだな。
もしゃもしゃ……ごくん。
……うん、うまい。素材の味しかないが、健康的ということにしよう。
まぁ、これまではひとりだったので、なんでも自分でやらざるを得なかった。
それが任せられるようになっただけでも、ありがたい話だ。
そのぶん、俺は色々なことに時間を使えるようになるからな。
「ごちそうさま。ウッド、見回りに出掛けてくる」
「ウゴウゴ、いってらっしゃい!」
この後、ウッドは日当たりのいいところでお昼寝タイムだ。
働けばいいと言うものじゃない、休むことも大事なことだ。
適度に動いて太陽光を浴びれば、そのぶんウッドは早く成長する。
ウッドも限界まで育てば、ドラゴンなんて目じゃない超強力な戦士になる。
成長――植物魔法だからこそ、俺の生み出したものは強くなるのだ。
楽しみだな。
さて、朝食を食べ終わったら見回りだ。
ついでにニャフ族やアナリアと打ち合わせもしておこう。
次にナールが戻ってきたら、人や物がまた増えるはずだ。
今のうちに打てる手は打っておかないとな。
◇
今日はからっと晴れている。
俺の家の周りにはけっこう家が増えてきた。
そうだよな、全部で二十を超える家があるんだ。
ちょっとした村の規模だ。
……思えば賑やかになったなぁ。ちょっと感慨深い。
「あ、エルト様だにゃん! お探ししていましたのにゃん!」
とことこと走ってきたのは、ナールの代理をしている茶色のニャフ族だ。
そう、ブラウンと言う名前だったか。見たままの名前だけれど、ニャフ族は名前にはこだわらない。
毛並みで見分けるから、別にいいらしいのだ。
しかし珍しいな。わざわざ俺を探しているとは……。
「どうしたんだ、慌てて……何かあったのか?」
「にゃん、家から木の像が見つかったのですにゃん」
「木の像……? そんなのがどこにあったんだ?」
「作っていただいた家にありましたのにゃん。多分こう、にょきっと生えた大樹に巻き込まれて……ですにゃん」
ああ、なるほど。俺の【大樹の家】は地面の下から木が生えてくる。
多少のモノなら、生えてくるのと一緒に地面の外に出てくるわけだ。
しかし、木の像……?
この領地では心当たりはないな。どういう像だろうか。
うーむ、見てみないとわからないか。
「わかった、案内してくれるか」
「はいですにゃん!」
そうしてブラウンに連れられて、俺は像のある家に向かった。
ふむ……到着してみると、確かに像が家とセットになっている。
像は上半身だけ外に出て、下半身は大樹の壁に埋まっていた。
魔法を連続させて作った家なので、気付かなかったな。
埋まっているのは少女の像だろうか。等身大で顔立ちや服装までしっかりと再現されている。
耳が少し尖っているが――ヒト族じゃないのか。
後は、像からわずかに魔力を感じる。魔力を持った木で作ったんだな。
全体的に、いい出来映えのように思えた。
「これですにゃ。かなり古ぼけた像ですにゃ」
「ああ、そうだな……ところでこの木の像なんだが、モチーフはわかるか?」
「もちろんですにゃ! ザンザスの英雄、Sランク冒険者のエルフ、ステラですにゃん!」
エルフ……。森に住み、森とともに生きる種族か。
ふーむ……見れば見るほど、よくできている像だ。
凛として綺麗な顔立ちに、長い髪。買うなら相当なお金が必要だな。
家は殺風景だし、これはインテリアとして飾っておきたいくらいだ。
あ、でもこの像はどういう意味合いの像だろうな。
飾ったらおかしい像だったりはしないよな?
一応、確認しておくか。
「それでこの英雄ステラの像は、どういう意図で作ることが多いんだ?」
「んにゃ? ステラは魔王と戦って深い傷を負って――森に還ったと言われてますにゃん。その偉業を讃え、魔除けとして作るんですにゃん」
「なるほど……家に飾ったら変かな?」
「そんなことはないですにゃん! ザンザスでは人気のインテリアですにゃん」
よし、いいことを聞いた。
と、ブラウンは難しい顔をして腕を組んでいる。
「んにゃん……でも、この像には魔力があるのですにゃ?」
「ああ、そうだな……小さいが魔力を含んでいる」
「やっぱりそうだったかにゃん。なんとなく、落ち着かないのにゃん……」
魔力を持たない平民は、時に魔力を持つものを怖がる。
これは本能的なものだ。恐ろしいものでない、そうわかっていても駄目なのだ。
俺は魔力に慣れているから、そういうことはないのだが。
「ふむ……それなら、俺が引き取ろうか?」
「んにゃ!? 本当ですかにゃん! 実はエルト様を呼びにいったのも、この像をどうしようかと迷ったからなのですにゃん」
「英雄の像なら、うかつに捨てるのも壊すのもな……」
「そうですにゃん。でもエルト様に貰って頂けるなら、その方がいいですにゃん。像も喜びますにゃん」
話は決まった。よし、この像は俺が引き取ろう。
なかなかの出来映えだし、ちゃんと綺麗にして家に飾って置こう。
ただ、その前に像を壁から取り出さないとな。
でも力任せにやると像が傷つきそうだ。
植物魔法で大樹の壁を少し動かすか……。
うん、その方がよさそうだな。
そう思った俺は、腕に魔力を集中させる。
狙いは像のすぐ横だ。
ちょっとだけ壁を動かして、像を取り出すのだ。
「動け、大樹――」
魔力を込めて唱えたが――なぜか大樹は動かない。
あれ、おかしいな。
どうして魔法が発動しないんだ……?
失敗したわけじゃないはずだが。
首を傾げていると、ブラウンの叫び声が聞こえたきた。
んんっ? なんだ、なんだ?
「像が、動いているにゃ~!」
「ふぇぇ…………やっと自由です……!」
……そこには、下半身が壁にはまっているけれど、生きているエルフがいたのだった。
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